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「あーつっかれた」


 街を全部見て回って、治療できる人には治療をした。結果としては著しくなかったが、それでも助けることが出来た人もいた。

 でもきっと恨まれることはあっても感謝されることはないのだろう。それをあたしは受け止める事しか出来ない。

 ……お尋ね者とかになったらどうしよう。


「…………まぁどうせ逃げてきたようなものだし、なったらなったね」

「?」


 首を傾げる少女。その胸には未だに傷跡が残っていた。


「あとはあんたのそれね。どう直せばいいのかしら。痛みはある?」


 人形が好きで医療を勉強して治し方を知ってはいても人形の直し方は流石に専門外だった。それこそあたしが出来ることは取れた腕を嵌めなおすぐらいである。


「わかんない」

「わかんないの?」

「今までは痛みなんて感じなかったけど、さっきここが変だったの」


 少女は空洞が出来てしまった心臓の部分に手をあててさする。


「え、それって大丈夫なの? 今はどんな感じ? どうもない?」

「わかんない。土埋め込めば直るかも」

「そんなんで治るわけないでしょうが!」

「そうなの?」

「そうなの! もう……貴方、木の枝のときといい物事に対して無頓着過ぎるのよ」

「そうなの」

 

 空洞に指を引っ搔けて弄る少女を見て、動きに支障はなさそうだけれどやっぱり何かがあるのだろうかと気になる。


「今も変かどうかは分からないの?」


 動いたら痛むとかそういうことなのかしら。それとも欠けたせいで何か不具合を起こしているとか、何か他に要因があるのかしら。

 人形とはいうが一般的な人形とは訳が違う少女は今まで勉強してきた中で一番難解かもしれない。


「わかんない」

「そう……とりあえず様子見をするしかないわね。いい? とにかく貴方は何かあったとき、まず行動をする前にあたしに話をしに来なさい」

「どうして?」

「それは自分の胸に手を、……当ててもまだ分からないのよね。そうね、あたしも貴方の事を一緒に考えさせてほしいからかしら」

「そうなの?」

「そうなの。だから貴方が思ったことや、気持ちも教えて欲しいの」

「……思ったこと。さっきのも言う?」

「さっきっていつの時?」

「ここが変だったとき」

「そのとき何か思ったの?」

「さっきこの人死んじゃうかもって思ったらこの欠けた部分の辺りが痛くなったの。だから私、変になっちゃったんだって思ったの。もしかして私、壊れちゃったのかな」


 その言葉にあたしは目を丸くしてしまった。

 だけれど確かにあたしが男に刺されそうになった時、どうしてわざわざあたしを庇うように間に入ったのか不思議だった。例えゴミ認定されていなかったとしてもそれは攻撃されない理由であって、庇われる理由ではないのにと思っていたのだけれど。あぁもう本当にこんなことになってしまったのが悔やまれる。


「違う、違うわ。壊れてない」

「それに自分も大切にしろって言われてたのにボロボロになっちゃった。私、へーきなのに大切にしようとしたからいけなかったのかな」

「平気じゃなかったからあんなことをしたんでしょう」

「? 私、へーきだよ?」

「あんたは今、平気じゃないのよ」

「私はずっとへーきだよ? そうやって生まれたから」

「生まれたって……あっ!」


 もしかしてずっと言っていたへーきという言葉は平気と言っていたのではなく、


「私は兵器って言ってたの?」


 昼にお店で会ったとき、手を握るかどうか迷ったときのへーきじゃないのにって言葉。あれはあたしが酔っぱらっていたから平気じゃなさそうだけれど大丈夫なのかと聞いていたのかと思ったけれど、もしかして兵器じゃない人に兵器の私が握ってもいいのかと言っていたの?


「? 私はへーき(兵器)だから壊れてもへーき(平気)なんだよ」

「そんなことあるわけないでしょう。……貴方はただの兵器じゃない」


 悔しさにこぶしを握り締める。


「私、へーきじゃないの? やっぱり私、壊れちゃった?」

「違う。違うの! 兵器だとしても平気だと言わなくてもいいの。兵器だと決めつけられた生き方じゃなくて、決める生き方をしてもいいの……貴方は今までもへーきじゃなかっただけなの」

「私、へーきだけどへーきじゃなかったのに決める生き方をしてもいいの?」

「きっとこの町の人たちみたいに一つの生き方しかさせてもらえないときもある。でも他の誰が止めてもあたしの前ではへーきにならないで」


 決められた生き方なら仕方ないのかもしれない、けれど決めつけられた生き方は苦しいし寂しい。この子は人形で兵器なのかもしれない。でも生きている。こうやって考えて悩んで間違って生きている。迷子の子供のようなそれを一緒に探して見つけてあげたい。


「言ったでしょう。傷つけさせるだけの道具になんてしてあげないって」

「私、傷つけるんじゃなくてあなたみたいに直せるようになる?」

「それはあなた次第よ」

「私、次第……」

「決めつけられた生き方をやめたいのなら、これからは自分で決めるしかないの。」


 決められた生き方は苦しいかもしれないが簡単な生き方でもある。だって言われたからやっただけと、間違っても人のせいに出来る。でも自分で決めるというのは誰かのせいには出来ない。自分が決めたことに自分以外の誰にも責任はないのだから。その選択で将来、後悔することもあるだろう。先が見えずに迷うことも立ち止まることも振り返りたくなることだってある。そこで過ちに気付いて自分を苦しめてくることだってきっとある。

 自分で決める生き方は戻れない選択だ。やってよかったとこれで合っていたと言える日が来るかもしれないと、そんな曖昧な日常を模索しながら過ごすことになる。

 その覚悟を持ってあたしは今ここにいるのだ。


「でも私、また間違うかも」

「間違う前にあたしに聞きなさい。今回の件だってそうよ。言ったでしょう。話し合いをしてどうしようもなくなったらあたしに話しなさいって。貴方のそれは話し合いじゃなかったってだけ」

「そうなの?」

「そうなの!」

「そうなの」

「貴方って素直なんだけど、人と関わらなかったせいか常識を知らないのが問題ね。まぁそこは仕方がないしあたしも人の事言えた義理じゃないけれど」

「へーきじゃないのに常識知らないの?」

「そう。ずっと『お前は間違ってる』って言われてここまできちゃったのよ」

「なに間違えちゃったの?」

「んー。そーねぇ……お人形が好きなこととか、かわいいものが好きなこととか?」

「それ間違ってるの? 私も知らなかった」

「……知らないかぁ」

「でも間違ってたから、私も間違ってることに気付けたよ」

「…………ずびっ。やーね。なんだか涙が出そう」

「今、泣くところあったの?」

「んーん! ない!」

「ないのに泣きそうになったの? 感情って難しいね」

「そう。難しいの。だからそんな難しいことを理解しようとするよりもこれからの事をどうするかの方が今は大事よ。ちなみに貴方はこれからどうするつもり?」

「どうする。むむむ」


 むむむと真顔で少女が悩む。

 言ってることと表情がどうにもチグハグなのよね。何でああなってるのかしらと考えた所で少女の事を何も知らないのに分かるわけがないか。


「貴方が今思ってること教えてくれない?」

「私、……私に間違わない生き方を教えてほしい」

「あら。もう間違ってる」

「えっ」

「だって生き方に間違いはつきものよ」


 この子が今までしてきたことをあたしは知らない。もしかしたら今日のように知らなかったでは許されないこともあったのかもしれない。けれど間違ったことに気づいた今、後悔だけで生きてほしくないから。


「ねぇ。貴方が良かったらだけど、あたしと一緒に旅をしない?」

「一緒に?」

「そう」

「私、人間じゃないよ」

「あら。言ったでしょ? あたし可愛いものも人形も好きなのよ」


 ――その気持ちを大切にしてあげたいと思ったのだ。

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