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くたびれ四十路の「魔法学園マネジメント」 〜AIの『最適解』は非効率だ。俺の『育成論』で、心が限界な少女たちを救ってみせる〜  作者: いちた


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8/20

第七話:反逆者への、甘くないご褒美

改めてメッセージくれた方ありがとうございました。!


マイペースに投稿します( *・ω・)ノ



高坂陽菜が、ほんの少しだけ笑った。

あの日から、一週間が経った。



オレは、屋上へと続く階段の踊り場で、壁に背を預けながら、自販機で買った安っぽい缶コーヒーを啜っていた。



午後の授業をサボって、ここで時間を潰す。これぞ、オレが二度目の人生で求めていた、最高に自堕落で、平穏な時間だ。



眼下のグラウンドでは、他の生徒たちが魔法の訓練に励んでいる。



色とりどりの光が飛び交い、時折、小さな爆発音がここまで届く。前世で、窓の外に見えていたのは、灰色のビル群と、死んだ魚のような目をした同僚たちの姿だけだった。



それに比べれば、なんとまあ、平和で、ファンタジックな光景だろうか。



コーヒーは、砂糖とミルクがたっぷり入った、ガキ向けの甘ったるい味だ。四十のおっさんの舌には馴染まないが、それでも悪くはなかった。


何にも追われず、誰の責任も負わず、ただ無意味に時間を溶かす。この行為そのものが、今のオレにとっては、極上の贅沢だった。



陽菜の件は、AI『アルカディア』に簡潔なレポートを提出し、受理された。



『被験体:高坂陽菜の一次成長を確認』



あの無機質な通知を最後に、AIからの連絡は途絶えている。

つまり、オレは契約を果たし、ひとまず「廃棄」の危機は免れた、ということだろう。


「……やっと、面倒事から解放された、か」

このまま、誰にも関わらず、空気のように卒業まで過ごす。

今度こそ、その計画を実行できる。

そう思って、最後の一口を飲み干した、その時だった。



「――いた! こんな所にいたのかよ、先生!」

下の階から、階段を駆け上がってくる、けたたましい足音。

その声だけで、オレの貴重な平穏が終わりを告げたことを悟った。



息を切らして姿を現したのは、他でもない、陽菜だった。その手には、なぜかデータパネルが握られている。




「……何の用だ、陽菜。オレは今、世界の終わりについて考えてる」

「うっそつけ! どうせ面倒くせえとか考えてただけだろ!」


図星だった。



陽菜は、オレの隣に立つと、ぷくっと頬を膨らませて、そのデータパネルをオレの顔の前に突きつけてきた。



そこに表示されていたのは、オレが先日AIに提出したレポートのタイトルだった。



「ていうか、先生! このレポートの最後に書いてあった、『また逢う日まで』って、一体どういうことだよ!」


「あ?」



「とぼけんな! まるで、もうボクとは会わないみたいな、これで終わりみたいな! そういう意味だろ、これ!」



どうやら、レポートの閲覧権限が、被験者である彼女にも共有されていたらしい。



しまった。あれは、短編として物語を締めくくるための、作者としての都合……じゃなくて。



「……いや、あれは、だな。レポート全体の締めくくりとして、今後の更なる飛躍を期待させる、詩的な表現というか、まあ、そういうレトリックだ。前向きな展望を示すことで、読み手(AI)にポジティブな印象を与える、ビジネス文書の常套句で……」

「言い訳が長い!」

オレの苦しい弁明は、一刀両断された。



陽菜は、じとっとした目でオレを睨みつける。


「絶対、ボクとの関わりをこれで終えて、逃げる気だったんだろ! ボクが泣きついてこなければ、もう話しかける気もなかった! そうなんだろ!」

「……」


四十のおっさんが、十代のガキに、創作上のメタ的な都合を問い詰められている。


面倒くせえ、を通り越して、新しい地獄だ。



「大体、先生はまだボクの先生なんだからな! 勝手にいなくなられたら、ボクが困るんだよ! この前だって、友達に相談された時、うまく答えられなかったんだからな!」



「知るかよ。それはお前の問題だろ」



「先生のせいだろ! 先生が、ボクに『なんで?』とか『強みは?』とか、変なことばっかり教えるから!」



そう言って、彼女は顔を真っ赤にしている。

その姿に、前世で育てた部下たちの面影が重なり、オレは柄にもなく、少しだけ、口元が緩んだ。



面倒だが、まあ、悪くない。


こういう時間が、前世のオレには、決定的に足りなかった。

――その、まさに直後だった。


ピコン。


オレの視界の隅にだけ、半透明のウインドウが、音もなくポップアップした。



AI『アルカディア』からの通知だ。



さっきまで胸にあった、温かい感情が、急速に冷えていくのを感じた。



『被験体:高坂陽菜の一次成長を確認。あなたの提出したレポート内容を分析し、育成理論の有用性を評価しました』



「……ちっ」


「ん? どうかしたのかよ、先生? 腹でも痛いのか?」

「いや、なんでもねえ」

オレの額に冷や汗が滲む。



陽菜の能天気な声が、やけに遠くに聞こえた。

やめろ。来るな。もう、オレを解放してくれ。



『これより、より大規模な実証実験に移行します』

終わった。



オレの平穏なセカンドライフ計画が、木っ端微塵に砕け散る音がした。



『あなたの提唱した【個体差を考慮した育成理論】の限界値を測定するため、次なる課題を提示します』



目の前のウインドウに、無慈悲な文字列が浮かび上がる。

隣では、陽菜が「そういえばさー、今日の授業の……」と、まだ何かを喋っている。


その声が、まるで、嵐の前の静けさのように、不気味に響いていた。

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