19 その後
あの、ワールドウォーイベントから三年の歳月が現実で流れた。
浦賀はインスピの世界で少年と誓いあったあと、インスピのプレイを必要最低限で留めて、残りの時間を足のリハビリや体力づくりに割り当てた。
急にやる気を出して積極的になった浦賀に大門先生や療法士の先生が驚いていたが、「富士山に登ってご来光が見たい」という目標を話したら理解してもらえた。
そして今、浦賀は富士山の山頂で暖かなスープを飲みながらご来光を待っている。そして、その横には大門医師と担当療法士も座っている。
あたりはまだ暗くこの時期にしては気温が低いものの、続々とご来光目当ての登山者が集まってきている。
「こんなに早くここにいられるとは思っていませんでした。お二方をはじめ、色々ジン食してくれた皆様のおかげです。ありがとうございます」
「何を言ってる。浦賀さんがここにいるのは、何より浦賀さんが頑張ったからです。私の組んだ療法案にはかなりきついものもあったはずだけど、浦賀さんはくじけることなく頑張ってこられた。そのせいかが今ですよ」
療法士がにっこりと答える。
「そうだな。フルダイブ型ゲーム機を使ったリハビリは効果が高いことがわかった。しかし同時に、自由に動ける世界がいつでもそばにあるということでもある。辛い現実に耐えかねてゲームの世界に逃げ込む人も少なくなかったなが、君は最後までやり遂げた。それだけ君は意思を強く持ち、頑張っていたということだ」
大門医師も浦賀の頑張りを肯定した。
こうして言葉をかわしながら待っていると、東の空がだんだんと紺から薄紫へと白んでくる。更に時間が立つと雲海と空との境目がオレンジ色になる。
「そろそろだな」
大門が放った言葉に胸が高鳴る。命の誕生を見守るかのような興奮が身を支配する。
そして、宝石のように輝く太陽が雲海から頭を出した。
太陽が出るとともに雲海を光の波が走り、山でそれを見ているものを朝という津波が飲み込む。
太陽の神々しさと、身を一瞬で温める光の感触に浦賀はカメラで撮影することすら忘れえるくらい感動で満たされていた。
浦賀が我に返って写真を撮ったのは、太陽が雲海より少し登ったときだった。
ご来光を見た浦賀たちは神社にお参りをしたあと、下山の途についた。
下山時のほうが足への負担が大きいので、登る時以上に慎重になって山を下っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
富士山頭頂の翌日、浦賀は全身筋肉痛で自宅のベッドで横になっていた。
しかし、全身が痛くてもインスピの世界では問題ない。
「さて、今日は何をするかな? まずは、久しぶりに大牧場の少年に会いに行こう。富士山に登った話をしなくてはな。その後は……」
最小限の動きでデバイスを身につけながら、これからのことを考える。
現実世界で自由に動けるようになった今でも、浦賀はインスピをやめるつもりはない。
まだまだ見てない景色を見たいし、インスピの世界で結んだ様々な縁を切るつもりはない。
装着を終えた浦賀はデバイスのスイッチをONにした。
『Infinity Skill Picker』(通称・インスピ)
世界初のフルダイブ型ゲームのこの世界は三年たった今でもアップデートを繰り返してその広さを広げている。
シナリオのないこの世界で何をするのか、それはプレイヤーそれぞれの自由なのだ。




