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最後までみっともない恋の告白

作者: 椎名正

 恋とか愛なんて物は実際には存在しない。幽霊やお化けみたいな物だ。空想から作り出された概念が、みんなの共通認識で語られているだけだ。

 だから、恋をしているなんて言う奴は、川で河童に遭遇したと言い張る奴と同じで、みっともない奴だ。

 と、小学生の時の私は思っていた。

 そして、高校生になった私は、とてつもなくみっともないことになっている。



 そもそも、私は何もかもが劣っている。

 器量も性格も能力も一般平均よりだいぶ低い。

 姉が一切勉強しないで合格したこの高校にも、毎日五時間の勉強を続けてようやく入学できた。

 水泳教室に通い続け、泳げるようになったのは去年。

 勉強もスポーツも、たくさんの練習をしてようやく人並みに追いつける。

 恋の告白も練習するしかない。

 隣の席のギャルに恋愛指導を頼んだ。

 ギャルは初め私を馬鹿にして適当なアドバイスをしていたが、そのうち真剣になって一緒に告白の台詞を考えてくれるようになった。



 私が好きになった人は、私と同じ放送委員で、昼休みの放送の当番で一緒になることが月に一度ある。そのとき、放送室の中でふたりきりになる。

 そこで告白することに決めたのが三か月前のこと。

 三か月前も、二か月前も、一か月前も、私は告白できなかった。

 ギャルの西岡さんは、私を責めずに肩に手を置いてくれた。

 おそらく、私は今日も告白ができない。

 いや、違うだろう。

 私は放送室のいろいろな機材が置かれた机をバンバン叩いて気合を入れる。

 何のために西岡さんに手伝ってもらったんだ。

 私がこれからやることは、好きな人に好きと伝える。そして、デートの申し込みをする。それだけだ。

 放送室のドアが開き、私の好きな人が入ってくる。



 初めに声が裏返った。

 用意していた告白の台詞が、まったく違うものになった。

 何度もとちり、鼻水が出た。

 そうして、告白を終えると、私の好きな人は言った。

 君の友達の西岡さんはいい人なんだね。

 伝わらなかった。

 当然だ。

 私が喋った内容は、好きな人のことも告白のことも一切なかった。西岡さんがいろいろ相談にのってくれたことを、中身をぼかして語っただけだった。

 変なテンションで自分の友達のことを話す女だと思われただろう。

 でも、このまま誤魔化して、告白は後日することにできるんじゃないか。

 駄目だ。

 やるんだ。

 私は告白をやり直した。



 情けない。

 私の頬に涙が流れているが止められない。

 私は喋り続けている。好きな人に初めて会った時の思い出や、自分のコンプレックスのことなど。

 告白には必要のないことだ。

 でも、私は自分の喋る内容を制御できない。

 二度目の告白は、やはり好きだと言えずに終わった。



 私はみっともなく三度目の告白をする。

 ドラマや漫画なら、スマートに短く一回で終わる告白を、私は何度もやり直す。

 昼休み時間の四十分をかけて、ようやく、私はあなたが好きですということができた。



 さて、私のみっともない告白の話を聞いてもらったのだが、最後ぐらいはスマートに終わりたいと思う。

 私の告白に対しての、答えは秘密にしておこうと思う。

 西岡さんだけに、この恋の告白の結末を話そうと思う。

 それがスマートな終わり方だ。

 そんなことを思いつつ、放送室から教室に戻る途中で担任教師に呼び止められた。

 「ええっと、その、おめでとう」

 おめでとう?

 普段は厳しい担任教師は、遠慮がちに私に言った。

 「あのね。私は教師だから注意しなくちゃいけないんだけど、放送機材が乗った机をバンバン叩くのはやめてね。古い機材だから振動で勝手にスイッチが入ったりするのよ。マイクがオンになると、ええっと、その、放送室での会話が校内放送されちゃうからね」



              おわり


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