虐待王妃の復讐奇譚
「フィッチ伯爵には港の再整備をお願いいたしますわ」
王妃がそう言うとどよめきが走りましたわ
まあそうですわよね
一伯爵に王国の主要港ができる訳がないですものね
そもそも主要港があるのは王領ですもの
当然王家がやるものと思われていたことでしょう
「ここに王印が押されています」
そう言って書類を掲げます
『フィッチ伯爵に王領の港の再整備を命ず(王印)』
王だけが押せる王印というのはもっとも権威があります
押されてしまったらもう誰にも取り消すことができません
たとえ王だとしても、です
フィッチ伯爵は思わず近くに寄ってきて見ていました
王妃に近寄るなんて不敬です
でも事が事なので許して差し上げましたわ
たしかに王印が押されているのを見て伯爵はガックリと膝を落としました
絶対に無理
どうやっても無理
一体どうしよう?
心の内は多分そんな感じでしょうか?
「一体なぜなのですか!」
再起動したフィッチ伯爵は王妃ににじり寄りました
「大丈夫ですわ、爵位なぞただのお飾り、そうでしょう?」
そう言って差し上げました
伯爵に、ではなくその後ろについている伯爵夫人に、です
「わたくしなぞ所詮は先祖が名を揚げただけのお飾りの令嬢なのでしょう?
そんなわたくしを見て実力があるお方たちはさぞ悔しい思いをしたことでしょう?
ですから実力を発揮する場を与えて差しあげますわ」
そう言うと伯爵夫人はガタガタと震え出しましたわ
心当たりがあるのでしょう
いえなくても思い出させて差し上げますわ
当時子爵家令嬢でありながら侯爵令嬢である王妃を虐めたことを!
学園時代は大変でした
王子の婚約者となったため多くの令嬢から嫉妬されましたの
一番酷かったのが某子爵令嬢ですわ
「こんな地味なのが婚約者で王子は御可哀想」
だとか
「侯爵令嬢といってもこの程度」
と成績が上なことを良いことに言いたい放題でしたわ
もちろん取り巻きを連れて、でしたわ
・・・テンプレでしたわね
でもイジメた人間は忘れてもイジメられた人間は絶対に忘れませんことよ?
王子の婚約者から、王子妃になり、王妃になった今、復讐の時がきましたわ
・・・ボンクラな王子を補佐するために選ばれた婚約者ですのよ?
今となってはボンクラな王をなんとかするのが王妃の役目
当然王印も王妃が管理してましてよ?
王印を押すなんて楽勝でしたわ
だって王に代わり王印を押すのが今の王妃の仕事ですもの
誰に止められることなく押せましたわ
それに王子妃、王妃とレベルアップするのに血のにじむ努力をしてきたのですよ?
余禄として復讐をやらないという手はありませんわ(嗤)
ちなみに王はというと玉座に座っているだけでしたわね
全諸侯を集めた会議だというのにただのお飾りになっていましたわ
もっともやろうとしても何もできないでしょうけどね(嗤)
話を戻しますわ
新年の夜会のために年末には諸侯が王都に集まりますわよね?
そのついでの大みそかの昼に重大な発表だったり、報告だったりするために全諸侯を集めた会議が行われますの
そこで復讐をして差し上げましたわ
10年前の恨みを込めて
元子爵令嬢で、今は伯爵夫人となった虐めっ子に、です
王子妃としてバカな王子を支えたり
王妃としてバカな王を支えたり
と涙ぐましい努力をしてきましたわ
そしてようやく王印を任されるほどまでになりましたの
当然のことながら復讐に使わないという手はありませんでしたわ
というか王印を復讐に使うために今まで頑張ってきたと言っても過言ではありませんわ
ですから当然というものです
もっとも復讐された側はたまったものではないでしょうね
だって伯爵が悪いわけではないのに結婚相手の夫人のせいでとばっちりを受けたのです
もちろんアドバイスして差し上げましたわよ?
「御実家や、お友達(が嫁いだ先の子爵や男爵家)に助けて貰ったらいかがかしら?」
要は虐めっ子の実家や、当時一緒にイジメていた取り巻きが嫁いだ家まで復讐が広がるということですわ
王妃、虐められた恨みは絶対に忘れていませんことよ?
以上の副音声をきっちりと受け取って下さいましたわ
各家の当主が優秀で助かりますわ
だっていちいち説明する手間が省けますもの(笑)
フィッチ伯爵夫人が
「大変申し訳ありませんでした!」
と謝罪してきましたわ
そして取り巻きだった現夫人たちも、です
謝って許して貰おうという訳ですのね?
でも許しませんことよ
学生時代3年間も毎日虐められていたのです
やられたら分、いやその倍くらい返さないと気が済みませんわ
「よろしくてよ」
王妃がそう言うとホッとしていましたわ
「10年後に一言謝ればいいのですのね?」
そう言うと唖然とした顔をしていましたわ
それはそうでしょう
謝った助かったと思ったら絶望に叩きこまれたのですもの
ふふっ、あの人達のあの顔ときたら・・・
今日はいいお酒が飲めそうですわね