【番外編】遊園地の乗物待ち
最後尾3時間待ち。うーん、気乗りしないけど好きな女の子とならすぐか。そう自分に言い聞かせて列に並ぶ。
楓はというと待ち時間を見てもテンションが高い。「3時間ってウケるねー」なんて言いながら、列が動けばスキップでもしそうだ。
かく言う俺も遊園地に来る道中、延々と今並んでいるアトラクションの魅力について熱弁されていたため、結構楽しみである。
「ウィーン、3時間入力サレマシタ!暇潰シモード!オン!」
楓が腕をLにしてロボットになっている。
「やったぁ!暇潰しロボットだぁ!暇潰しの道具をだしてくれ〜」
当然乗っかる。
「テレレレン!東大の赤本〜!」
「いや、天才過ぎてナンプレ感覚で東大の赤本解いてます。じゃねーから!」
2人でゲラゲラ笑いながら喋っていたら、突然一つ前に並んでいた人相の悪いの男性が振り向く。
「おい!少し声押さえてくれませんかねぇ!」
急だったため、少しびっくりしてしまったが、すぐに2人で「すみません」とぺこぺこ頭を下げた。
「驚き桃の木山椒の木だったね」
と楓はペロっと舌を出して頭をコツンと叩く。
あ、こいつ全然止める気ないな。
楓はあまのじゃくである。行けと言われれば行かず、止まれと言われればハンドスプリングをするような女だ。中2の時も自分のことを叱り付けた先生に対して、そいつが笑うまでボケ続けた程だ。
「帰ろっか…」
ボリュームでかいって!損をしたら面白いと思ってる奴はこれだから。
しかしながら無視をする選択肢はない。遊園地で他人に注意をして楽しさに水を差すサイコパス野郎とかわいい幼馴染を天秤にかけると、GO!である。
「半分まで並んだんだから、せっかくだし乗ろうよ」
「でも、もう嫌いになっちゃった」
「まだ乗ってないのに!?」
「うん、もうイヤイヤの実モデルジェットコースターなんだけど」
「中途半端なワンピ○ス知識のギャルみたいなこと言わないでさぁ、俺も乗りたく無いんだし!」
パンッと楓の平手打ちが俺の頬を鳴らす。本当に当てるパターンのやつだ。
「乗りたくないアトラクションに並んでいる男なんてサイテー!」
「もういい…帰る」
俺は鞄からサングラスを取り出してかける。
「なんや、ねーちゃん?一人か」
「うるさい」
「一人かゆーてんねん、聞こえとんのか?」
「聞こえてる、うるさい」
楓は髪をくるくるしながら太々しく携帯を見ている。なんかリアルだ。
「あっちにな、かわいいねーちゃんにピッタリな、ジェットコースターがあんねん。ちょっとついてきてまんがな」
「放して!私に違うジェットコースターをアテンドしないで!放して!!ザ○キ!!」
「即死呪文!?」
「えー、続きましてー」
「いや!うるせーなー!」
前に並んでいた男が痺れを切らして、グイグイと列をかけ分けてどこかに行ってしまった。
楓を見るとヘヘッて照れている。ドラゴン討伐した英雄かよ。
あと、圧倒的にこちらが悪い。なんつーか、こちらの悪が上回ったみたいな。まぁ、楽しいからいっか。楓はいつのまにか片腕だけ大きいタイプのカニの真似をしている。
…この夜、2人に滅茶苦茶なバチが当たる。