第113話 地獄へようこそ
ズズ……ンッ。
土煙が晴れると、そこには異様な光景が広がっていた。
巨大なクレーターの中心で、黒く醜い鉄の塊が、白く輝く騎士の上に馬乗りになっていたのだ。
『ぐ……ッ! 重い……! どけよ、この鉄屑ッ!!』
アルノの悲鳴が響く。
ミカエルが必死に暴れるが、アヴェンジャーは微動だにしない。
当然だ。
私が全身に溶接した廃材と、機体自身の重量。
数百トンの質量が、華奢な高機動型のミカエルを完全に圧殺している。
「……残念だったわね、天使様」
私は操縦桿を押し込み、さらに体重をかけた。
ミシッ、ミシシッ……。
ミカエルの美しい白い装甲が、泥水に沈み、悲鳴を上げて歪んでいく。
「ここは空じゃない。
翼も、スピードも、光学迷彩も役に立たない。
……ただ重くて、硬い方が勝つ世界よ」
『嫌だ……汚い、汚いッ! ボクのミカエルに泥をつけるな!』
アルノはパニックに陥っていた。
戦況の不利よりも、生理的な嫌悪感が勝っているようだ。
潔癖症。
安全な空の上から、綺麗な光で焼くだけの「ゲーム」しかしてこなかった子供。
「泣かないでよ。……とっておきのオモチャを見せてあげる」
私は右のペダルを踏み込んだ。
アヴェンジャーの右腕が唸る。
先端が溶解して塞がり、タングステンの衝角を溶接された、あの醜い腕だ。
ジュワァァァァ……!
内部に封じ込められた高熱が伝導し、衝角がさくらんぼ色に赤熱する。
周囲の泥水が瞬時に沸騰し、白い蒸気が立ち上った。
『な、なんだそれは……!? 熱源反応が異常だぞ!?』
「私の胃袋の中身よ。貴方がくれた光、消化しきれなくてね」
私は赤熱したパイルを、ミカエルの顔面へとゆっくり近づけた。
「熱いでしょう? 苦しいでしょう?
……貴方が空からばら撒いていたのは、こういう痛みよ」
『やめろ……来るな! 来るなぁぁぁッ!!』
ミカエルの胸部から至近距離で光線が放たれる。
だが、アヴェンジャーの胸板に貼り付けた分厚い鉄骨が蒸発するだけで、本体には届かない。
相打ち覚悟の装甲が、ここで生きた。
「ようこそ、地獄へ」
ズボッ!!
私は躊躇なく、パイルを突き下ろした。
狙いはコクピットではない。
抵抗しようと藻掻いていた、ミカエルの右肩だ。
ジュッ、ドロォォォ……!
超高熱のタングステンが、ミカエルのエネルギーシールドごと装甲を溶かし、バターのように貫通した。
断末魔のような金属音が響き、肩の関節が焼き切れる。
『ぎゃあああああああッ!!』
機体の痛覚フィードバックを受けたアルノが絶叫した。
「暴れないで。……まだ右腕が残ってるじゃない」
私はサディスティックな笑みを浮かべ、ねじ込んだパイルをグリグリと回した。
解体作業の始まりだ。
綺麗な天使を、ただの肉塊に変えるための。




