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嘘だった

作者: 偽もの

怪異告発文書。



皆本当は思っている。噂なんてものは無い。あるのは嘘だけだと。


自分が意図的に流しているゴシップを。

真贋を確かめもせず広める情報を。

自分の悪意と欲望を。


噂という、まるで自分の意志では無い何かによって勝手に情報が広まってしまっている事にしてきた。


嘘だ。明確に悪意のある嘘。


情報を広めたくなるのは群れで暮らす動物の本能だ。情報を共有して生きるのが群れなのだからその欲求は自然だし、「自分がされて嫌なことを誰かにしたら自分も報復される」という学習によって噂という隠れ蓑を求めるのも自然だ。だから、嘘をつく。



群れで暮らしてきた動物は群れの中の悪いものを攻撃する本能がある。ヒーローが悪人を裁いたり、ざまぁ展開を愉しむ時、本能的な快楽が必ず与えられる。悪を探すのは良いことがしたいからではない。悪いものを攻撃したいという欲求自体がDNAに刻まれている。


だからこそ自分は悪の対象とならず、誰かの悪事を日の下に晒し、裁きたいという一連の流れが生まれる。


だから嘘なのだ。噂なんてものは無い。群れで生きる動物が自然に自分の意思と欲求で暮らしているだけ。自然な嘘。必然的に生まれる嘘。「噂」なんていう化け物は実在しない。しなかった。



だからこそ。


もしも「本当」に「噂」というものが実在したのなら。

本物の「噂」に攻撃されたのなら。

その怪異に人は絶対抗えない。



「噂」というのは既にこの言葉自体が悪意と嘘から生まれた怪異とも言える。実在してはならない化け物である。



そしてこの怪異が本当に恐ろしいのは、正体が無い事。情報の出所に辿り着くことはない。


本当に「噂」が実在していた場合、情報源には決して辿り着けない。本当の「噂」は、誰も居なくて何も無い場所から人間を襲う。


誰かが意図的に流したと分かるものは「噂」と呼ばれない。ただその人間と拡散者による悪意の情報拡散であって「噂」では無い。ゆえに本物の「噂」は誰が流したのか絶対に分からない。誰も「噂」という怪異に辿り着くことは出来ない。



そして、この怪異が本当に誕生する条件はもう整っている。「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」。これはつまり真に発達した科学からは本物と見分けがつかない怪異が生まれるという意味でもある。



未来の話ではない。「噂」という怪異は証明出来ない怪異である。情報の証明が難しくなるほど実体化していく怪異である。


実在する人間か分からないSNSアカウントや、AIによる自動生成から偶然「噂」が流された時、それが怪異で無いと証明するのは日々困難になっていく。



ホラーの、恐怖の真髄とは「分からない」事である。科学と相反しているように感じていたのは科学によって「分かる」現象が多かったからで、それに当てはまらない「分からない」ホラーは今もオカルトであり現実でもある。


科学とホラーが相容れなかった時代はもう終わりつつある。「噂」とはその代表例に成りうる凶悪なホラーである。


情報の怪異に取り憑かれておかしくなってしまった人間と、普通におかしくなってしまった人間の区別はつかない。デマでさえもそれをデマだと誰かが見抜かなければ真実である。誰も気付けない怪異は誰にも見つけられず誰にも祓えない。



ただのゴシップ情報に「噂」という名前を与えた時、意思を持つ情報という怪異はもう生まれていた。人を攻撃する為の情報に意思を与えた。悪意と嘘から生まれ、科学の発展に適応した怪異を生んでいた。


人類に悪意を持つ情報。未来にこそ完成度を増していく怪異。


科学でも、科学に弱い古いオカルトでも祓えないホラーが、そこに生まれている。観測出来ないけど居ないとも証明出来ないと認識させられたものは悪魔の証明を二度と超えられない。


もしも「噂」という怪異を語り、人々に「観測」させて「認識」させる事でその実在性を増そうと企む文書を見かけたら、一体誰に何を見せられたのか疑ったほうが良いだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 噂×人間の悪意と欲望という切り口から、噂から生まれる怪異という恐怖に対してよく分析されていると感じました。 恐怖の本質は『正体がわからない』。 これは私自身そう感じ、小説を描くときも念頭に…
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