第101話 食卓のマナー
「……化物めッ!!」
仲間の機体を咀嚼される音を聞いて、残った3機の『葬儀屋』がパニック状態で散開した。
冷静沈着だったはずの処刑人たちが、恐怖に駆られて無闇にパイルバンカーを突き出してくる。
ガギッ! ドゴォッ!
杭がアヴェンジャーの肩や脇腹を捉える。
だが、先ほどまでは装甲を貫通していたはずの攻撃が、キンッ!という高い音を立てて弾かれた。
『な……弾かれただと!?』
「……硬いでしょう?」
私はうっとりと自分の機体を見下ろした。
アヴェンジャーの装甲表面に、銀色の粒子が膜のように広がっている。
さっき食べたタングステンの成分が、瞬く間に全身へ行き渡り、防御力を飛躍的に向上させているのだ。
「貴方たちがくれたのよ。この素敵な『殻』を」
私は右腕を振り上げた。
レールキャノンの顎が、ガシャリと開く。
「お返しに、私も『ご馳走』してあげる」
ズオォォォンッ!!
私は最も近くにいた2号機に向かって、開いた砲口から直接、圧縮した魔力波を「吐き出し」た。
射撃ではない。
竜の咆哮だ。
至近距離で熱波を浴びた敵機は、回避する間もなく装甲を溶かされ、ドロドロの鉄屑となって崩れ落ちた。
『ひぃぃぃッ!?』
残る2機が背を向けて逃げ出す。
狭い坑道を、壁にぶつかりながら必死に地上への出口を目指している。
「あら、もう帰るの? 食後のデザートがまだよ」
私はコンソールに突き刺した左手を通じて、アヴェンジャーに意思を送った。
脚部のスラスターが唸る。
今の私たちは、以前よりも重いはずなのに、羽毛のように軽い。
取り込んだレアメタルが、機体のフレーム剛性を上げ、出力伝達のロスをゼロにしているからだ。
ギュンッ!!
一瞬で距離を詰める。
逃げる敵機の背後を取り、その頭部を左手のマニピュレーターで鷲掴みにした。
「捕まえた」
『や、やめろ……! 助けてくれ!』
無線から男の泣き声が聞こえる。
数分前まで「葬儀」だなんだと威張っていた姿は見る影もない。
「食事中に席を立つのは、マナー違反よ」
メキメキッ……!
私は容赦なく握力を込めた。
敵の頭部がトマトのように潰れ、オイルと火花が飛び散る。
「……カイル、あと1匹」
『……ああ、見てる。出口の方だ』
カイルの声は震えていた。
彼には見えているのだろう。
私が敵を殺すたびに、アヴェンジャーの装甲がより深く、より禍々しい色へと変色していく様子が。
最後の1機は、必死に坑道の出口――微かな光が差す場所へと手を伸ばしていた。
だが、そこは希望の出口ではない。
私が用意した「皿」の上だ。
「……逃さないわ。その心臓の味が気になって仕方ないもの」
私はアヴェンジャーを跳躍させた。
天井の岩盤を蹴り、逆さまの状態で敵の頭上へと躍り出る。
影が、逃げる敵機を飲み込んだ。




