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第108話 光を喰らう獣



 視界が真っ白に染まった。

 音も、時間さえも消し飛ぶような、絶対的な光の洪水。


 ズゴォォォォォォォォォォォッ!!


 ミカエルの掌から放たれた高密度魔力砲が、アヴェンジャーの右腕――レールキャノンの「顎」に直撃する。

 本来なら、一瞬で装甲を蒸発させ、その背後にいるコクピットごと私を消滅させるはずの熱量。

 だが、私は死んでいない。


「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 私は喉が裂けんばかりに絶叫していた。

 痛い。熱い。苦しい。

 神経接続した左手を通じて、アヴェンジャーが感じている「味」が、脳髄に直接流し込まれてくる。

 それは、タングステンのような重厚な旨味ではない。

 舌が焼け爛れるような、激辛の劇薬。あるいは、煮えたぎるマグマを直接喉に流し込まれているような感覚。


『バカな……!? 直撃しているはずだぞ!?』


 アルノの驚愕の声が聞こえる。

 モニターの輝度補正が働き、白飛びした視界が徐々に戻ってくる。

 そこに映し出されたのは、悪夢のような光景だった。


 アヴェンジャーの右腕。

 上下に裂けたレールキャノンの顎が、迫りくる光の柱を物理的に「噛み止め」ていた。

 ギチギチギチッ……!

 魔力の奔流が、見えない牙に阻まれ、四方八方へと火花となって散っていく。

 その余波だけで、周囲の岩盤が赤熱し、泥がガラス状に溶けていく。


「喰らえ……! 飲み込め……ッ!!」


 私はコンソールに突き刺した左手を、さらに深く、手首までねじ込んだ。

 指先の爪が機体の深部へ到達し、動力炉ハートと完全に同化する。

 私の血管が、機体のパイプとなり、私の魔力が、機体の血液となる。


 ジュッ、ジュワァァ……!

 アヴェンジャーの口内(キャノン内部)で、吸収しきれないエネルギーが暴れ、内側から装甲を溶かし始めた。

 連動して、私の口の中も焼けただれ、鉄の味が広がる。

 吐血した。

 それでも、私は「口」を閉じない。


「エルゼ! 右腕の温度が臨界点だ! これ以上は砲身が溶け落ちるぞ!」

『排熱が追いつかねえ! 強制パージしろ!』


 カイルが叫ぶ。

 警告灯が真っ赤に点滅し、コクピット内はサウナのような熱気に包まれている。


「嫌よ……! もったいない……!」


 私は血の泡を吐きながら、獰猛に笑った。

 こんな高純度のエネルギー、二度とお目にかかれない。

 タングステンの比じゃない。

 これを消化できれば、私たちはもっと強くなれる。

 もっと、上のステージへ行ける。


(……美味しい。熱くて、痛くて……最高に美味しいッ!!)


 狂気じみた食欲が、生存本能を凌駕した。

 アヴェンジャーの背中の放熱フィンが、全て赤熱し、周囲の空気を歪ませる。


 バヂヂヂヂッ!!

 銀色だった機体表面が、高熱によってどす黒く変色していく。

 だが、その奥底で、何かが生まれた。

 吸収したミカエルの光が、アヴェンジャーの動力炉の中で圧縮され、ドス黒い「闇」のようなエネルギーへと変換されていく。


『……ありえない。ボクの光を、食べているのか?』


 ミカエルの動きが止まった。

 アルノは初めて、眼下の存在を「壊れた玩具」ではなく、「理解不能な怪物」として見たのだろう。

 その隙を、私は見逃さない。


「……ごちそう、さまッ!!」


 ガキンッ!!

 アヴェンジャーが、光の奔流を強引に噛み切った。

 行き場を失ったエネルギーが爆散する。

 その爆風を利用して、私は融解寸前の右腕を突き出した。


「お返しよォォォォッ!!」


 ズドォォォォォォォンッ!!!


 レールキャノンの砲口から、今食べたばかりのエネルギーが逆流して放たれた。

 ただし、それは美しい光の柱ではない。

 アヴェンジャーの体内で汚れ、呪いのように重く濁った、赤黒いゲロ・・のような熱線。


『うわっ、汚いッ!!』


 ミカエルが瞬時に光の翼を展開し、回避機動を取る。

 だが、あまりに近距離。

 吐き出された熱線は、ミカエルの左足を掠めた。


 ジュッ!!

 神聖な白い装甲が、一瞬で腐食したように黒く溶け落ちる。


『くっ……! ボクのミカエルに傷を……!』


 上空へ退避したミカエル。

 その完璧だった姿は、左足のくるぶしから先を失い、バランスを崩していた。


 荒野に静寂が戻る。

 残されたのは、溶岩のようにドロドロに溶けた地面と、全身から黒煙を上げながら立ち尽くすアヴェンジャー。

 右腕のレールキャノンは赤熱し、半分溶けて使い物にならないほど歪んでいる。

 私もまた、コクピットの中で全身から汗と血を流し、肩で息をしていた。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 喉が焼けて声が出ない。

 でも、生きている。

 そして、勝てないと思っていた「神」に、傷をつけた。


『……信じられない。本当に下品で、野蛮な獣だね』


 上空から、アルノの声が降ってくる。

 先ほどまでの余裕は消え、そこには明確な嫌悪と、微かな警戒が含まれていた。


『今日のところは帰るよ。

 ……そんな汚いものを食べた直後の君と遊んでも、ミカエルが穢れるだけだからね』


 ミカエルが翼を翻す。

 追撃する力は残っていない。

 私は薄れゆく意識の中で、遠ざかる白い光を見送った。


 勝ったのではない。

 ただ、あまりの「悪食」ぶりに、相手が気味悪がって引いただけだ。

 けれど、それで十分だった。

 私はシートに沈み込み、焼けついた左手を抱きしめて、意識を手放した。


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