最終話 願いを捨てた国の末路
かつて、聖女ラナのいた国――ガルセリナ王国。
民は繁栄を謳い、王族は贅沢を重ね、
その中心にいた少女の存在を、誰もが忘れたふりをした。
彼女がいなくなってから、一年。
国は静かに、だが確実に、崩れていった。
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最初は些細な変化だった。
作物が育ちにくくなり、井戸の水が濁った。
だが、それが“彼女がいなくなったせい”だと気づく者は少なかった。
それでも、崩壊は加速した。
王族たちの病が次々と悪化し、
貴族の財産は不自然なほど目減りしていった。
「ラナ様の“願い”が、私たちを支えていたのでは……」
「いや、まさか……」
気づいたときには、遅すぎた。
セシリアは夜な夜な鏡を見て、泣き喚いた。
「こんな醜い顔……私じゃない……!!」
「どうして!? あの女を捨てただけなのに!!」
アレスト王子は、床に伏していた。
「ラナ……戻ってきてくれ……なあ……ラナ……」
「もう、お前の願いにすがらないと……生きていけない……」
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やがて、民は国を捨て始めた。
病と飢えに耐えきれず、隣国を目指して逃げ出す者も現れた。
そして噂は流れた。
「隣国には、天女のように美しい姫がいる」
「彼女は、ただ微笑んでいるだけで――花が咲き、国が富んでいく」
それがラナだと知った者たちは、恐怖に震えた。
自らが捨てた少女が、
世界を照らす“希望そのもの”だったのだと。
取り返そうとしても、もう遅い。
ラナは、“幸せになる”ことを選んだ。
誰の願いも叶えず、ただ“愛されて、愛する”ことで。
それが、世界に祝福をもたらし、
ラナを捨てた者たちには、破滅を落とした。
――こうして、ガルセリナ王国は滅んだ。
「願いを叶える少女」を、
最後まで道具としてしか見なかった者たちに、救いなど、与えられなかった。