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第2話『神殿』


「……つまり、罪を認めるというのだな。」


「罪ぃ?意味が分からねーですわね。」



 まさか、ウィスティレが堂々と罪を認めるとは。ローガンは呆気に取られながらも、ウィスティレに確認をする。だが彼女はキョトンとして、全く罪の意識が無いらしい。



「前まで着せられていた古臭いドレスなんかより、今着てるドレスの方が似合うでしょう?アタシは聖女なんだから、とにかくゴージャスなやつが欲しかったのよね。コレ、いくらだったかしら?」


「貴様、どこまでふざければ……ッ!!」


「ふざけてねーわよ、アタシはせ・い・じょ!

好きなだけ贅沢して何が悪いの?」

 


 クルクルとその場を回り、ドレスの裾が翻るのを楽しそうに見るウィスティレ。そして、自分が行ってきた悪行を反省するどころか「何言ってんだコイツ……」という視線をローガンに送った。当然、プライドの高いローガンがそれに黙っていられる訳など無く。



「何をほざくか!!衛兵、この聖女を騙る悪魔を牢へ連れていけ!」


『……お待ち下さい!』




 キレにキレたローガンが衛兵にウィスティレ捕縛を命じた瞬間、人混みの中から声が上がった。貴族の波を掻き分けて、現れたその人は。



『無礼と自覚しております。

ですが王太子殿下、まず私の話をお聞きください。』


「大神官ではないか。まさか貴様、この悪女を庇うつもりではあるまいな!そもそも、神殿の管理が杜撰なせいで……」


『はい、その通りでございます。

此度の事は、我等神殿の罪ですから。』



 現れたのは、王族にも並ぶ権力を持つ大神殿のトップである壮年の男性……大神官であった。最近大神官になったこの男性は、すっと背筋を伸ばし、真っ直ぐにローガンを見据えた。



『聖女様のドレスは“適正な金額”です。

むしろ、彼女には足りない。』


「……は?」


『お恥ずかしい話ですが、先代大神官とその取り巻きが不正を行い、聖女様への寄付金や予算を使い込んでおりました。半年前にそれが発覚するまで、この御方への給金は、皆無だったです。』


「なんだと!?」


『聖女様のお食事は神官と同じ様にパンとスープのみ。外へ出る事も許されず、金のためにひたすら民へ奉仕させられるだけの生活だったのですよ。』



 新しい大神官からの暴露、それは神聖なはずの大神殿のトップが私利私欲のために聖女を利用し、私腹を肥やしていたという事実だった。しかも神官……“修行”と称される彼等の食事と同じ物を年頃の女性が強いられていた。そんな事実を聞いて、貴族達に激震が走る。



『王家から送られていた、王太子殿下の婚約者としての予算も全て使われており……聖女様も我等神官も、半年前まで、それを知りませんでした。


故に、聖女様は与えられたドレスと服を着回すしかなかったのです。清貧たるは我等神官のみに課せられた修行であるはずなのに……!』


「アタシ、初めてオーダーメイドでドレスを作ったのよ。今までの補填としてお金をたくさん貰えたもの。」


『王太子殿下、聖女様は神殿に来てから十数年、先代大神官から「清貧たれ」「贅沢はするな」「口を出すな」「国に尽くせ」と洗脳され、理不尽を耐え忍んできたのですよ。』



 ニコリと笑うウィスティレに向けられる周囲の目が、困惑から同情に変わっていく。当然だ、本来なら聖女は王族よりも立場は上。大神官も聖女より下である。それなのに、先代大神官は聖女を軽んじ、利用し……許される事ではない。


 元々、歴代聖女は慎ましい性格の女性が多く、此度もそうなのだろうなと思われていたのだが、まさか洗脳されていたせいだったとは。誰も味方のいない場所で、それを当たり前と信じておかしいと思う事すら出来ず、孤独に耐えさせられていた。そりゃあ聖女も目覚めた反動で自由を満喫したくなるだろう。


 そして、それと同時に王太子へ向けられる視線は冷たい。どうして次期国王であるのに、それを知らないのか。そもそも婚約者でありながら、おかしいとは思わなかったのか。



「な、何故それを俺に言わなかった!」


『聖女様が大神官達に天罰を下し、アレらの罪が判明した際に国王陛下へ報告いたしました。そこから先は王族内の話でございます。陛下にお聞きください。』



 ある日突然、大神殿内に悲鳴が響き渡った。大神官の部屋から聞こえたそれに大急ぎで神官達が駆けつけると、顔をボコボ……パンパンにして地面に倒れ伏す大神官と、大神官が食べていたらしい豪華な食事にウィスティレが笑顔でかぶり付いている姿があった。そこで神官達は、大神官の堕落と聖女の飢えを知ったのである。勿論、即座に調査がなされ、資金の横領、聖女への洗脳が発覚した。現在、罪人達は大神殿の地下深くで“反省中”だ。


 ジロリ、と新たに大神官に選ばれた信心深い男に睨まれ、ローガンは勢いを無くす。確かに臣下を通して報告は受けていたが、ローガンの中のウィスティレは、儚く、物静かで、大人しい女だった。国王陛下から厳命され、義務で参加したお茶会でも、ずっと下を向いた無口な暗い女という印象しかなかった。地味でつまらない奴だと、ほとんど交流を持った事がない。いつもカビ臭い服を着た貧乏性の女だから要らないだろうと、ドレスを送った事だってない。それについて、ウィスティレは文句を言わなかった。


 つまり、自由を得たウィスティレを勝手に“堕落した”と勘違いしたのはローガンなのである。だがこのままでは引き下がれない。大丈夫だ、ウィスティレの悪魔の所業は他にもある!



「……だ、だがその女には、他にも森林の無断伐採や動物虐待の罪が……ッ!」


『それについては、わたくしから説明させていただこう。』






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