第102話 銀色の悪魔
坑道の出口。
崩れかけたバリケードの隙間から、外界の白い光が漏れている。
『ひ、光だ……! 助かった、助かったぞォォォッ!!』
最後の『葬儀屋』が、スラスターを全開にして光の中へと飛び出した。
薄暗い廃坑から、眩しい荒野の真昼へ。
彼は勝利した気でいるのだろう。あの悪夢のような暗闇から生還したのだから。
だが、彼は知らない。
影は、光がある場所ほど濃く落ちるということを。
「……逃がすわけないじゃない」
ズドォォォォォンッ!!
彼が安堵の息を吐こうとした瞬間、その頭上から巨大な質量が降り注いだ。
アヴェンジャーだ。
私は坑道の中を抜けず、薄くなっていた天井の岩盤を突き破り、ショートカットして彼の真上に着地したのだ。
『ガハッ……!?』
アヴェンジャーの右足が、敵機の上半身を踏み潰す。
地面が陥没し、舞い上がった土煙が、彼が見たかったはずの太陽を遮った。
「残念ね。ゴールテープは私の足の裏よ」
『あ……あぁ……』
パイロットの絶望した顔が、潰れたモニター越しに透けて見えるようだ。
私はゆっくりと、踏みつけた足に体重をかけた。
ミシミシと装甲が歪む音が、心地よいBGMのように響く。
「ねえ、教えて。
貴方たちの部隊名、『葬儀屋』って言うんでしょう?」
私は左手のマニピュレーターで、敵機の胸部装甲を強引にこじ開けた。
中から、まだ生きている動力炉が青白い光を放っている。
「誰の葬儀のつもりだったの?」
『ば……化物……め……』
「私の? それとも……自分たちの?」
ブチィッ!!
私は動力炉を配線ごと引きちぎった。
敵機が一瞬で沈黙し、ただの鉄屑へと変わる。
手の中で脈打つ、高純度のエネルギー炉。
私はそれを、レールキャノンの顎へと放り込んだ。
バリバリバリッ!
雷のような音と共に、炉が噛み砕かれ、その全てが私の血肉となる。
「……ふぅ。ごちそうさま」
満腹だ。
4機分のタングステンとエネルギーを平らげた満足感で、思考がトロリと溶けそうになる。
『……おい、エルゼ』
カイルの声にハッとして、私は我に返った。
土煙が晴れ、真昼の太陽が私たちを照らしている。
アヴェンジャーの影が、大地に長く伸びていた。
「どうしたの、カイル? そんな顔して」
カイルはモニター越しに、呆然とした表情で機体を見上げていた。
『自分の姿を見てみろよ。……とんでもねえことになってるぞ』
言われて、私は機体に視線を落とした。
かつては無骨な鉄色だったアヴェンジャーの装甲。
それが今、太陽の光を反射して、鏡のように輝いていた。
タングステンと私の魔力が融合し、全身が「銀色」にコーティングされている。
美しく、そして冷酷な輝き。
それはもはや兵器ではない。神話に出てくる銀の竜そのものだった。
「……綺麗」
私は銀色に輝く右腕を掲げ、太陽にかざした。
「これなら、どんな攻撃も弾き返せる。
もっと食べられる。もっと……強くなれる」
帝國の特務部隊すら、私にとってはただの栄養源でしかなかった。
その事実は、私の中で最後に残っていた「恐怖心」というブレーキを、完全に破壊してしまったようだった。
荒野の風が、銀色の悪魔の誕生を祝うように吹き抜けていった。




