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第115話 継ぎ接ぎの堕天使



 ジュッ……ジュウウウウゥゥゥッ!!


 肉を焼くような音が、コクピット越しに響いてくる。

 私は、奪い取ったミカエルの「翼ユニット」を、アヴェンジャーの背中の欠損部に強引に押し当てていた。

 接着剤なんてない。

 右腕の「溶断パイル」の余熱を使い、互いの装甲をドロドロに溶かして無理やり溶接くっつけているのだ。


『やめろ……やめてくれぇぇッ! ボクの翼が……汚されるッ!』


 泥に沈んだミカエルから、アルノの絶叫が聞こえる。

 自分の体の一部を、別の生物に移植されているようなおぞましさを感じているのだろう。


「カイル、回路をつなぐわ。……パスワードなんて知らないから、直結バイパスする」

『お、おい待て! 規格が違うぞ! そんな高出力炉を直結したら、アヴェンジャーの神経系が焼き切れる!』


 カイルの制止を無視して、私は左手の爪をコンソールの奥へと突き刺した。

 私の神経網が、アヴェンジャーの背中で溶け合っている「異物」へと侵入する。


 バチバチッ!!

 脳髄に青白い火花が散った。

 拒絶反応。

 ミカエルのシステムが、『不正なアクセスです』と私の侵入を拒んでいる。清廉潔白な聖女が、野蛮人の侵入を拒むように。


「……うるさい」


 私は歯を食いしばり、強制的に魔力を流し込んだ。

 アヴェンジャーの黒い魔力が、ミカエルの白い回路を侵食し、塗り潰していく。


「私のものになりなさいッ!!」


 ドクンッ!!


 大きな脈動と共に、拒絶反応が消えた。

 代わりに流れ込んできたのは、浮遊感。

 重力という鎖から解き放たれる、絶対的な全能感。


 ブォォォォン……!


 アヴェンジャーの背中で、奪ったユニットが起動した。

 ただし、噴き出したのは神聖な白い光ではない。

 アヴェンジャーの体内で汚染され、血の色に染まった、禍々しい「赤黒い光の翼」。


『あ……あぁ……』


 アルノが言葉を失う。

 泥まみれで、ツギハギだらけの醜い鉄塊。

 けれど、その背中には、彼が神と崇めた翼が、悪魔の色に染まって生えていた。


「……軽い」


 私はペダルを踏んだ。

 スラスターを吹かすまでもない。

 数百トンの重量を誇るアヴェンジャーが、まるで風船のようにフワリと宙に浮いた。

 重力制御。

 私が欲しかった、空への切符。


「見て、アルノ。

 ……貴方の翼、私によく似合ってるでしょう?」


 私は空中で機体を旋回させ、泥に塗れたミカエルを見下ろした。

 かつて彼が私にしたように。

 圧倒的強者うえからの視線で。


『返せ……ボクの……ボクの翼……』

「残念。もう消化なじんじゃったわ」


 赤黒い翼が羽ばたくたび、空間がきしみ、不協和音のようなノイズが撒き散らされる。

 それはもはや兵器ではない。

 天使の羽をもいだ悪魔。

 あるいは、神の座を簒奪さんだつした偽の王。


「さて。

 翼のお礼に、貴方も楽にしてあげる」


 私は右手のパイルバンカーを構えた。

 熱はまだ引いていない。

 次の一撃で、あの白いコクピットを蒸し焼きにする。

 空に浮かぶ処刑台の上で、私は無慈悲に宣告した。


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