表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

おまけ ――ずっと未来の話――

「隊長ー、こっちの処理、終わりましたー」

「わかった。逃すなよ」


 隊員からあがった声に、(つがい)対策機関の第一隊長、カーライル・アースキンは鋭い声で指示を飛ばした。


「あとは移送だけだな。ミレイユは、お嬢さんについててやれ」


 女性隊員のミレイユは「承知いたしました」と答えると、番被害にあった若い人間の女性のところまで歩み寄った。ベッドの上でシーツを被ったまま、真っ青な顔でガタガタ震えている彼女に淡々と声をかけている。

 らちがあかないと思ったのか、シーツに包んだまま、両脇と両膝の下に腕を回して女性を持ち上げると、ミレイユは浴室と思われる部屋へと消えた。もう一人の女性隊員であるベリンダが肩をすくめ、こういうときのために支給されている女性用の着替えを手にして後につづく。


 残された隊の全員がそれを無言で見送って、女性陣が見えなくなったところで、そろえたように大きく息をついた。


「あのお嬢さんも、どうして、わざわざ番封じを外すかねえ」


 隊員のひとり、フランクの嘆息に、別の隊員デニスが「まじ、それなー」と応じる。


「他種族が竜人国への入国する際には、番封じを付けることが義務化されていますし、もし自分の意志で番封じを外したときには、一切の人権・安全が保障されないって明記されているんですけどね。なにかあっても訴えないという書類にサインもしているはずですし」


 副隊長のハロルドが腕を組んだ手を顎に当てて、首をひねる。

 入国管理室に務める人間の女性を恋人に持つデニスが、頭に手をあてて「あー」とうなる。


「なんだ? なにか知っているのか?」


 カーライルの問いかけに、デニスはしぶしぶといった様子で答える。


「えーとですね。彼女から聞いた話なんですけど。先王陛下と王配殿下って、すっごく奥さんを溺愛しているじゃないですか。それが人間の国に伝わって、竜人に愛されると幸せになれるって感じに噂になっているらしくって」

「それで?」

「その、番になる目的での若い女性の入国が増えているって、彼女が」


 ぴきりと空気が凍った。


 その話をしたときの彼女の態度が、多分に呆れを含んでおり、ブリザードが吹き荒ぶような冷たい言い方だったのを、デニスはよく覚えていた。

 番被害の悲惨さや、番封じが推奨される理由、番対策機関設立の経緯など、いろいろ実情を知る身としては、「え? 人生終わりにしたいの?」という感想しか出ない。


 確かに、先王陛下も王配殿下も、竜人らしく伴侶である奥方を溺愛しているが、その溺愛が幸せかどうかは、受ける相手の価値観によるだろう。

 はっきりいって、溺愛と束縛は、紙一重だ。


 先王陛下の場合は、奥方の側から片時も離れず、移動の時にはつねに抱き上げて、自分の片腕に座らせている。おとなしく腕におさまっている先王陛下の奥方の目が、死んだように光を失っているのは、有名な話だ。

 さらには、ご不浄にまで付いていこうとして奥方の逆鱗にふれ、魔法で物理的に近寄ることを禁じられた。戒めが解けるまでの一週間は、先王陛下の狂乱ぶりがすさまじく、近くにいた者たちの寿命がかなり縮まったと聞いた。


 王配殿下は、それよりは、まともではあるが、ワーカーホリックぎみの陛下を執務室の椅子から適宜強制的に引き剥がしては、ニコリともせず手ずからご飯を食べさせている。

 給仕行動は、竜人にとって愛情表現のひとつであるが、甘さのカケラもなく、それが自分の義務であるかのように淡々と食べさせる姿に、周りは戦慄したものだ。書類を見ながら口元に押しつけられるものを、疑問も抱かずパクパク食べている陛下がまた怖い。

 寝るときも、陛下の両脇を支えて幼い子どものように抱きあげ、寝室まで運んでいく姿に、目を疑った者が多数。今はもう、なにも見なかったふりをして、そっと視線をそらすのが、王宮の常識となっている。

 日常生活のすべてが、王配殿下の手に委ねられていることに疑問はないのか、畏れ多すぎて陛下に尋ねた強者は、まだいない。おそらく、尋ねようとした瞬間に王配殿下に消される。


 カーライルが、ごほんと咳払いをしてつづけた。


「わかった。俺から上層部に報告を入れておく。もし番と出会ったら、男だろうが女だろうが、強姦一直線だと入国時にはっきり説明するよう提言も添える」


 ほっと空気がゆるんだところで、フランクが手をあげた。


「あ、はい、隊長。俺、質問が」

「なんだ?」

「先王陛下が番に初めて会った時に襲わなかったって聞いたんですけど。そんなこと可能なんですか?」


 ふたたび空気が凍った。

 カーライルがため息をつく。


「先王陛下が異常なんだ。特殊例すぎて参考にならん。忘れろ」


 フランクが、デニスにこづかれる。雰囲気を変えるように、先般配属された新人ダドリーが慌てて言葉を継いだ。


「にしても、これ、すごいっすね! 制圧、一発だったじゃないですか!」


 番に狂った竜人を止めるのは命がけ、が、常識だ。それが、隊に支給されている封印石をひとつ展開するだけで、無力化できる。隊員たちにはありがたい、優れものなのだ。


 ベッドから引きずり下ろし、金属製の紐で縛りあげた竜人が、気絶したまま部屋の隅に転がっている。


「ああ、おまえ、封印石を使うの初めてだったか」

「番取り締まりの実働、初めてっす」

「俺も理論はよく知らんが、番の音色を感じる器官を破壊して、その衝撃で行動不能にするらしい」

「……仕組みを聞くと、えげつないっすね」

「先王陛下の奥方の作ですよ」


 にこにこと笑いながらのハロルドの言葉に、隊員たちは首をすくめた。


 先王陛下の奥方が、その以前の生でどんな仕打ちを竜人から受けたか、番対策機関に所属する者は言い聞かされている。今は魔女になった本人は、会えばからっとした明るい女性だが、番対策に作っている道具はまったく容赦がない。

 封印石も、封印というよりは破壊することに主眼が置かれており、使われた竜人は廃人と化すことが多い。

 そのため、封印石の使用は厳格に基準が設けられていて、管理も非常に厳しいものになっている。

 

「まあ、なんだ。奥方のおかげで、俺たちも死人を出さずにやっていられるからな。とりあえず、感謝しておけ」


 カーライルの言葉に、隊員たちは真面目にうなずく。


 竜人は独立不羈(ふき)。他人に頭を下げることを良しとしない種族だ。現王陛下が『番とは神の呪いである』と発表したあとも、信じていない者も多い。

 そのため、番対策機関には、純粋の竜人は少なく、他種族との混血が多数を占めていた。そうすると、力負けする場面も出てくる。それを補うのが、先王陛下の奥方が作る道具だった。


 まだ封印石が開発される前は、番対策機関の長であった先王陛下が、番に狂う竜人を「頭、悪いよね」と言いながら片手で捻り潰していたのを、カーライルは覚えている。


「とにかく。先王陛下と奥方は怒らせるなよ」


「はい」と返事を返す面々に、カーライルは重々しくうなずいた。


「そういや、おまえ、プロポーズは成功したのかよ」


 フランクが、手持ち無沙汰にデニスに尋ねる。


「おまえ、今ここで、それ聞く?」

「あ、お察し」


 がくりとうなだれたデニスの肩を、フランクが慰めるようにぽんぽんと叩く。


「先輩、プロポーズしたんっすか!?」


 ダドリーのあげた声に、ハロルドが「傷をえぐってはいけませんよ」とたしなめる。

 その言葉に、デニスはさらに肩を落とした。


「……番封じの耳飾りがほしいって言ったら、『壊れたならちゃんと申請しろ。支給品を私にねだられても困る』って言われて」


 聞いていた全員が、ぶっとふきだす。


「いや、おまえ、駄目だろう、それは。どんなプロポーズだよ」

「先輩、どうして、耳飾りなんすか」


 フランクとダドリーの言葉に、ハロルドが答えた。


「そういえば、王配殿下がプロポーズに、番封じの耳飾りをねだったんでしたっけ」

「いや、王配殿下はその前にきちんと『番いたい』と、現王陛下に告げているぞ? そのプロポーズを受け入れるなら、返答として番封じの耳飾りがほしいって言ったんだ」


 カーライルの言葉に、男性陣はいっせいにあきれた視線でデニスを見る。

 デニスはがっくりと座り込むと、頭を抱えた。


「ずいぶんと賑やかでしたね。なにかございましたか?」


 浴室から戻ってきたミレイユが尋ねる。


「お嬢さんの様子はどうだ?」

「落ち着くのにもう少しかかりそうです。今はお湯につかっていただいていますわ。ひとりになりたいとおっしゃるので、出てまいりましたの」


 公爵家の令嬢であった人間を母にもつミレイユは、丁寧な言葉で告げる。たおやかで優しげな態度だが、番被害への対応はカーライル以上に苛烈であることを、ダドリーをのぞく全員が承知している。なんでも、昔馴染みが番被害にあったことがあるのだとか。


 つづけて出てきたベリンダが、ざっと周囲を見回した。


「まだ、それ、転がしてあるんですか? 一応、被害者なんで、彼女の目に入る前に運びません?」


 鎖で縛られ、床に転がされたままの竜人を指さす。

 まっとうな意見に、「そうだな」とカーライルはうなずくと、デニスとフランクに運ぶよう指示を出した。


「なに騒いでたの?」


 ベリンダの問いに、ダドリーがペラペラと事情を語る。

 呆れた色を瞳に浮かべて、ベリンダは「馬鹿なの?」と一言だけ感想を述べた。

 ミレイユは、困ったように微笑んで首をかしげると、デニスを追いかけて耳元でささやいた。


 後日、十二本の赤い薔薇と指輪をささげてプロポーズを成功させたデニスが、ミレイユに心から感謝したことは言うまでもない。


 なお、この出来事を聞いた現王陛下は、政策の一貫として、『種族別愛の表現方法』なる書物を編纂・発行させた。先王陛下と現王陛下の例は、特殊すぎるとして、書物に記されなかった。

 その後、種族間でのすれ違いが減ったかどうかは、記録に残されていない。


夕飯を作っていたら、わちゃわちゃ喋りだした奴らがいたので、書き足してみた。

お待たせすることなく公開できて、よかったです。


短編一話で終わるはず、だったのになあ。

なんでこんな規定ができたか説明しようとしたら、こんなことに。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ