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第104話 共鳴する獣



 その夜、私は眠ることができなかった。

 ドックの冷たい空気の中で、銀色に進化したアヴェンジャーの装甲を、ただ無心で撫で続けていた。


 カイルや整備班たちは、勝利の祝杯を上げに街へ繰り出している。

 ドックには私と、この鉄の塊だけ。

 静かだ。

 けれど、私の内側のざわめきが収まらない。


 ドクン……ドクン……。


 心臓ではない。

 左手の甲殻の下にある血管が、嫌なリズムで脈打っている。

 何かが近づいている。

 私の理性ではなく、野生の本能が警鐘を鳴らしていた。

 「逃げろ」と。


「……どうしたの、アヴェンジャー」


 機体を見上げる。

 いつもなら「腹が減った」「敵はどこだ」と好戦的な意思を伝えてくるあの子が、今は小刻みに震えていた。

 これは……怯えている?

 あの陸上戦艦にすら食らいついた暴食の化身が、一体何に?


 ザザッ……ピーーッ……!


 突如、ドックのスピーカーから不快なノイズが流れた。

 緊急回線? いいえ、これは強制割り込み(ジャック)だ。


『――聞こえているか、バルデの薄汚い鼠ども』


 スピーカーから響いたのは、鈴を転がすような、酷く透き通った少年の声だった。

 若く、無邪気で、そして絶対的な自信に満ちた声。


『ボクは帝國軍特務機関のアルノ。

 ……ねえ、そこにいるんだろ? ボクの「オモチャ」を壊したお姉さんが』


 ドキリ、と心臓が跳ねた。

 オモチャ? あの『葬儀屋』たちのことか。


『あのタングステンの杭、ボクが設計した自信作だったんだけどなぁ。

 まさか食べちゃうなんて、下品な人だね』


 アルノと名乗った少年は、クスクスと笑った。

 モニターも映像もない。声だけなのに、まるで耳元で囁かれているような寒気がする。


『でも、感謝してるよ。

 おかげで、ボクの「最高傑作」を実戦投入する許可が下りたからね』


 ズズズ……ッ。

 ドックの床が微振動を始めた。

 地震ではない。

 遥か上空、成層圏から、巨大な質量の何かが垂直に降下してきている振動だ。


「……まさか」


 私はドックを飛び出した。

 夜空を見上げる。

 星々の間に、一つだけ、異常な輝きを放つ赤い光点があった。

 それは隕石のような速度で落下し――バルデの北、荒野の彼方へと着弾した。


 ズドォォォォォォォンッ!!!!!


 地平線が昼間のように赤く染まり、数秒遅れて、鼓膜を破るような衝撃波が街を襲った。

 爆風で窓ガラスが割れ、祝宴に浮かれていた人々の悲鳴が上がる。


 炎の向こう。

 私の強化視力は、爆心地に立つ「それ」を捉えていた。


 白い。

 雪のように白く、そして美しい流線型の竜騎兵。

 だが、その背中からは、機械の翼ではなく、本物の「光の翼」が6枚、天使のように広がっていた。


『紹介するよ、お姉さん』


 少年の声が、脳内に直接響いてくる。

 これは通信機越しの声じゃない。

 私とアヴェンジャーの神経回線に、奴が「共鳴リンク」してきているのだ。


試作機殺しプロトタイプ・キラーにして、次世代の神。

 ……白竜騎兵ホワイト・ドラグーン〝ミカエル〟』


 ズキリ、と左手が焼けるように痛んだ。

 共鳴している。

 あの白い機体の中にいる「何か」と、私の細胞が、互いを「喰らうべきエサ」として認識し合っている。


『夜明けと共に迎えに行くよ。

 ……仲良く殺し合おうね、お姉さん?』


 通信が切れた。

 私は震える手で、自分の体を抱きしめた。

 初めてだ。

 私が「食べる側」ではなく、「食べられる側」になるかもしれないと感じたのは。


 銀色の悪魔わたしの前に現れた、白き処刑人。

 本当の地獄は、ここから始まるのだ。


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