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くたびれ四十路の「魔法学園マネジメント」 〜AIの『最適解』は非効率だ。俺の『育成論』で、心が限界な少女たちを救ってみせる〜  作者: いちた


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第十三話:盤上の診断(アセスメント)



図書館の静寂が、まるで固唾をのんで、盤上のゲームの始まりを見守っているかのようだった。



挑発的に笑うオレ。


冷徹な分析の目でオレを見つめ返すミオ。


そして、何が起きているのか分からず、ただオロオロする陽菜。



三人の視線が、古い書架の陰で交錯する。




先に沈黙を破ったのは、女王の方だった。


オレの「“先生”?」という挑発に対し、ミオは一切動じない。彼女は、オレのデータパネルを自分の前に置くと、その冷たい声で、この場の空気を完全に支配した。



「“先生”? 馬鹿なことを。あなたは、初歩的な計算ミスをいくつも犯したレポートを提出した、ただの生徒です」



彼女は、長い指先で、オレのデータパネルの縁を、とん、と軽く叩いた。


「……座りなさい。訂正を始めます」


その圧倒的なオーラに、隣の陽菜が「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。



だが、オレは内心で舌を巻きつつも、笑みを崩さなかった。ああ、そうだ。こうでなくちゃ、面白くない。



オレは、言われるがまま、彼女の向かいの席に深く腰掛けた。陽菜も、おずおずとオレの隣に座る。



盤上のゲームが、静かに始まった。



「まず一点目。


代替案として提示された『一生消えない灯り』の市場価値算出モデルが、あまりに楽観的すぎる。

需要予測のパラメータが、最低でも三つ欠落しています。


次に二点目、リスク評価があまりに杜撰です。

この技術が民生品に転用された場合の、情報漏洩リスクと、それに対するセキュリティコストが一切考慮されていない」



ミオは、オレがレポートの中に意図的に仕込んだ「論理的な穴(計算ミス)」を、一分の隙もなく、完璧に、冷徹に、指摘していく。



その声には、一切の感情がない。


まるで、出来の悪いプログラムのバグを、一つずつ読み上げていくかのように、淡々と、しかし的確に、オレのレポートを解体していく。



「先生……完全に、負けてるじゃんか……」

陽菜が、青ざめた顔で囁く。



その通りだ。このディベートにおいて、論理の上では、オレに勝ち目は万に一つもなかった。



だが、オレは一切動じない。



むしろ、ミオの指摘の一つ一つに、「ああ、そこにも気づいたか」「なるほど、その視点はなかったな」と、感心したように、楽しそうに相槌を打っていた。



その反応が、ミオの眉を、ほんのわずかにひそめさせたことに、陽菜は気づいていない。



やがて、ミオは全ての矛盾点を指摘し終えると、ふう、と小さな息をつき、勝利宣言にも似た問いを投げかけた。



「これで、あなたのレポートがいかに非効率で、無価値なものか、理解できましたか?」



それに対し、オレは満面の笑みで、あっさりと頷いた。

「ああ、完璧な分析だ。さすがだな。オレの負けだ」

「はぁ!?」

陽菜が、素っ頓狂な声を上げる。



ミオですら、そのあまりにあっさりとした敗北宣言に、わずかに目を細めた。計算外の反応だったのだろう。



オレは、楽しそうに、続けた。



「だがな、ミオ。そのレポートは、ビジネスプランなんかじゃねえ。お前を診断アセスメントするための、ただの『テスト用紙』だ」



「……なんですって?」



「オレは、あのレポートで、三つのことを測っていた」



オレは、指を一本ずつ折りながら、種明かしを始めた。

「一、お前が、自分の専門外のロジックの矛盾を、見抜けるかどうか。

二、見抜くのに、どれくらいの時間がかかるか。

そして三つ目、最も重要なことだ。『矛盾を見つけた後、お前が何をするか』」



オレは、ミオの目を、まっすぐに見つめた。

「そして、お前の答えは『何もしない』だった。お前は、この欠陥だらけのプランの、どこがダメかを指摘するだけで、『じゃあ、どうすればもっと良くなるか』という、改善案を一切提示しなかった。ただ、相手を論破して、自分の優位性を確認して、終わりだ」



その瞬間、ミオの鉄壁のポーカーフェイスが、初めて明らかに、大きく揺らいだ。


彼女は、今まで考えたこともなかった視点からの指摘に、言葉を失う。


オレは、最後の一撃を、容赦なく叩きつけた。



「お前は、世界で最も優れたデバッガー(間違いを見つける者)だ。だが、自分では一行もコード(価値)を書かない。お前は、このプロジェクトの『批評家』ではあっても、『当事者』じゃない。 それこそが、お前という最高の頭脳が、この図書館の片隅で腐っている、最大の『非効率』の正体だ」



その言葉を叩きつけた瞬間、ミオの鉄壁のポーカーフェイスが、初めて明らかに、大きく揺らいだ。



彼女は、今まで考えたこともなかった視点からの指摘に、言葉を失う。



ただ、その瞳が、大きく、大きく見開かれている。



その表情を見た瞬間、オレの脳裏に、いくつもの光景がフラッシュバックした。



四十年の社会人生活で、オレが何度も見てきた、「正しすぎる」人間の末路だ。


ああ、そうか。そういうことか。



こいつは、ずっと一人で戦ってきたんだ。



自分の圧倒的な正しさを武器に、そして鎧にして、周囲の非論理的な人間――それは、かつての教師だったのかもしれないし、クラスメイトだったのかもしれない――を、斬りつけてきた。



そして、その正しさ故に孤立し、心を凍らせ、自分は「間違いを指摘するだけの『批評家』なのだ」と、呪いのような役割を、自らに課してきた。



オレは、その鎧の、名前を、無意識のうちに、完璧に言い当ててしまったのだ。



ミオは、何も言えなかった。

ただ、その瞳の奥で、激しい嵐が吹き荒れているのが、オレには分かった。



その瞳の奥で、激しい嵐が吹き荒れているのが、オレには分かった。


生まれて初めて、自分以外の「他人」という存在に、彼女は、強烈な興味を抱いていた。



この男は誰だ?



なぜ、私のロジックではなく、私の「在り方」そのものを、見抜いている?



この男の隣にいれば、自分は、ただ間違いを指摘するだけの存在から、何かを「創り出す」存在に変われるのかもしれない――。



その、抗いがたい感情の奔流に、彼女自身が、戸惑っていた。



オレは、そんな彼女に、悪魔の契約を突きつける。

「どうだ? オレのプロジェクトの、最高の『批評家』になってみないか? オレのやり方の非効率な点を、徹底的に批判しろ。そして、お前が正しいと思う『改善案』を、オレに叩きつけてみせろ。お前は、今日から、このプロジェクトの『監査役』だ」



長い、長い沈黙。



やがて、彼女は、小さな声で、しかしはっきりと、こう答えた。



「……いいでしょう。あなたのその非論理的な試みが、いかにして『より効率的』になり得るのか、最後まで見届けてあげます」



悪魔の契約が成立した、その瞬間。

陽菜が、全く空気を読まずに、ぱっと顔を輝かせた。

「え、じゃあ、三人で、仲間ってことか!? やったー!」



その言葉に、ミオは、生まれて初めて見る宇宙生物でも観察するかのような、心底不可解な顔を、陽菜に向けた。



オレは、その混沌とした光景を見て、ただ深く、深いため息をつく。



「いや、陽菜……これは、地獄の始まりだ……」

個性の全く違う三人が、一つのテーブルを囲む。

彼らの奇妙な「チーム」が、今、正式に結成された瞬間だった。

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