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03 目標に向かって

「やっべぇ、寝過ごしたっ!」


 ログインしたラガはベッドに寝た状態から一瞬で飛び起きた。

 現実時間は16:07になっており、インスピ内でしなければならないことをする時間を過ぎていた。


「はい、今から準備します」


 ラガは急いでインベントリからメトロノームを取り出すとベッド横の机に置き、起動させるといつでも始められるように再びベッドで横になった。

 部屋にはカチ、カチ、カチ、とゆっくり目のリズムを刻むメトロノームの音が響いている。


「いつでも始められます。はい、それじゃあ予備カウント後に動かし始めますね。……5,6,7,8,1,2,3,4……」


 メトロノームのリズムに合わせてカウントを取りながら昨日と同じ運動を始めた。



 ラガが当初14時位からインスピにインして過ごすつもりだったのだが、現実世界に戻ったときに軽い疲労を感じたので昼食後に横になった。

 それはほんの二十分ほどの軽い昼寝のつもりだったのだが、結果はこの通り三時間以上もガッツリと眠ってしまっていた。もし時間になってもスタッフが起こしてくれなければあのまま夜まで眠り続けたかも知れない。

 そんな事を考えて優しく起こしてくれたスタッフに感謝しつつラガは体操をこなしていった。


 体操は昨日と同じ内容だったため三十分ほどで終了した。



 体操を終えたラガはベッドに腰掛けたまま考え事をしていた。


「前回運動が得意じゃないのに戦闘を頑張ったから脳に疲労が溜まったみたいだ」


 ゲームシステムのサポートがあるとはいえスキルという超常の現象を用いりながら元の肉体より優れた身体能力のアバターを操作するため、脳が披露するのだろう。そう考えた。しかし、それらはおそらくはゲームを続ければ慣れていくものなのだろうが……。

 疲れについて考えた次に、戦いについても考える。


「戦闘は楽しかったな。自由に思い通りに動けるってやっぱり最高だったな」


 まだスライムとしか戦っていないが、スライムと戦っている時は気分が高揚してとても気分がよく、思ったように投石が出来るようになったときやより早くスライムを倒た時などは達成感も感じられた。

 しかし、より強いモンスターと戦いたいか? 頑張ってより強くなりたいか? と考えるとウーンと首をひねってしまう。

 やはり、自分はこのよく作り込まれた世界のいろんな景色を見て回りたい。その道程で戦闘になるのなら仕方ないが、やはり戦闘はできるだけ避けていきたい。


 こうしてこれからのプレイスタイルが固まったが、今日はこれ以上ゲームをプレイする気分にはならない。ラガはベッドに横になるとそのまま、ログアウトしていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日の8:17、ラガはインスピの世界にログインした。今日から本格的に6大絶景を目指して活動していくことにしている。

 しかし、何をどうすればいいのか全く情報がない。現実世界のネットで検索したり、ハンター協会に情報を依頼して他のプレイヤーからの情報をもらうようなことはズルしているようでできるだけしたくはなかった。


「客商売をしているNPCならなにか情報を持っているかも」


 思い当たったのは武具や道具店の店員やハンター協会の解体場の職員だった。

 NPCとはいえハンター協会の職員に情報を求めるのはなんとなくズルい感じがしたラガはとりあえず、防具屋に向かう。



「6大絶景だぁ? 聞いたことねぇな」


 防具屋の店主はぶっきらぼうに言い切った。


「そもそも街の住人はめったに街の外に出ねぇんだ。この辺はあまり強い魔物は出ねぇが、それでもアブねぇことには変わりねぇからな。一般人の俺らが外に出る時はそれなりの理由がある時だろうし、その時はしっかりと金を使って護衛を雇ったりするから、景色を見るだけなんて無駄なことはしねぇよ」


 店主の全くの言うとおりである。


「街の外のことについて知りたいのならやっぱりハンター協会で調べるのが一番だろうな。あとは……年寄連中の昔話くらいだな」

「わかりました。色々教えてくれてありがとうございます」

「いいってことよ。もし、街の外に出ることになったらウチの防具を買って身につけてくれ」


 笑顔で遣り取りをしたあと、ラガは店を出た。

 決定的な情報は得られなかったが、ハンター協会を頼ることで情報が得られるという推察が確定的になったことと、年配のNPCでも情報を持っている可能性があるという次に繋がる情報を得られた。おそらく引退したハンターなどが情報を持っているのだろう。

 なので、次はそういったNPCに会いに行きたいのだがいかんせん先立つ物がない。

 イチイの街はそれなりに大きな街だ。正門、武具・道具屋、宿屋、ハンター協会、噴水広場など冒険に必要な施設は密集しているためそこだけを利用するなら徒歩でもそこまで時間はかからないが、その他を見て回るにはやはり周遊馬車などを利用して効率よく移動する必要が出てくる。

 そこでラガは自分の顔を売ることも踏まえて依頼クエストを受けることにした。


 依頼クエストを受けるための掲示板はハンター協会と噴水広場の二箇所に設置されており、それぞれ依頼内容の傾向が異なる。

 ハンター協会の方はモンスター素材や危険地での採取、他の街までの護衛や凶悪なモンスターの討伐など武力が必要とされる依頼が多い。更にプレイヤーが依頼を出す場合にも利用することが多い。

 噴水広場の方の掲示板は買い物代行や店番、庭の草むしりや子どもの家庭教師など街中で安全にこなせるが安価な依頼が多い。

 ラガはもちろん噴水広場の方に掲示板に向かった。


 掲示板にはそれなりの数の紙が張り出されている。ありがたいことにそれらの依頼の期限やおおよその達成までの時間が現実時間で記されていた。

 ラガはその中から幾つかを見繕うとそれに書かれた依頼者元に向かった。



「あらあら、今回はお兄さんが依頼を受けてくれたのね」


 依頼者の家を訪ねると、出迎えてくれたのは老婆のNPCだった。


「いつもは子どもたちが引き受けてくれていたんだけど、あの子たちにあまり重たいものを頼むのも気が引けてねぇ。お兄さんなら重たいものでも平気そうだね」

「任せてください」


 老婆を安心させるようにラガは笑顔で答える。


「頼もしいねぇ。その言葉に甘えてこれらを買って来てもらおうかね」


 そう言うと老婆は一枚の紙とお金の入った袋を渡してきた。紙には購入するものが書かれている。一番目立つのは飲料水を一樽だ。その他にも日持ちのしそうな根菜類をメインに重量のある食料品が書かれている。


「重たいものばかりで申し訳ないのだけれど、お願いね」


 人当たりのよい老婆の笑顔にラガは「お金をそのまま持って逃げたらどうするのか」という実行する気もない質問を飲み込んだ。

 

 依頼を引き受けたラガはとりあえず買い物を先に終わらせることにした。水は近くの井戸で汲むことが出来るからだ。

 ここから市場までは少し距離があるものの、徒歩で移動しても時間は十分に間に合う。なのでラガは、歩いて市場を目指した。



「結構な量だな。籠や袋を持っていないようだが、運搬屋に依頼するのか?」


 野菜を売っている店主のおじさんNPCが渡されたメモに書かれた野菜を台に移しながら聞いてきた。


「はい、大丈夫だと思います」

「そうか。丹精込めて育てた野菜たちだからな、大切に運ぶ手立てがあるなら問題はねぇ。たくさん買ってくれたから代金はこれくらいにしとくよ」


 豪快に笑う店主が提示してきた代金は普通に買うよりかなり安い。お使いクエスト専用の値段なのだろう。

 支払金額を確認したラガはおばあさんから預かった袋から代金を支払うと、山積みになっている野菜をインベントリに仕舞おうとした。


「って、あれ」


 普段なら触れて意識するだけでシュンとインベントリに収納されるのだが、野菜の山は触れてみても一向に仕舞われる気配がない。


「きみ、いつまでかかってるの?」


 予想外の出来事にワタワタ焦るラガに背後から女性が話しかけてきた。支払いを終えた次の買い物客なのだろう。


「えっと、すみません。すぐ場所を空けます」


 ラガは野菜の山を壊さないように少しずつ端に移動させる。


「あれ、もしかしてお使いクエスト受けた?」


 そんなラガ様子を見て気になったのか、女性が話しかけてきた。


「あ、はい。でもインベントリに仕舞えなくて……」


 ラガは女性の方を向くと軽く会釈をして答えた。そして、女性の頭上に目線をやると緑色のカーソルが出ていた。


「お使いクエストはインベントリ使えないからねー。物理的に運ぶのが面倒だからみんなしたがらないんだよね。って言うことだけど、がんばってねー」


 女性キャラは自分の荷物をインベントリに仕舞終わるとさっさと去っていった。


「おおう、大丈夫か、兄ちゃん。なんだったら運搬屋に連絡するぞ」


 先程の女性キャラとのやり取りを聞いていたのか店主のおじさんが心配して話しかけてきた。

 仕方ないと、店主に運搬屋への連絡を頼もうとした時だった。店主の後ろのあるものが目に入った。

 それは大きな篭が付いた背負子だ。うまく詰め込めれば野菜を全部入れることができそうだった。


「すみません。もしよろしければ、後ろの背負子をお借りできませんか?」

「ん、ああ、これか。帰りにも使わなきゃなんねえけど、返してくれるんなら構わねえぞ」

「ありがとうございます」


 お礼を言って背負子を借りたラガは運ぶ野菜が潰れないように気をつけながら籠に入れていく。

 そして、全部入れ終わると背負子を背負った。

 重さは15キログラムほどだろうか、ズシッと肩と背中に負荷がかかるが、どうにか移動はできそうだ。


「できるだけ早く返しに来ます」


 どうにか笑顔を他もりながら店主に伝えると足を踏み出した。

 一歩、二歩、三歩、四歩、五歩と歩いていると、ピコーンと電子音がなった。


『重量物運搬歩行を習得しました』


 眼前にウィンドウが現れた瞬間、背中にかかる負荷が軽くなり、足取りも軽くなった。

 そのスキルの御蔭でどうにかお使いは日が暮れる前に終わらせることが出来た。

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