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第103話 銀色の凱旋



 バルデの上空に、銀色の閃光が走った。

 太陽の光を浴びてギラギラと輝くその翼は、かつての煤けた鉄色の機体とは似ても似つかない。

 それは、神々しくもあり、同時に直視する者の目を焼くほどに禍々しかった。


『……すげえ。街中の連中が見上げてるぞ』


 カイルがモニターを見ながら呟く。

 彼の言う通り、バルデの住人たちは足を止め、空を指差して騒いでいる。

 彼らの目には、私たちがどう映っているのだろう。

 帝國の精鋭部隊を喰らい尽くして戻ってきた、銀色の守護神か。

 それとも、血に飢えた空飛ぶ災厄か。


「……どっちでもいいわ」


 私は操縦桿を軽く倒した。

 機体が滑らかに旋回し、艦橋塔ブリッジ・タワーへと降下を始める。

 空気抵抗すら味方につけたような、完璧な機動。

 今の私には、風の音さえ「音楽」のように聞こえる。


 ズズゥンッ……!!


 アヴェンジャーが塔の前の広場に着陸した。

 その衝撃で、敷き詰められた石畳に亀裂が走り、銀色の粉塵が舞う。


「おお……!!」

「見ろ、あの輝きを! 帝國の攻撃を跳ね返した証だ!」

「銀の女神様だ!」


 集まっていた群衆が、波打つように膝をついた。

 拝む者、涙を流す者、狂ったように叫ぶ者。

 その熱狂の渦の中心で、私はコクピットハッチを開けた。


 プシュゥゥ……。

 排気ガスと共に現れた私を見て、群衆のボルテージが最高潮に達する。

 私は、左手の甲殻を見せつけるように手を振った。


「……気持ちいい」


 以前なら恥ずかしくて隠していたはずの異形の手。

 それが今では、王冠クラウンのように誇らしい。

 彼らは私の人間性なんて見ていない。この圧倒的な「力」と「形」を崇めているだけ。

 なら、それに応えてあげるのが女王の務めでしょう?


「……見違えたな、エルゼ君。いや、陛下」


 人波を割って、ヴァルガスが現れた。

 彼もまた、銀色に輝くアヴェンジャーを見上げ、口を半開きにして呆けている。

 計算高い彼ですら、ここまでの進化は想定外だったようだ。


「『葬儀屋』はどうした? まさか、逃げられたわけではあるまいな?」

「ここにいるわ」


 私はポン、とアヴェンジャーの装甲を叩いた。

 カンッ、と硬質で澄んだ音が響く。


「全部食べたの。……彼ら、最高の栄養剤だったわ。

 おかげでそうこうの艶が良くなったでしょ?」


「……食った、だと?」


 ヴァルガスの喉がゴクリと鳴る。

 タングステンの杭を持つ特務部隊が、逆に「餌」にされた。

 その事実は、彼の背筋を凍らせるのに十分だったようだ。


「……底が知れんな。帝國軍も、次の一手には頭を抱えるだろう」


 ヴァルガスは恐怖を押し隠すように、大袈裟に笑ってみせた。

 だが、その目は笑っていない。

 彼は気づき始めている。

 自分が手懐けたつもりだった「番犬」が、いつの間にか鎖を引きちぎり、飼い主すら捕食しかねない猛獣に育ってしまったことに。


「ヴァルガス。次の『食事』はいつ?」


 私はタラップを降りながら尋ねた。

 まだ足りない。

 タングステンは美味しかったけれど、あくまで「おやつ」だ。

 もっと大きく、もっと強い魂を喰らいたい。


「……焦るな。吉報を待て」


 ヴァルガスは逃げるように背を向けた。

 私はそれを見送りながら、舌なめずりをした。

 カイルが複雑そうな顔で私を見ている。

 でも、もう遅い。

 私は知ってしまったのだ。

 敵を喰らって強くなる快感を。神として崇められる陶酔を。

 銀色の翼は、もう地上の倫理には縛られない。


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