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くたびれ四十路の「魔法学園マネジメント」 〜AIの『最適解』は非効率だ。俺の『育成論』で、心が限界な少女たちを救ってみせる〜  作者: いちた


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第十八話:何もしない時間、最初の『安全』



ーー翌日の放課後。


旧校舎、『第三魔法薬学準備室』の扉が見える、少し離れた物陰。


オレたちは、息を殺して、その時を待っていた。




「本当に来るかな…? あんなこと言われたのに…」


陽菜が、祈るように指を組み合わせて、落ち着きなくソワソワしている。



「来ます」


答えたのは、ミオだった。


彼女は、データパネルを操作し、廊下の微細な魔力反応や音響変化をモニタリングしている。


その瞳は、獲物を待つ鷹のように鋭い。



「…接近する個体を確認。生体認証…一条院凛です」


オレは、壁に背を預け、腕を組み、目を閉じていた。


だが、その意識は完全に研ぎ澄まされ、廊下の先の気配に集中している。




約束の時間、ぴったりだった。律儀な奴だ。




やがて、一つの、躊躇いがちな足音が、ゆっくりと近づいてくる。


そして、ギィ、と音を立てて、準備室の扉が開かれた。


姿を現した凛の表情は硬く、昨日よりもさらに憔悴しているように見える。


彼女は、周囲を警戒するように見回した後、深呼吸を一つして、意を決したように部屋の中へと入っていく。



扉が閉まる音を聞き届け


陽菜が「…来た!」と小さな声でガッツポーズをする。



ミオも「…第一フェーズ、クリアです」と、わずかに安堵の息をもらした。



オレは、まだ目を開けない。


「問題は、ここからだ」



ミオが事前に仕掛けておいた、AIには検知されない微弱な魔力を使った盗撮用の小型ドローンが


室内の様子をオレたちのデータパネルに映し出す。


部屋に入った凛は、まず立ち尽くし、それから室内をゆっくりと歩き回った。




やがて、窓際の椅子に腰掛けるが、全く落ち着かない。


指先で机をトントンと叩き、貧乏ゆすりをし、何度も立ち上がりかける。



彼女は、ーー魔法を使いたくてーーたまらないのだ。



身体が、習慣が、そして「練習しなければ」という強迫観念が、彼女を突き動かそうとする。



しかし、オレの「魔法禁止」という命令が、それを縛り付けている。



一度、彼女は無意識に指先に魔力を集めかけた。


だが、その瞬間に、ハッとして自分の手を、まるで汚いものでも見るかのように、強く抑え込む。失敗の恐怖が蘇りかけたのか、彼女の呼吸がわずかに乱れた。



「うぅ……見てるこっちが辛いよ……」


隣で、陽菜が顔を歪めている。



「……心拍数、上昇。ストレスレベル、高止まり。ですが、トリガーとなる魔法行使が行われないため、パニックには至っていません」


ミオが、冷静に、しかし険しい表情でデータを読み上げる。



「見とけ」


オレは、苦しそうな陽菜に、あえて冷たく言った。


「あれが、『意味のないカラ残業』に脳ミソを焼かれた奴の末路だ」


「……カラ残業?」


陽菜が、不思議そうな顔でオレを見る。



「ああ。あいつにとって、魔法の練習は、もはや『努力』じゃねえ。『練習しごとをしていないと、不安で死にそう』っていう、強迫観念だ。ずっと練習場にいねえと落ち着かない、可哀想な『仕事依存症』が」



「あ……」



「まず、その『意味のないデスマーチ(死の行進)』から、強制的に引きずり下ろさなきゃ、話にならねえんだよ」



長く、苦しい一時間が過ぎた。



凛は、一度も魔法を使うことなく、ただ時間だけをやり過ごした。



終了時刻ぴったりに、凛は、まるで重労働でも終えたかのように、ぐったりとした様子で部屋から出てくる。


その表情には、昨日見せたパニックの影はなく、ただ深い疲労の色だけが浮かんでいた。



彼女が、よろよろと廊下を歩いていると、曲がり角で、他の生徒と軽く肩がぶつかった。




その瞬間、凛は、ビクッと雷にでも打たれたかのように体を震わせ、ほとんど悲鳴のような声で叫んだ。




「ご、ごめんなさ……!」



過剰なまでの謝罪。


だが、ぶつかった生徒は「ああ、悪い」とだけ言って、気にした様子もなく去っていく。



AIからの警告も、周囲からの非難もない。



ただ、それだけ。



凛は、その場に立ち尽くし、自分の体が、まだ小刻みに震えていることに気づいていないようだった。



その一部始終を見ていたオレは、眉をひそめた。


(……なるほどな。根は、もっと深いか)




三人が、物陰で合流する。


「どうだったんだよ、先生? ただ座ってただけじゃんか…」

陽菜が、不安げに尋ねてくる。



ミオは、データを指し示しながら報告した。


「生理的ストレス反応に、わずかながら『慣れ』の兆候が見られます。継続することで、条件反射的なパニックは抑制可能かと」


「……ああ。『冷却期間』は成功だ。ねつは下がった」


オレは、先ほどの廊下での光景を思い出しながら、腕を組んだ。


「だが、どうやら、あいつの『風邪』は、思ったより『持病』に近い。……クソ、面倒くせえな」



「じゃあ、どうするの、先生!?」


「決まってるだろ」


オレは、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「……次の『指示書』、少し書き直すぞ。第二段階フェーズだ」

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