第100話 タングステンの味がする
狭い。
坑道の幅は、アヴェンジャーが翼を畳んでギリギリ通過できる程度だ。
対して、『葬儀屋』の機体は一回り小さく、壁や天井を自在に走り回っている。
ガギィッ!!
右後方から飛び出した機体のパイルバンカーが、アヴェンジャーの太腿を掠める。
装甲が弾け飛び、私の太腿にも火傷のような痛みが走った。
『くそっ、動きが捉えきれねえ! レールキャノンを撃とうにも、壁にぶつかって射線が通らねえぞ!』
カイルが悲鳴を上げる。
私の右腕と同化した長大なレールキャノンは、この閉所ではただの「邪魔な棒切れ」でしかなかった。
敵はそれを知っていて、この場所を選んだのだ。
「……賢い。本当に賢い獲物ね」
私は痛みを噛み締めながら、冷静に敵の動きを観察していた。
四方八方からの波状攻撃。
こちらの死角を突き、一撃離脱を繰り返すハチのような戦法。
普通のパイロットなら、パニックになって自滅していただろう。
でも、彼らは一つだけ誤算をしている。
私が「パイロット」だと思っていることだ。
「カイル。……衝撃に備えて」
『は? 何を――』
私は操縦桿から手を離した。
代わりに、自分の左手――黒い甲殻に覆われた異形の腕を、コンソールパネルに直接突き刺した。
ズプッ……!
指先が回線に侵入し、機体の神経系と直結する。
視界が弾けた。
モニター映像ではない。
アヴェンジャーの全身の感覚が、私の脳に直接流れ込んでくる。
360度、すべての振動、空気の流れ、熱源が手に取るように分かる。
(……来た)
真上。
天井の岩盤に張り付いていた1機が、脳天を狙って落下してくる気配。
必殺のタイミング。
『終わりだ、化物』
敵のパイルバンカーが、真っ直ぐにアヴェンジャーの頭部を狙って突き出される。
回避は間に合わない。
カイルが息を呑む音が聞こえた。
ガシィィィィィンッ!!
金属同士が激突する轟音が響き渡る。
だが、私の頭は砕かれていなかった。
『な……っ!?』
敵パイロットの驚愕の声。
アヴェンジャーは、突き出されたパイルバンカーの杭を、右手のレールキャノンで「受け止めて」いたのではない。
レールキャノンの砲身が真ん中から裂け、まるで鰐の口のように開き、敵の杭を噛み止めていたのだ。
「……残念」
私は裂けた砲身の「顎」に力を込めた。
ギチギチギチッ……!
アヴェンジャーの人工筋肉が唸りを上げ、高硬度のタングステン製の杭がきしむ。
「このキャノンはね、ただの筒じゃないの。
……私の『舌』であり、『牙』なのよ」
ベキィッ!!
凄まじい圧力が加わり、敵の自慢の杭が飴細工のようにへし折れた。
『馬鹿な……!? タングステンの超硬度杭だぞ!?』
「硬いから、美味しいんじゃない」
私は逃げようとする敵機を、変形した右腕で強引に引き寄せた。
アヴェンジャーの胸部装甲が開き、無数の触手が歓喜して躍り出る。
「いただきま――」
ズボォッ!!
触手が敵のコクピットを貫いた。
パイロットの断末魔を聞く暇もなく、私は敵機を機体ごと抱きすくめ、そのエネルギーを貪り始めた。
そして、私は折れたタングステンの杭を、アヴェンジャーの口で直接噛み砕いた。
ガリッ、ゴリッ……。
「……っはぁ」
口の中に広がる、渋くて重厚な金属の味。
最高だ。
戦車の装甲なんて目じゃない。
精製されたレアメタルの純粋な味が、私の喉を焼き、細胞を活性化させる。
私の左肩の傷が、みるみると塞がっていく。
それだけじゃない。
食べたタングステンの成分が即座に再構成され、アヴェンジャーの装甲表面に、銀色のコーティングとして現れ始めた。
「……美味しい。タングステンの味がする」
私は血走った目で、残りの3機を見回した。
暗闇の中で、私の右目と、アヴェンジャーのセンサーアイが、同時に赤く輝く。
「ねえ、残りの杭も全部ちょうだい?
……デザートにはちょうどいい硬さだわ」
『葬儀屋』たちが、初めて後ずさりをしたのが分かった。
この瞬間、狩る者と狩られる者の立場は、完全に逆転した。




