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第11話 虚飾の凱旋





 帝都ヴァルハラ。

 アトラス大陸群の最上層に位置し、一年を通して陽光が降り注ぐ天空の都。

 そこは、下層の島々から搾取した富と魔素によって維持された、人工の楽園だった。


 私が乗った輸送艇が、白亜の王宮エアポートに滑り込む。

 キャノピーが開いた瞬間、鼻をついたのは花の香りだった。

 オイルでも、血でも、火薬でもない。吐き気がするほど甘ったるい、平和の臭いだ。


「――降りろ、特務少尉。陛下がお待ちだ」


 ヴォルゴフ少佐に促され、私はタラップを降りる。

 いつもの油まみれのパイロットスーツではない。今日のためにあつらえられた、純白の式典用軍服だ。

 首元の『隷属の首輪』を隠すように、高い襟がデザインされているのがまた皮肉だった。

 帝國は、飼い犬の鎖を見せるような無粋な真似はしない。


 王宮の大広間は、シャンデリアの輝きと貴族たちの談笑で満ちていた。

 私が足を踏み入れると、その喧騒が一瞬だけ静まり、すぐにさざ波のような囁き声に変わる。


「見ろ、あれが『白銀の魔女』か」

「亡国の王女が、今や帝國の殺戮兵器とはな」

「美しい顔をしているが、中身は氷のようだと聞くぞ」


 好奇の目。侮蔑の視線。

 彼らにとって、私は戦場の泥にまみれた見世物小屋の珍獣に過ぎない。

 私は背筋を伸ばし、仮面のような無表情を貼り付けて赤絨毯の上を歩いた。


 玉座の前で片膝をつく。

 肥え太った軍務大臣が、仰々しい言葉と共に私の胸に『銀翼十字章』をピンで留める。


「帝國の正義のために、汚れ仕事を厭わず遂行したその忠誠。実に天晴れである!」


 拍手喝采。

 その手のひらのどれ一つとして、黒い油で汚れたものはない。

 彼らがこのワイングラスを傾けている間、私は北極海の氷の上で、味方を犠牲にして敵を焼き払っていた。

 リクの叫び声が、耳の奥でフラッシュバックする。


(……この勲章の重さは、あの子の命の重さよ)


 胸元の銀貨が、焼印のように熱く感じられた。

 私は大臣の手を握り潰したくなる衝動を、奥歯を噛み締めてごくりと飲み込む。

 まだだ。

 ここで暴れれば、私は殺され、妹も殺される。

 我慢だ、エルゼ。ただの肉人形になれ。


「――感謝の極みに存じます」


 私は感情のない声で礼を述べた。

 式典が終われば、約束の時間が待っている。

 たった十五分間だけの、報酬。

 妹との面会だ。


 そのためだけに、私は魂を売ったのだから。


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