表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くたびれ四十路の「魔法学園マネジメント」 〜AIの『最適解』は非効率だ。俺の『育成論』で、心が限界な少女たちを救ってみせる〜  作者: いちた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

第九話:一番弟子の、痛烈な指摘

ま、まだまだぁ!!



「……大丈夫かよ、先生?」

心配そうに、陽菜がオレの顔を覗き込む。



そのまっすぐな瞳に、オレは、なんと答えるべきか、分からなかった。



大丈夫なわけがない。


だが、こんなガキに、自分の絶望的な状況を話してどうなる?


「……ああ、問題ない」

オレは、無理やり口の端を吊り上げて、そう答えた。



だが、陽菜は、もう騙されてはくれなかった。

彼女は、オレの手からデータパネルをひったくると、そこに表示されたAIからの指令――三人の育成、三十日の期間、そして、失敗すれば全員記憶消去という、絶望的な契約内容――を、その目で見てしまった。



「……な……」

陽菜の顔から、さっと血の気が引いていく。



「なんだよ、これ……。ボクだけじゃなくて、先生も……それに、この三人も……」


「陽菜、それは……」


「……ふざけるな!」


彼女は、わなわなと震えながら、叫んだ。



「なんで、先生ばっかり、こんな……! ボクを助けてくれたのに、なんで!」

その瞳には、怒りと、そして、どうしようもない無力感への涙が浮かんでいた。



オレは、彼女から静かにデータパネルを取り返すと、その電源を落とした。



「……お前の知ったことじゃない。これは、オレとAIの契約だ。お前は関係ない」


「関係なくない! ボクだって……!」

「黙れ」



オレは、これ以上ないほど冷たい声で、彼女の言葉を遮った。



「いいか、陽菜。これはガキの遊びじゃねえんだ。オレが失敗すれば、記憶を消される。それだけだ。お前を巻き込むわけにはいかねえんだよ。足手まといになるだけだ。わかるな?」



それは、彼女を突き放すための、最も合理的で、そして、最も残酷な言葉だった。



前世で、後輩を守れなかった後悔。


二度と、目の前で誰かを壊させたくない。その一心から出た、不器用な優しさだった。



陽菜は、オレの言葉に、ぐっと唇を噛みしめた。



俯いて、その瞳から涙がこぼれ落ちるのを、オレはただ黙って見ていた。



これでいい。


これで、こいつはこの面倒事から手を引くはずだ

――だが、次に顔を上げた陽菜の瞳には、もう涙はなかった。



代わりに宿っていたのは、まっすぐな、怒りの光だった。

「……ガキって言うなよ。ボクたち、同い年じゃんか」


「ぐっ……!」



思わず、言葉に詰まる。



そうだ。忘れていた。


四十年の魂がいくら喚こうと、このガワは、こいつと同じ十代のガキだった。



その一瞬の隙を、陽菜は見逃さなかった。



彼女は、涙の跡が残る頬のまま、一歩、オレに詰め寄る。



「それに、足手まといになるかどうかは、先生が決めることじゃない! ……答えてよ、先生。ボクを助けるの、大変じゃなかったのかよ?」



「……は?」



予想外の質問に、オレは虚を突かれた。



「ボク一人を助けるのですら、先生は毎日、ボクのことばっかり考えて、ボクの話を聞いて、ボクのために時間を使ってくれた! そうだろ!?」



「……まあ、仕事だからな」



「なのに、今度は三人もだぞ! しかも、ボクとは全然違う、もっと大変そうな奴らを、たった一人で、同時にだ! そんなので、本当に手が回るのかよ!」



彼女は、畳み掛ける。



その言葉には、難しいビジネス用語など一つもない。


だが、その代わりに、彼女自身の「経験」からくる、圧倒的な説得力があった。


「先生が一人で抱え込むのは、一番『効率が悪い』だろ! 先生の『時間』と『心』が、絶対に足りなくなる! それこそが、一番の『リソース不足』じゃないのかよ!」



それは、オレが彼女に教えた、小難しいフレームワークではなかった。



オレの行動を見て、彼女自身が学び取り、自分の言葉で再構築した、生きたロジック。



その刃が、今、そっくりそのまま、オレ自身の喉元に突きつけられていた。



オレは、何も言えなかった。



目の前にいるのは、もう、雨の中で泣いていた、か弱い少女じゃない。



オレの武器の本質を理解し、それを使いこなし、そして、師であるはずのオレの矛盾を的確に撃ち抜いてくる、一人前の「相棒」だ。



オレは、観念して、天を仰ぎ、この世の終わりのような、深いため息をついた。



「……ああ、クソ。面倒くせえ……」


「……じゃあ」

「……わかったよ! 手伝え! その代わり、絶対に足手まといになるなよ!」



「――当たり前だろ!」

陽菜は、初めて見せる、太陽のような笑顔で、力強く、にっと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ