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くたびれ四十路の「魔法学園マネジメント」 〜AIの『最適解』は非効率だ。俺の『育成論』で、心が限界な少女たちを救ってみせる〜  作者: いちた


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第十話:相棒との、最初の(無謀な)作戦会議



「……先生? 聞いてるのかよ?」



陽菜は、教室の窓際で物憂げに外を眺めるオレの机の前に、自分の椅子を引きずりながらドン、と座り込んだ。



まるでそれが、元からそこにあった定位置であるかのように。



「先生、おはよう! で? 今日の作戦は?」

彼女は、朝からカフェインをキメたかのようなキラキラした目で、オレに問い詰めてくる。



ああ、もう二度と「おはよう」で一日が始まることはないんだな、とオレは悟った。



「作戦名『現状維持』。何もしないのが最善の策だ」



「却下! 昨日、ボクと契約しただろ! 『絶対に足手まといになるなよ』って言ったのは先生じゃんか!」



(クソ、こいつ、昨日までのしおらしさはどこに行ったんだ……完全に調子に乗ってやがる……)



オレは内心で深いため息をつきながら、缶コーヒーを啜った。昨日の今日で、もうオレの平穏な日常は、太陽のような(そして嵐のような)少女によって、完全に過去のものになってしまった。



だが、不思議と、前世で感じていたような嫌な気はしない。



むしろ、オレのこの鬱屈とした学園生活に、無理やり彩りを加えられているような、そんな、少しだけ面白い感情が芽生えている自分に気づく。



これはきっと、四十年のキャリアで培った、プロ意識によるものだろう。……たぶん。



「まあ、いいか。とりあえず、作戦会議だ。放課後、いつもの場所に来い」

「おう! 了解!」

陽菜は元気よく返事をすると、まるで自分の席に戻るかのように、自分の椅子を引きずって去っていった。



いつもの場所。


もちろん、図書館の隅だ。

あそこなら、AIの監視カメラの死角になる場所も多い。




放課後。


図書館の、最も古びた書架の陰。二人だけの秘密基地で、オレと陽菜は向かい合って座っていた。



「で? 先生。あの幽霊……じゃなくて、水瀬ミオさんをどうやって攻めるんだ?」


「攻めるとか言うな。コンサルティングだ」


オレは、データパネルを取り出し、ミオの資料を陽菜に見せた。


「まずミオだが、こいつは典型的な……」

「『図書館の幽霊』だろ! 知ってる! いつもあの奥にいて、誰とも話さないんだよな!」



陽菜は、まるで自分の功績のように、胸を張って答える。



「……まあ、そう呼ばれてるらしいな。で、次のターゲット、一条院凛は…」

「『氷の女帝』! でも最近は『堕ちた天才』とか『ガラスのエース』とか、なんかかわいそうな呼び方されてる」



「……お前、意外とゴシップ好きだな」



「情報収集は基本だろ! 先生だって、ボクのこと、入学前から知ってたじゃんか!」



「……それは、まあ……」



オレは、AIから強制的に送られてくる『被験体データ』という、合法的な個人情報流出を思い出し、言葉に詰まった。



「最後の鬼塚大牙は? ボク、あいつとはあんまり関わったことないんだけど……いつもなんか、怖い目してるよね」

陽菜は、三人の顔写真を見て、それぞれの『学園内での評判』を語っていく。



オレの『元人事コンサルのプロファイリング』と、陽菜の『学生ネットワークからのゴシップ(情報収集)』。



二つの視点が合わさることで、ターゲットの人物像が、より立体的に浮き上がってくる。



「……ミオだが、あいつはコミュニケーションを拒絶しているわけじゃない。ただ、それが『非効率』だと判断しているだけだ。感情というバグを嫌っている」



オレは、改めてミオの『呪い』の本質を説明する。



「ふーん……。じゃあさ! ボクが、笑顔で話しかけたら、もしかして、デバッグできるんじゃない?」


陽菜は、自信満々の笑顔で、そう提案した。


「人間、気合と笑顔でなんとかなる!って、先生も言ってたじゃんか!」

「……オレは、そんな安っぽい根性論は言った覚えはねえ」

(前世で何百回も見た、典型的な失敗パターンだ……)



オレは頭を抱えそうになったが、陽菜のやる気を削がないように、ぐっと堪えた。



「……まあ、いいか。失敗するのも経験だ。お前の『コミュニケーション能力』とやらを、見せてもらおうじゃねえか」



オレは、内心で「盛大に玉砕して、自分の無力さを知れば、少しは大人しくなるだろう」と、黒い笑みを浮かべた。



だが、陽菜はそんなオレの思惑など露知らず、「任せとけって!」と、力強く胸を叩いた。




そして、作戦決行。



二人は、図書館の奥にあるミオの「聖域」へと向かった。



陽菜は、まるで舞台女優のように、深呼吸を一つすると、練習してきた最高の笑顔で、ミオの机の前に立つ。



「あのー、水瀬さん? 同じクラスの高坂陽菜です! よかったら、少しだけお話ししませんか?」


その様子を、少し離れた書架の陰から、オレは「ああ……言わんこっちゃない……」と頭を抱えながら見守っていた。



ミオは、ぴくりとも動かない。



その視線は、本に注がれたまま、一ミリたりともこちらを向かない。



陽菜は諦めず、天気の話、今日の授業の話、おすすめの本の話、と一人で喋り続ける。



まるで壁に向かって話しているかのように、全てが無反応で、ただ空虚に、陽菜の声だけが響く。



だが、陽菜は、まだ諦めなかった。



「あのさ! ボク、この前までちょっと落ち込んでたんだけど、先生に相談したら元気になれたんだ! だから、水瀬さんも、もし何かあったら、その……」



その時だった。



ミオは、ゆっくりと、本のページを一枚、パラリ、とめくった。



その乾いた紙の音だけが、彼女からの、完璧な「拒絶」の返事だった。



まるで、「あなたの話は、私の人生のノイズでしかない」と、そう言われているかのようだった。



「うわー……」



流石の陽菜も、その完璧な無視には、心が折れかけたらしい。



彼女は、すごすごとオレの元へ戻ってくるなり、絶望的な顔で報告した。



「……先生。あれは、壁だ。ボクには見えた。心の壁が、物理的に見えた」


「お疲れさん。初陣としては、見事な負けっぷりだったな」


オレは、笑いをこらえながら、陽菜の肩を叩いてやった。

図書館の外に出ると、夕日が傾きかけていた。



「うー、悔しい……!」

陽菜は、ベンチに座り込み、両膝を抱えて本気で悔しがっている。



オレは、自販機で買った安物の缶ジュースを一本、彼女に投げてやった。



「まあ、最初の失敗としては上出来だ。これで、『普通のやり方は通用しない』っていう、貴重なデータが取れた。これも立派な成果だ」



「……先生が言うと、失敗したのに怒られてないみたいで、変な感じだ」



陽菜は、缶ジュースを受け取りながら、少しだけ頬を染める。



「じゃあ、どうするんだよ、先生……?」


陽菜が、今度は、少しだけ尊敬のまなざしを込めて、オレの顔を見上げる。



オレは、図書館の入り口を、まるで難攻不落の城を攻める将軍のような目で、そして、少しばかり悪辣な笑みを浮かべながら見つめた。



「言葉が通じない相手には、言葉以外の方法で話しかけるしかねえ」


「言葉以外の方法……?」

オレは、悪びれる様子もなく、ニヤリと口角を上げた。


「……陽菜。明日から、少し面倒で、陰湿な『仕掛け』を始めるぞ」



陽菜は、「また面倒なこと考えてる……」と呆れたような顔をしながらも、その瞳の奥には、どこか楽しそうな、そして期待に満ちた光を宿していた。

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