05 旅立ち
踏破クエストが発生してから更に三日の時が流れた。
その間ラガは、定時の運動をこなしながらもその他の時間で掲示板依頼をこなした準備にかかるスピルを集めていた。そしてこの日、目安としていた装備が購入できる金額が貯まったのだ。
装備が整えばとうとうこのイチイ街を旅立つときだ。これから先への期待と不安を感じながらも、これがゲームであることを意識してその感覚を楽しんだ。
「こんにちは」
ラガが訪ねたのは以前情報収集した武具屋だ。
「おう、あんたか。悪いがなんの譲歩も入っていないぞ」
「今回はきちんと買い物に来ました」
「おお、ということはなにか情報を掴んだんだな」
「はい、実は……」
ラガは武具屋の店主にこれまで集めた情報を簡単に説明した。
「うーん、そうか。そういえばそんな話をガキの頃に聞いたことあったな。ということはあんたはイローン連山の方に行くんだな」
「はい。そのための装備を買いに来ました」
「ならこのあたりの装備がいいだろうな」
店主はそう言うとサラサラサラと紙に何かを書き込みラガに渡してきた。
そしてその紙をラガが受け取った瞬間、目の前に装備名が書かれたウィンドウが開いた。
それらの装備は寒さ対策や坂道でもしっかりと踏ん張りが効くような加工がされている、いわゆる登山用の装備だった。
値段も予定していたものと大差ないものだったため、ラガはそれら一式を購入した。
「あとは、武器だな。あんたの得意武器はなんだ?」
「えっと、わかりません。まだ数えるほどしか戦闘したことなくて、その戦闘でも投石で戦ってました」
「投石か。ならこれらの武器が使いやすそうだな」
ラガの話を聞いた店主は並んでいる商品から二種類の武器を見繕うとカウンターに置いた。
ひとつは紐を編んで作ったもので、もうひとつは先端がスプーンの形状になった一メートルほどのスティックだった。
「わかってると思うが、紐を編んだやつはスリングだ。先端の輪っかを指にかけて、もう片方を握ってから袋の部分に入れた石とかを振り回して飛ばす武器だ。これは威力が出るものの、投げる準備に細かな行動が必要だから連射に向かない。スティックの方はスロウスティックだ。先端で石などを投げる武器だな。威力はスリングに劣るものの、慣れたら地面の石を掬ってそのまま投げることもできる。何より、棒状の武器だから接近されてもそのまま殴ったりして応戦できる」
店主の説明を聞きつつラガは考えていた。
戦闘が苦手でできるだけ敵を避けるつもりで入るが、敵はモンスターである。不意をつかれることもあれば、戦闘が回避不能な状況になることもあるだろう。
そんなときのために武器を持っておくのはアリだ。それに、投石というマイナーな武器で戦うのはちょっと面白そうである。
「すみません、ちょっと試してみることは出来ますか?」
「それなら、裏を使ってもらって構わない」
店主に案内された裏庭はそれなりの広さがあり、巻藁や木偶などが設置してある。
「本来なら体格や投げるくせに合わせて長さを調節したりするんだが、それは買った後だな。とりあえず使い心地を試したいのなら、これを使ってくれ」
店主はそう言うと少し年季の入ったスリングとスロウスティックを渡してしてきた。
ラガはスリングを装着すると投石の準備を整える。そして、的の木偶を狙って腕を思いっきり振った。
自分ではしっかりと木偶ねらったが、スリングから解き放たれた石は勢いよくまっすぐと飛び、木偶のはるか手前の地面をえぐった。
「初めてならそんなものだ。調整すればもう少し投げやすくなる。次はスティックだな」
ラガはスリングを外すとスロウスティックに持ち替えた。
深めに作られたスプーン状の先端は乗せた石を保持しやすく、ある程度構えたままでも動くことはできる。
そして、スリングと同じように大きくスティックを振った。
すると、カラカラカラと石が転がる振動が手に伝わってきて、その後すぐに石は飛んでいった。はるかな空に向かって……
「初めてならそんなものだ。慣れれば感覚で調整できるようになる。続きは購入してからにしてくれ」
店主に促されるまま店内に戻るラガ。そしてそのまま、二種類の武器を購入した。
その後、裏庭で購入した武器を振りながら使いやすい長さに調整してもらい、更に鉄球や投げナイフなど投擲用の消費アイテムを予算の限り購入した。
その後、道具屋にも寄り冒険に不可欠な回復アイテムや休憩ポイントを作れるテントやインスタント結界も購入した。
買い物を終えて宿屋に戻ってきたラガは、大きな姿見の前で新たの武具を装備して様々なポーズをとっている。
購入した防具は耐寒仕様という事で裏起毛であったり首周りや袖周りにモコモコとした毛がついていたりしたのだが、それらが肌をチクチクと刺激するかゆみだったり、寒冷地ではないから暑いなんて不快感は感じられない。更に、厚手の防具なのだが様々なポーズをとってもその動きを阻害されなかった。流石のゲーム設定といったところだ。
今回のログインで準備が全部整ったので、次回はイーロン連山に向けての冒険に出発する。冒険という言葉にラガの心の男の子の部分が反応しながら今回はぞのままログアウトをした。
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昼食を済ませたラガは再びログインをするとまっすぐ門へと向かった。
この門をくぐるのはスライム討伐のとき以来で街を出なくても今まで楽しめたのはこのゲームが細かなところまで作り込まれていることと、人間と変わらないやり取りができるNPCたちのおかげだ。まあ、今までで他プレイヤーとフレンドになれなかったのは悲しかったが……。
これまでの楽しかったことと、これから始まる冒険に心を弾ませながらラガは門をくぐった。
見覚えのある景色。しかし、周辺でスライム討伐をした前回とは違い今回は街道に沿って新たな地イーロン連山を目指す。
戦闘を目的とした前回とは違い探索、移動するという視点でフィールドを見てみると違った印象を受ける。
平原で見通しが良いのだが、それなりに起伏があるので地平線まで見渡せるという場所は少ない。そのため、その丘の向こうの景色や高台からの景色などに好奇心が刺激される。
更に至るところに不自然なオブジェクトや採石スポットなどが散見される。平原もよく見れば生える植物一つひとつ作り込まれている。
しかし、どれもスキルやアイテム、情報などの条件を満たしていないのか近づいてもなんの反応もなかった。
こうして探索しながら移動していると、様々なプレーヤーともすれ違った。最も目についたプレイヤーは馬車移動するプレイヤーたちだ。
馬車は定期的に運用されており、料金を払えばその後ログアウトしていても目的地まで送り届けてくれる。もちろん歩きより早いが、極稀に野党やモンスターの襲撃に合うというリスクも有る。襲われて全滅してしまえばログインと同時に設定した街でリスポーンするということになる。
その他にも、見たこともないモノに乗ってすごい速さで通りすげていく強そうな装備のプレイヤーや、ダッシュと回復を繰り返しながら急いで移動す人、最短距離だからだと道なき道を行く人、採取や戦闘を目的としてあたりをウロウロする人など色んな人がいた。
ラガはそんな人達を見ながらもマイペースに歩みを進めていく。気になるものや場所があれば道を外れてもそこを目指して、その場所からの景色を瞳に収めていった。
更に歩いていると、イチイの街周辺では見なかった緑色の小柄の人型モンスターのゴブリンや頭から草を生やしたモンスターなどが現れ始めた。
特にゴブリンは社会性があるらしく、ゴブリン同士が出会ったときはチャンバラのように持っている武器で打ち合ったり、GyaGgyaと踊るような仕草をするところを見ることが出来た。こうしたモンスターの生態まで作り込まれていて、戦闘をしなくても歩きの旅路は全く退屈しなかった。
寄り道しながら現実時間で五十分ほど歩いただろうか。インスピの世界の日が落ちて空が茜色に染まりだした頃、街道の遥か先だが、人工的に並んだ明かりが見え始めた。おそらくあそこがリスポーン設定ができる拠点のイーロン大牧場だろう。完全に日が暮れる前には辿り着けそうだ。
「おお、歩きの冒険者とは珍しい」
イーロン大牧場の入り口にたどり着いたラガに、出入り口を見張るNPCの冒険者が話しかけてきた。
「一番近いイチイの街でも結構な距離があるからな。大抵のやつは馬車を使うからこの出入り口を徒歩でくぐるやつは珍しいよ」
暗に「お前変わり者だな」とラガを小馬鹿にしていると取れるような文言だったが、それを言ったNPCの表情から本気で驚いていたことが伝わったのでラガは特に気分を悪くすることはなかった。
本当にこのゲームのNPCは人間味がある。
大牧場は広大な土地に牛や豚などの動物を放牧しているのだが、その動物たちをモンスターから守る頑丈な柵がありそこで働く人々の家が建ち、牧場を警備する依頼を受けた冒険者が利用する宿泊施設や店などもあるので、まるで小さな村のようになっている。
ラガは一番に宿泊施設で復活設定をすると、残った時間で牧場内を見て回った。
そして、いつも運動をしている時間。ラガは宿泊施設の自室に戻りいつもどおりリズムに合わせて運動をしていく。足の曲げ伸ばしに足の上げ下げ、足の指をグーパーしたりしてから、ログアウトをした。




