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08 風の踊り場

「さくたんさん!?」


 ようやく回廊を抜けた先に居たさくたんに呼ばれたラガは驚いた。


「もうすぐエアロワイバーンがリスポーンする時間だからここで待機していたんだ。というか、ボロボロだけどもしかして真っ当にここを抜けてきたのか?」

「ああ、ちょっと疲れたけどやりがいがあって面白かったよ。さくたんさんはどうやってここまで?」

「ん、俺か? 俺はというかここにいる殆どのプレイヤーはある攻略法で抜けてるんだけど、それラガは知りたい? 一応公式も認めている方法で、調べたらすぐに出てくるようなものなんだけど」


 ラガは少し考えてうなずいた。一度ここまでたどり着けたのだから、攻略法を知っても問題がないと考えたのだ。


「わかった。ここを簡単にクリアするには2つの方法がある。一つは体重を200キロ以上にすること。いわゆる重たくなって風の影響を受けないってことだな。2つ目は……」


 さくたんは話しながらインベントリからアイテムを取り出した。それは緑色の宝石がついたお守りのようなものだった。


「こういったアイテムとかで風を無効化すること。風さえどうにかできればここはそこまで難しい道じゃないからな。ちなみに、帰りはあそこに見える横穴に入れば常に追い風ですぐに入り口まで行けるからな」

「さくたんさん、そろそろお話いいかな?」


 さくたんの話が一段落ついたところで、長身の男性がさくたんに話しかけた。そくみれば、他に幼女と女の子がさくたんの周りに集まっている。


「おお、わりぃな。ラガ、この人達は俺のフレンドで今はパーティーを組んでワイバーゲンでレベル上げしているんだ。ラガの事を紹介していいか?」

「うん、別にいいよ」


 特に断る理由のないラガはすぐに了承した。


「彼はラガさんだ。新規プレイヤーで情報を制限してプレイしているんだ。ちょっと前にここの入口で知り合って、フレンド登録したんだ」


「ラガです、よろしくおねがいします。えっと、情報を規制しているって言ってたけど、そんなガチガチでやってるわけじゃないですから、あまり気を使わなくても大丈夫です」


 一歩前に出てさくたんのフレンドたちに挨拶をする。


「私はカワノよろしく」


 長身の男性が自己紹介してきた。男性は顔の作りもこだわっているようで男のラガが見てもイケメンだった。


「私はモノクロです。よろしくね」


 小学生くらいの幼女アバターの子が自己紹介してきた。可愛い。


「俺はスノー。よろしく」


 高校生くらいの女の子アバターの子が自己紹介してきた。格好可愛い感じでアバターを作っているのにぶっきらぼうな自己紹介でちょっと驚いた。


「ちなみにカワノさんとモノクロさんの中の人は女性で、スノーさんは男性だからね」


 確かにアバターは自身を基にしているとはいえ、性別も種族も自由に選択できて、細かな作り込みも出来るから、別にプレイヤーとアバターの性別が違っていても何ら不思議ではない。というより、ただインスピを楽しむだけなら中の人のことはあまり関係ない。ラガ自身だってリアルに関係なくこうして楽しんでいるのだから。


 そう考えたラガは、カワノさんたちともフレンド登録をした。


「俺たちはこのままワイバーゲンに参加するけど、ラガはどうする?」

「俺はここのクリアでちょっと疲れたし、レベルも全然足りていないうえに、準備も何もしてきていないから踊り場の入り口で様子を見るだけにするよ」

「そうか、わかった。ワイバーン倒すのは少し時間がかかるから、適当なところで引き上げてもいいからな」

「わかった」


 そんな話をしているうちに周りがざわつき始めた。


「そろそろリスポーン時間だな。それじゃあいってくる」


 そう言うとさくたんたちは他のハンターと一緒に奥へと向かっていった。

 ラガ以外のハンターが回廊の先に向かうと、今までの喧騒が嘘のようになくなり、ただ風が吹きすさぶ音だけが回廊に響く。しかし、そんな静かさも長くは続かなかった。

 回廊の奥から爆発音やモンスターの鳴き声が流れてきたのだ。ワイバーゲンが開始したようだ。

 ワイバーゲンではなく『風の故郷』にたどり着くことが目的のラガは、回廊の先を確認するようにゆっくりと回廊の先へと足を踏み入れた。



 回廊の先に足を踏み入れた瞬間、視界の端に『風の踊り場』というマップ名が表示される。


「やっぱり風の故郷じゃないか。さくたんさんたちと合流した時点で予想はできていたけど、どこが違っていたんだろう」


 風の回廊になにかあることは間違いなさそうだが、それが隠し通路なのか別のギミックなのか見当がつかない。

 ここで考えても答えが出るものでもないので、ラガはとりあえず風の踊り場のワイバーゲンについての情報を集める。

 回廊ををつなぐ出入り口は高台になっておりここから風の踊り場を一望できる。

 風の踊り場は釜のように周囲を高い壁で囲まれているが、吹き抜けになっており夕暮れの赤い空が見える。

 釜の底には何本もの石柱が乱立しており、その石柱を避けるようにして冒険者とエアロワイバーンが戦っている。


 エアロワイバーンは全部で四体出現しており、冒険者もそれに合わせて五つのチームに分かれて戦っている。

 エアロワイバーンは実際に見るかかなり大きく、戦っている冒険者と比べると5〜6メートルほどありそうだ。体色はライムグリーンで空気抵抗を極限まで減らす流線型の体に効率よく風を掴む大きな翼、舵や体のバランスを取るための長い尻尾と飛行能力に特化したその姿は戦闘機を想起させる。


 しかし、いくら速く飛べる戦闘機でも地上にいる間はその性能を発揮できない。エアロワイバーンも地上では翼で叩いたり、尻尾を振り回す攻撃、噛み付きなど戦っている。

 冒険者の方もエアロワイバーンの攻撃に対応して戦っているが、苦戦している様子もある。

 特に弓や火の玉を飛ばす魔法攻撃などは放たれた後急激に進行方向を変えてあらぬ場所に着弾してほとんど機能していなかった。

 それ原因はおそらく、この風邪の踊り場という場所のギミックなのだろう。踊り場を取り囲む壁には大小様々の穴が空いており、そこからおそらく風の回廊のように風が吹き出しているのだろう。

 そして、それらの風が互いに干渉したり、石柱にぶつかったりすることで変化し続ける乱気流が発生せているようだ。遠距離攻撃はその気流の影響をモロに受けているのだろう。

 戦いで立つ土埃がその気流に乗って戦場を駆け抜けて、空へと舞い上がるこの地はまさしく風の踊り場だ。


 しばらくラガは戦闘の様子を見ていたが、空が夕焼けから星空に変わったのに気がつくと、一旦風の回廊を戻ることに決めた。いつもの体操があるため、それが出来る環境を整えるためである。

 回廊の方に戻ると、さくたんが言っていた横穴にはいる。しばらく歩いていると、すぐに入口の上部へとたどり着いた。

 ラガは気をつけて降りると、いま出てきた場所を見上げる。


「はー、これじゃ初見は気が付かないわな」


 奥から戻ってきた横穴は光の具合や周りの地形などで見えなくなっていた。そして、穴の存在を知っていても下から逆走できない様にねずみ返しのような形になっていた。

 とりあえず時間がないので回廊を出た。


 早く結界を張りたいのだが、回廊の入り口はワイバーゲンに参加する人たちの結界ですでにいっぱいだ。ラガは来た道を戻り、前回結界を張った場所に再び結界を張ることにした。

 五分ほど歩けば今回ログインした場所にたどり着いた。

 早速インベントリを開くと、結界を発生させる。次に、休憩用のテントを選択するとウィンドウに『結界と同期させますか?』のウィンドウが現れたので、『はい』を選んだ。

 すると結界が自動で広がり、その内側に一人用のテントが現れた。

 テント内は外見より広く設定されているようで、人一人が横になれる程の空間が確保されている。更に、高さも普通に立つぐらいの高さがあった。

 そんなテントの中でラガは時間までアイテムの整理をしたり、ステータスやスキルの確認をしながら、風の回廊について考える。


「おそらく、風の回廊の通常ルートは多分風の踊り場にしか通じていない。他の場所に通じるルートがあれば、他のハンターにすでに発見されているだろうからな。可能性があるとすれば隠しルートの存在だが、問題はその隠しルートに入るための条件だ」


 ラガは回廊の中のことを細かく思い返す。


「常に風が吹いていて、その風も吹くたびにその方向が変わっていたな。その風は壁に引っかかっているボロ布で確認できた……」


 深く考えこもうとしたときだった。


 ピピピピピピピ


 いつもの運動の時間を知らせる電子音が一気にラガの思考を現実に引き戻す。

 ラガは必要な道具を設置すると、テント内の寝床に横になって時間が来るのを待った。


 こうして考察するのはまた後になっていた。

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