第8話『聖女?』
そんなウィスティレ……に同化した悪魔による悪女計画は、手始めに“豚の屠殺”から始まった。聖女の力で拳を強化し、脂ぎった肉の塊を殴る!殴る!殴る!
思いっきり身体を動かしてひとまず満足したウィスティレに、新たな大神官から与えられたのは目が飛び出るほどの大金だった。思いのままに、服や宝石をありったけ買い漁り、悪女らしい高飛車な態度で振る舞っても、神官達は「おいたわしや……」と目に涙を浮かべるだけで、聖女を咎めない。その反応にちょっと不満を持ちながらも、悪女を目指すウィスティレが次に目を向けたのは、食だった。
大神殿に持ち込まれたのは、辺境領に現れた巨大な熊の討伐依頼。もちろんウィスティレは大量の肉が食べたい一新で、即座に辺境領へと駆け付けた。
驚いたことに、ブラッドクローと呼ばれる熊には、なんと悪魔が関係していたのだ!ウィスティレと違い魂を食い、完全に悪魔が主導権を奪っていたので、人間の虐殺を楽しんでいたのはその悪魔だったのである。命乞いをする悪魔をきっちりとぶん殴って森ごと消し飛ばし、ようやくありつけた熊肉。独特の匂いがあって硬い、と聞いていたが、辺境領伝統の手法で調理された肉は大変美味しかった。
その後、各地を遊び歩くついでに小神殿に訪れていたら、泣いているボロボロの娘を見かけた。そういえば人間世界の小説で見たが、「悪役は貧乏人を札束で頬を殴るもの」らしい。なら、目の前の小娘はちょうどよいのではないか?早速ウィスティレは、買ったは良いがもう飽きたネックレスを娘に投げつけた。何故か夜会では感謝されたが、意味が分からない。
侍女が故郷で起きた災害に泣いていた時、嫌がらせで「食べるものがないなら木の皮でも食べてれば?」と言っただけ。美味しいと話題のパン屋に行ったら、そこの息子が事故に巻き込まれてパンを買うどころじゃなかったから助けただけ。竜は単純に下僕にしたらかっこいいと思っただけ!!!!
何をやっても、全てウィスティレの良い評判に繋がってしまうのである。だからあの全く関わりの無かったローガンに“悪女”と呼ばれた時なんて、「アタシがやってきたことは間違いじゃなかった!」と嬉しかったのに。結局、ウィスティレは聖女のままだ。でも諦めない!ウィスティレが目指すは暗黒聖女!次はもっとちゃんとした、断罪劇を引き起こさせてやるんだから!
……悪魔との融合で、とんでもなく長い寿命を得た聖女ウィスティレがペットのポチと、この聖アルバドロ王国を出ていくまで後10年。
これからも、数々の伝説を打ち立てて、悪女どころか伝説聖女として崇められるのはもっと先のお話……。
END.