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17 ワールドウォーイベント・レイドボス

 レイドボスの姿が視認できるようになると、その名前が司会に表示される。


「ブラックゴブリンエンペラー…… さくたんさん、知ってる?」

「いや、俺も初見だ。名前からしてゴブリンの上位種なんだろうけど、一筋縄じゃいかないだろうな」


 ブラックゴブリンエンペラーは小太りな体型ながらも、足や腕は丸太のように太く、武器として人間の頭など簡単にかち割ることができそうな巨大な棍棒が握られている。


「おーい、前衛は作戦決めるからちょっと集まってくれ。生産職の人は兵器で時間を稼いでくれ」

「オーケー」


 何かと目立つ大柄な筋骨隆々筋肉ハンターが全体に声をかける。

 ラガは声をかけたハンタのところに移動すると、さくやん、カワノ、モノクロ、スノーでかたまった。

 同時に兵器の攻撃が開始されて轟音が鳴り響くなか、作戦会議が始まる。


「俺たちは牧場を守りつつ、あのデカブツを倒す必要がある。それに俺達にとって雑魚モンスターでもNPCにとっては命を脅かす存在だ。もし侵入でもされたら……」

「NPCたちが危険」


 ハンターになりたいと将来を語っていた少年を思い出したラガは、つい声を出してしまいみんなの注目を集める。

 

「そう。だから、バリアが張っているとはいそれにも限界はあるから過信はできない。そこで、耐久力のあるハンターとヒーラーでデカブツの足を止める。その間に残りのハンターが雑魚を狩っていく」


 筋肉ハンターの提案に反対の声は出ない。そして、足止め班として筋肉ハンターを始め、重装備で体躯のいいハンター四名とヒーラーとしてスノーと他一名が選出された。


「左弦、弾幕薄いよ!なにやってんの!」

「すみません」


 後方からどこかで聞いたような怒声が飛ぶ。どうやら偶然左側の兵器の装填のタイミンが重なたようだ。

 そんな、隙をモンスターが見逃すはずもなく攻撃が薄くなった左側に移動して、侵攻を再開させる。


「これ以上行かせるか!」


 足止め班がブラックゴブリンエンペラーのところまで行き挑発スキルでその侵攻を阻もうと試みるが、手下モンスタの横やりが激しく、うまく管理ができずにいる。


「キミらの相手はこっちだよ」


 モノクロが特殊な形状の矢の導火線に火を付けると急いでその矢をつがえてほぼ真上に向けて放つ。

 放たれた矢はヒュロロロロ〜と独特の音と煙の尾でモンスターの視線を集めながら天へと登っていく。

 その間に足止め班はブラックゴブリンエンペラーに集中攻撃を仕掛けて自分たちへの執着心(ヘイト)を高めていく。

 遊撃班も手下のモンスターに攻撃を仕掛けて引き剥がしにかかる。

 ラガもそれに参加して手裏剣、鉄球など手持ちのアイテムを出し惜しみなく使用してモンスターを倒していく。


「あー、これで最後か」


 ラガは愚痴りながら迫ってくるモンスターの群れに向かって麻痺手裏剣を投げると、急いで二十メートルほど距離を取り直す。

 牽制用の手裏剣はこれで品切れである。これまで手裏剣に頼った立ち回りをしていたため、今は十五匹のモンスターの執着心(ヘイト)を買ってしまっている。このままではすぐに囲まれてしまう。


「せい」


 ラガはとりあえずソフトボール大の石を手に取り出すと思いっきり投げる。

 この大きさの石の質量は鉄球には及ばないもののそれなりにあり、投石のスキルのおかげで小石程度の負荷で投げることが出来て威力も上がる。頭部など急所に当てられれば倒すことも出来る。

 距離があったため投げた石は先頭のモンスターにかわされてしまったが、その後ろのモンスターに命中してダメージを与えた。

 それでもモンスターのスピードは落ちない。十五メートル、十メートルとどんどん距離が縮まってくる。


「砂煙幕!」


 目の前までモンスターの群れに接近をゆるしてしまったラガ、破れかぶれで砂を握ると大きく腕を振った。するとその手からは明らかに握った以上の砂が放たれた。


「Gigyaaa」


 モンスターたちから悲鳴が上がる。砂が目に入って悶えるもの、口に入ったのか懸命に吐き出そうとするものどちらも一様に足が止まっている。

 ラガは急いでスリングスティックを装備すると目の前で悶えているモンスターを攻撃すると急いで距離を取る。

 すぐに三匹ほど態勢を整えたモンスターが襲ってきたが、後方から放たれた矢で頭を射抜かれた。振り返るとモノクロが懸命に手を降っていた。

 モノクロに一礼をして余裕が出てきたラガは武器をスリングに変え鉄球を乗せる。

 残ったモンスターは目に砂が入ったようで動きが鈍いため、一気に倒しにかかったのだ。


 三十球ほど鉄球を消費してこちらに執着心(ヘイト)を向けていたモンスターを倒し終えると、奥でブラックゴブリンエンペラーと戦う足止め班のところに向かった。

 ブラックゴブリンエンペラーの戦場では足止め班のハンターの他に手下モンスターを倒し終えた遊撃班のハンターが合流しており、五組の簡易パーティーを組んで取り囲むように戦っていた。

 壁職のハンターが敵の攻撃を受け止め、その隙に他のハンターが攻撃をする。攻撃するハンターも深追いはせずヒット・アンド・アウェイを心がけているようだ。


「わたしたちた入るスキはないね」


 モノクロが隣に来て話す。そして、モノクロの言う通りラガの投石やモノクロの弓の出る幕は今はない。下手に手出しすると予定外の執着心(ヘイト)を買ってしまい、今の戦闘リズムを崩しかねない。

 しかし、見ているとあまりに戦闘が消極的すぎるのが気になる。


 更に戦闘が続いていると、敵が思いっ切り息を吸い込む動作をした。そして、その瞬間身軽なハンターたちは一気に散らばり、足の遅いハンターは盾を構えて防御を固める。


「GUAAAAAAAAAAAAAAA」


 ブラックゴブリンエンペラーが目の前のハンターめがけて思いっ切り叫んだ。

 声に指向性をもたせているのか、ラガの耳にはその声は殆ど届いていないが、まともに攻撃を受けているハンターは片膝を付き、周囲の草は激しく震え、石が吹き飛んでいく。

 そして、攻撃しているブラックゴブリンエンペラーは体の向きを変えながら周囲を薙ぎ払っていく。

 攻撃から逃れきれなかったハンターたちが次々に吹き飛ばされていった。


 強力な攻撃でほとんどのパーティーが壊滅状態になったが、予め取り囲むように展開していたために攻撃範囲から外れて生き残ったパーティーもいる。そのパーティーの盾役が一気に敵のヘイトを稼ぐとヒーラーがパーティーの立て直しを図る。

 ヒーラーのスノーも近くに居たハンターを集めると癒やしの波動を放つクラゲを召喚して一気に回復させていく。

 しかし、回復したハンターたちはまだ足に力が入らないのか立ち上がってもふらついた状態だ。完全に立ち直るまでまだ時間が必要そうだ。


 それでも残ったパーティーが立て直し時間を稼いだおかげで、次第に攻撃できるメンバーが増えていく。

 しかし、再びブラックゴブリンエンペラーが大きく息を吸う。そして、周囲を雄叫びで薙ぎ払っていく。

 再び大半のハンターがやられ、残ったパーティーが立て直しの時間を稼ぐ。

 戦闘の流れは完全にモンスターの方に向いている。ハンターたちは決め手にかけてまるで泥沼のようにジリジリと追い詰められていく。

 この流れを変えるためには、あの雄叫び攻撃を潰す必要がある。


「モノクロさん、あの攻撃を防ぐこと出来る? ほら、口の中を攻撃したりして」

「それは無理かなぁ。口の中を攻撃しようと思ったら接近戦出来るくらいまで近づかないとタイミングが合わせられないし、近づけたとしても狙う間は動けないからね。それに矢の本数も心もとないし」

「そうかぁ。私が行ったところで攻撃は通らなそうだし、なんかできることはないかな」


 色々考えるラガの脳裏に先程の戦闘で砂煙幕を受けたモンスターたちの様子が浮かび上がった。そして、それはさらにラガが小学生時代に癇癪を起こして周りの注目を引こうと校庭の砂を思いっ切り頬張ったこと思い起こさせた。


「これなら行けるかも」

「なにか思いついたの?」

「一応。できれば敵に見つかりたくないから、私が敵の背後に回ったら攻撃して注意を引いてほしい」

「そのくらいならいいよ。でも周りで戦ってる人との連携はどうするの?」

「近くの人には話しかけるようにするよ」


 ラガはモノクロに簡単な説明すると忍び足で戦場へ向かった。


 ラガは途中、態勢を立て直しているパーティーに近寄るとモノクロにした説明をしてできるだけ自分に視線が来ないように立ち回ってもらうことをおねがいした。

 こうしてブラックゴブリンエンペラーの背後をとると、遠くで見ているであろうモノクロに手を振って合図を送る。

 すると、ハンターたちの攻撃の合間に矢が飛んでくるようになった。


「Gaaaaaa」

「させるかよ!」


 チクチクと続く弓矢の攻撃でヘイトがモノクロに向くとすぐさま盾役が挑発スキルを用いて自分の方にヘイトを向け直す。

 そんな相手の動きを封じる様な戦いがしばらく続いたが次の瞬間、見るに明らかな大振りで振り払うかのような攻撃がハンターたちを襲う。


「今だ!」


 攻撃によって間合いを取らされたハンターたちの間にラガはブラックゴブリンエンペラーの死角から一気に躍り出た。そして、それはちょうどブラックゴブリンエンペラーが大きく息を吸う瞬間だった。


「砂煙幕!」


 ラガはスキルを用いてブラックゴブリンエンペラーの口めがけて砂を投げた。通常なら大きく腕を振って広範囲に砂をまくのだが、今回は砲丸投げのように押し出すように投げることで砂を散らばせることなく投げられるように工夫していた。

 砂煙幕のスキルのおかげで投げる砂の量がおおくなり、砂は小さな石の集まりという判定なのか投石スキルも発動した。


「Gaha」


 砂が口に入った瞬間、ブラックゴブリンエンペラーが咳き込むように怯んだ。しかし、それも一瞬だった。次の瞬間には怒りに満ちた目でラガをにらみつけながら手に持った棍棒で攻撃してきた。


「やば、避けられ…… がはっ」


 攻撃を受けたラガは木の葉のように吹き飛ばされる。

 ドンという強い衝撃とともに、一気に溶けるHPバー。

 ラガの視界は赤く染まり、蘇生受付カウンドダウンが開始される。しかし、蘇生はされることなく視界が宿泊所の天井に切り替わった。



「おや? ハンターさんいつの間にお戻りに?」


 宿泊所から出てきたラガに気がついた牧場主が話しかけてきた。


「あはは、ちょっとミスって戦闘から脱落してしまいました」

「戦いの方は大丈夫なのですか?」

「それは大丈夫のはずです。私が居たときは巨大なボスを倒すだけだったし、厄介な攻撃もおそらく潰せただろうから、もうすぐ終わると思います」


 死亡ペナルティーでステータスとスキルが制限を受けているので、こうして牧場の住人と話をしているとひときわ大きな大きな断末魔とともに襲撃イベント終了のテロップが流れた。


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