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18 ワールドウォーイベント・ラストデイ

 ワールドウォーイベント『騒魔の季』は現実時間で一週間開催され、毎日一回ランダムで発生する襲撃フェーズに襲い来るモンスターの群れから拠点となる場所を守るイベントだ。

 ラガ達ハンターは拠点を守るため襲撃フェーズまでに罠を張り巡らせ、兵器を設置し、騷魔の兆しモンスターを倒して襲ってくるモンスターの弱体化を図る。

 そして今は、七回目の襲撃に向けて準備を整えているところだ。最後の襲撃は現実時間で翌日の午前九時。大規模な襲撃が予想されている。

 しかし、この時間ラガは現実のリハビリの予定が入っていた。


「うわぁ、どうしよう。てか、どうしようもないんだけど……」

「おお、どうした『流れ星の』」


 もやもやした気持ちのまま歩いているとすれ違ったハンターが話しかけてきた。

 このイベントで何度も共闘しているうちにプレイヤー間での親交が深まり、フレンドまでは至らずとも顔見知り程度の関係が構築されている。さらに、ラガに至っては初日のレイドボスの攻撃を驚くような形で潰して勝利に導きつつもすぐさま脱落してしまうという『一瞬で燃え尽きる流れ星のような』目立ち方をしたため、流れ星の二つ名とともに有名になっていた。


「その二つ名、認めたわけじゃないから! やられ方も含めた二つ名なんて恥ずかしいですよ」

「俺たちを勝利に導く流れ星カッコいいじゃねぇか。それよりもなんか悩んでいたがどうしたんだ」

「いや、実は……」


 あからさまに二つ名の話題から変えられたが、ラガは悩んでいた内容を簡単に説明した。


「……それ、ここで悩むだけ無駄じゃね? 参加できないならこんなところで悩んでないで出来ることをするべきだ。兵器の改良に資材の運搬、兆しモンスターの討伐とかすることはいくらでもある。本気で参加したいのならこんなところで悩んでないで現実でイベントに参加できるように動くべきだし」


 あまりの正論にぐぅの音も出ないラガ。


「全く、言うとおりです。とりあえずポイントもう少し稼ぎたいから討伐してきますね」

「おう、頑張れよ。いつでも部屋は空いているからな」

「いやいや、そんなにやられたりしないから」


 冗談とツッコミで笑いながらがらも分かれる二人。

 ラガの悩みは解決していないものの、まっすぐ指摘されたことで気持ちを切り替えることが出来た。とりあえずは参加できないことを前提にこれまで以上に騷魔の兆しモンスターを倒すことに精を出すことに決めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 草原で騷魔の兆しモンスターと対峙するラガ。手に忍者が使う様な十字手裏剣を三枚持ち、そっと構える。

 このイベントでいろんな戦い方をしたため、いくつかの新しいスキルを身につけることが出来た。

 そのうちの一つが『暗器投げ』だ。このスキルは文字通り手裏剣など一部の武器を投げる際に発動できるスキルだ。

 

「Gigya!」


 手裏剣が刺さった瞬間、モンスターは短い悲鳴とともに倒れた。スキルのおかげで威力や精度が上がり、更に塗布している毒の効果まで上がっている。

 倒れてビクビク痙攣しているモンスターに向かってラガはトドメとしてバレーボールほどの石を投げつけた。

 石は五キロほどあるのだが投石スキルの練度が上がったことで普通に投げることが出来る。このくらいの石は質量的に大きなダメージを与えることが出来るのだが、どうしてもドッジボールのように投げる際の隙が大きく、スピードも握って投げるよりも若干落ちる。なのでこうして動きを封じてから投げるようにしている。


 次にラガは狼型の兆しモンスターの群れに出会った。

 

「Garururururururu」


 一瞬で囲まれてしまったが、今までの経験ですでに対処法を見出している。


「砂煙幕!」


 包囲が薄い部分に一気に詰め寄ると砂煙幕を使い狼を怯ませるとそのまま包囲を抜けた。そして、背後に向かって小石を山のように大量に取り出すとばら撒くように投げた。


「Kyaun」


 ラガを追撃してきた狼に石が当たり、その勢いが止まる。

 ここで攻め手を緩めてしまえば再び狼に包囲されてしまう。そうならないためにされに攻めるラガ。


「塊弾」


 再び小石を大量に取り出す。しかし、先程とは違いまるでソフトボールのように丸くまとまっている。

 新しく覚えたこのスキルのおかげで、多少雑な投げ方をしても砂や小石を塊のまま投げることが出来るようになった。

 塊弾を使えば小さな石でも十分な武器になり、当たれば弾けるように散らばるので色々な使い方を考えられる。

 散弾え怯ませと塊弾でダメージを与えてじわじわと狼の数を減らしていくラガ。

 最後は襲いかかってきたところを砂煙幕で怯ませてから、スリング鉄球をぶつけてとどめを刺した。


 この様な調子でラガは昼食の時間まで兆しモンスターの討伐に精を出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昼食を食べ終えた後もラガはインスピにログインをして兆しモンスターを倒して回った。そして、いつもの運動の時間の前までには牧場の宿泊施設に戻った。


「ねぇ、大門先生。明日のリハビリの時間ってずらすことは可能ですか?」

「ん? いきなり、どうかしたかい?」


 運動を終えた後、大門医師が部屋を去る前にラガは急いで通話で話しかけた。


「うーん、リハビリに使う場所や器具、担当の療法士などすべて事前に予定を組んでいるからね。それを直前に変更するのは流石に厳しいかな」

「そうですよね…… すみません。ちょっと聞いてみただけです。ありがとうございました」


 ラガは部屋を出る大門医師を見送ると、改めて気持ちを整理する。

 いくら作り込まれているとはいえインスピは所詮は『ゲーム』だ。そのゲームをする一般プレイヤーの都合で一生懸命に働く人達や頑張ってリハビリをしている他の患者さんたちを振り回すのは流石にない。

 それに、牧場にはさくたんやカワノ、モノクロやラピスラズリをはじめとした腕のたつプレイヤーが集結いて、関係性も良好である。大規模襲撃とはいえ、自分が参加できなくても乗り越えられると信じられた。

 気持ちを整理したラガはフレンドに襲撃フェースに参加できない旨のメッセージを送ると、午後からもインスピにログインして兆しモンスターの討伐に精を出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 日が変わった午前、朝食を食べ終えて少し落ち着いたところで、リハビリを受け持ってくれている療法士の先生が入ってきた。


「おはようございます、浦賀さん」

「おはようございます。今日もよろしくおねがいします」

「とりあえず足の調子を見せてもらえるかな?」

「はい」


 浦賀は掛け布団を器用に端にどかして、足を出した。


「足の感覚は以前と変わらずですか?」

「はい。動かそうと意識して力を入れようとしても、なんかこう伝わってないっていう感じです」


 療法士は浦賀の足を揉んだり、足の指を曲げたりしながら反応を見ている。


「それじゃあ、予定通り足を動かすトレーニングを行っていきますね」


 療法士指導のもと様々な器具を用いた足の機能回復トレーニングがはじまった。


 浦賀はこのリハビリの時間が苦手だ。足が動かせないという現実をこれでもかと叩きつけてくるからだ。

 大門医師や療法士は順調に行っていると励ましてくれているのだが、浦賀は良くなっているという感覚がないためただただ辛いだけの作業だった。

 辛い現実から逃げ出して、自由に動けるインスピの世界にい入り浸りたくなる。しかし、浦賀はすでに大人だ。そんなことが許されないのは百も承知している。

 スッと心を押し殺してリハビリ作業を続けた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 リハビリ作業を終え、昼食を落ち着いて摂ってから今日はじめてインスピの世界にログインした。

 宿泊施設から出てきたラガは牧場がいつもとは違うことにすぐ気がついた。建物や道のいたるところが破壊されてており、多くのプレイヤーやNPCたちがその修理をしている。


「あの、これはどうしたんですか?」


 事態把握のために近くにいたプレイヤーに話しかける。


「ん? 確かお前、流れ星だよな。 さっきのイベントは参加しなかったのか?」

「そうなんだ。どうしても外せない用事がありまして。もしかして、これは襲撃のせい?」

「ああ、大規模襲撃の名の通り今までにないほどの大量のモンスターが襲ってきたよ。そして、情けないことに俺らはそのモンスターを完全に防ぐことができなかった」


 話しかけたプレイヤーは襲撃のことを思い出したのか、苦々しい表情を浮かべる。


「すぐに二班に別れてフォローに回ったんだが、結界を一回破壊されてしまってな次の結界を張る前に何匹か侵入されてしまったんだ。俺はそのまま結界周りのモンスターを狩っていたから聞いた話になるけど、モンスターたちは目につくものを破壊しながら進んだらしい。救援隊した到着する頃にはNPCたちが避難してる建物に迫っていたらしいけど、一人の少年がモンスターの気を引いていたらしくて、そのおかげで間に合ったんだと」

「その少年は……」

「少年は大怪我を負っていたけど、命には別状はないみたいだ。今は牧場主の家で療養しているはずだ」


 その言葉を聞いてラガはホッとした。これまで仲良くしてきた人たちの無事が知れて心底安心した。


「教えてくれてありがとうございます。とりあえず、頑張ってくれたその少年のお見舞いに行ってみようと思います」


 話してくれたプレイヤーにお礼を言ってラガは少年が療養しているという牧場主の屋敷に向かった。



「こんにちは」


 牧場主の屋敷についたラガは外で作業をしていた牧場主に声をかけた。


「おや、ラガさんこんにちは。何かごようですか?」

「はい。ここで療養していると聞いたので、お見舞いにきました」

「そうですか。ラガさんが来てくれたならきっと息子も喜びます」


 牧場主の言葉で誰が怪我をしたのかわかってしまった。

 元気にラガを部屋に案内する少年の姿が、キラキラした表情でラガの話を聞き、夢を語る少年の顔が思い浮かぶ。

 今にも走って少年のところに行きたくなる気持ちを深呼吸で抑える。

 ラガは牧場主に一礼をすると、屋敷の方に向かった。

 その道中「ポイント稼ぎに固執せずに防衛設備を整えることに尽力していたら……」「戦闘に参加できていれば……」様々なタラレバが浮かんできた。

 ラガは余計な考えを振り払うように頭を振ると、目の前のドアをノックした。


コンコンコンコン……


 少し待ってみたが中からの反応はない。


「入りますね」


 ひと声かけてからラガはそっとドアを開けて、中にはいった。

 部屋の中では少年がベッドで寝ていた。

 少年は回復魔法をかけてもらったのほどんどの怪我は完治しており、安らかに寝息を立てている。しかし、視線を足の方に向ければ右足が大腿の途中からなくなっていた。

 回復魔法では切断された手足をくっつけることはできても、失った部位を再生させることはできない。これがプレイヤーならわざとやられてから復活すれば、デスペナルティーという障害が一時付与されるが失った部位なども完全に再生されるのだが、NPCは基本復活しないためこの手が使えない。


「う、うーん」


 不意に少年がもぞもぞと動くと、眠気眼のままこちらを見た。


「だれ?」

「起こしてごめんね。君が頑張ったって話を聞いたからお見舞いに来たんだ」

「……お兄さん」


 次第に意識がはっきりしてきたのか、起き上がろうとする少年。ラガは「楽にしてていいよ」とそれを制して、少年のそばの椅子に腰掛けた。


「足は大丈夫かい?」

「うん。今は大丈夫。だけど、たまに右足がすごく痛くなるんだ。すごく痛いのにそこに足がなくて擦ることもできないの。でもね、ラピスラズリのお姉ちゃんが新しい足を作ってくれるって言ったんだ。だから僕ね、ドラゴンのようなかっこいい足をお願いしたんだ」


 足の痛みの話をする少年の表情は暗くなる一方だったが、義足の話になると表情は希望に満ちた明るいものになった。


「かっこいい足で悪いモンスターをやっつけて、お兄さんみたいに広い世界を見て回るんだ!」


 足を失っても明るく希望を語る少年の純粋な言葉は、辛いリハビリに嫌気が差して逃げるようにインスピをプレイするラガの心に突き刺さる。


「頑張り屋さんで偉いね。君を見ていたら私も頑張らないとって思うよ」

「頑張る? お兄さんは何を頑張るの?」

「そうだね…… 富士山に登ってご来光を見ようかな?」

「フジサン? ゴライコウ?」

「富士山っていうのは遠くの世界の山でのことで、その天辺でお日様が昇るのを見るっていうことだよ。今の私では富士山に登れないから、登るためにものすごく訓練する必要があるのさ」

「ふーん。なら、お兄さんを僕とで競争だね」

「そうだね、お互いに頑張ろう」


 少年とラガは互いに拳を突き合わせた。

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