15 ワールドウォーイベント 本番・遊撃フェーズ
結界発生魔道具の運搬を終えたラガ達はそのまま大牧場に残り、周囲のモンスターを狩ったり牧場内の依頼をこなしながら過ごした。そして……
「ついにイベントが始まるな」
「イベント楽しみです」
イベントが開始される直前の朝九時五十九分、ラガとこのイベントのために一日時間を作った幼女のモノクロと少女のスノーが設置された結界発生道具を見守る。
そして、ピーンというアラームとともについにイベントが開始された。
「研究班より大牧場への襲撃予測です」
開始と同時に伝令と名付けられたNPCが飛び込んでくる。
その伝令から手紙を受け取り目を通した牧場主は発表する。
「襲撃予想時刻は『十八時』。その時間に合わせて城より五十名の騎士が派遣されてくる。ハンターの諸君には騷魔の襲撃を抑えるためにできるだけ時間まで『騷魔の兆し』を見つけて排除していただきたい。戦えぬものもにも兵器による支援や、食事や薬の配布などの後方支援をお願いしたい。ここにいる全員が力を合わせてこの騷魔の季を乗り切ろうではないか!」
牧場主の言葉を聞いた人たちは「おー」と声を上げた。
発表を聞いたラガたちはとりあえずウィンドウを開きイベントの詳細なルールを確認する。
騷魔の季は大きく『遊撃フェーズ』と『襲撃フェーズ』の二つがある。
『遊撃フェース』は拠点に罠や兵器を設置して防衛機能を強化したり、不足した物資の補充を行う。そして重要なのは『騷魔の兆し』を発見し、それを潰して回ることだ。それを行うことに寄って襲撃してくるモンスターの質と量が低下する。
『襲撃フェーズ』はその名の通り大量のモンスターが拠点を襲撃してくる。街には結界が張られ、派遣された騎士たちと力を合わせて拠点を守ることが任務だ。
とりあえずイベント内容を再確認したラガ達は街を出て騷魔の兆しを探し始めた。
「ねぇねぇ、あれ、そうじゃない?」
モノクロが指す方向を見てみると複数のゴブリンが見守る中で杖を持ったゴブリンが祈りを捧げるような行動を繰り返しとっている。そしてそのゴブリンをよく見ると頭上にキラリと光るアイコンが有り、更にその上の『騷魔の兆し』という文字には紫のオーラのようなエフェクトが掛かっている。
「ゴブリンが七匹…… ちょっと散らばっているし、どうやって戦おうかな?」
今は、投擲中心で戦うラガ、弓を扱うモノクロ、攻撃魔法も使えるヒーラーのスノーと後方支援型のメンバーが集まっている。
「奥のまとまってる四匹は俺の魔法で弾き飛ばして時間を作れるから、モノクロさんはあの杖持ちに先制攻撃をお願い」
「それならその後に私が手前の二匹を引きつけるよ。一応近接戦闘の心得もあるから」
スノーの提案した戦法に、ラガはそれを補うような提案をする。
「うん、ならそれで行きましょう」
モノクロはそう言うと身体と同じくらいいの大きさの弓を取り出すと矢を番えて引き絞る。
見た目上あまり引き絞れていないが、モノクロは弓術スキル等でその不足分を補っていると以前言っていた。現に運搬クエストの時も遠くの敵を的確に射抜いていた。
「アローレイン」
モノクロは一度狙いを定めた矢先を空へと向けるとそのまま放った。
「十秒ほどで攻撃が当たるので、準備してください」
モノクロの言葉を聞いたスノーは詠唱を始め、ラガはスリングに鉄球を入れて振り回す。
そして十秒後、モノクロが空に放った矢が数十本に分裂して杖持ちゴブリンに降り注ぐ。
「海祝儀・鯨波!」
タイミングを合わせたスノーの魔法で巨大な水のクジラが出現すると、ターゲットとなった四匹のゴブリンに向かって跳んでいく。そして、地面に落ちたクジラは、その姿を大波に変えてゴブリンたちを押し流す。見た目は派手だがそこまでダメージは入らないようだ。
ラガは矢が降り注ぎ始めたタイミングでゴブリンに向かって飛び出すと一体に向かって鉄球を放つ。そしてスリングスティックに持ち替えると、走る勢いも載せて思いっきり突きを繰り出した。
鉄球を背で受けたゴブリンはその衝撃で倒れ込み、突きを受けたゴブリンは後ろに吹き飛んだ。どちらも倒すまでのダメージは入らなかった。
しかし、それはラガの想定の範囲内だ。すぐさま利き手を空けると新たに鉄球を取り出して握りしめる。そして、うずくまるゴブリンの後頭部めがけて投げつけた。すると「Gugya」という断末魔とともに消えていった。
しかし、まだ戦闘の途中だ。突きでノックバックさせたゴブリンがすでに起き上がり始めている。
「ラガさん!」
モノクロ魚水の声に気が付きそちらを見ると、すでに弓を引き絞るモノクロの姿が見えた。
モノクロの意図を察したラガは起き上がるゴブリンを大きく迂回するようなルートでスノーが押し流したゴブリンたちに向かう。
起き上がったゴブリンは吹き飛ばされた怒りからラガを追おうとしたのだが、次の瞬間には側頭部に矢が刺さり消えていった。
残りは押し流された四匹。すでに起き上がっており、武器を構えてこちらに向かってきている。
ラガはもちろん、モノクロやスノーも敵に詰めにきている。
いち早くゴブリンを射程に捉えたラガはスリングスティックに山盛りの石をセットすると、真横に敵一団を薙ぎ払うように振り抜く。すると、遠心力で石がバラバラと飛んでいく。
「「「「Gyaaaa」」」」
石をガードするためにゴブリンたちの足が止まる。
その隙をついてモノクロの矢やスノーの水弾がゴブリンを襲い、ラガも中距離を保ちながら投石で戦闘を継続していく。
「シャープショット」
「海祝儀・魚水」
「これで最後!」
三人の攻撃が最後のゴブリンに命中して、戦闘が終わった。
それぞれドロップアイテムを回収し終わると三人集まる。
「なんだかイベントの敵、強化されてるのかな?」
「俺の魔法も耐えられたし」
「イベント仕様なのかも。鉄球を投げても急所に当てなきゃたぶん倒せなかったから」
「この仕様のままなら襲撃はちょっときついかもしれないよ」
モノクロの口から不安の言葉が漏れる。
たとえ防衛に失敗してもイベントの一つのためインスピをプレイするプレイヤーにはほぼ影響はない。しかし、イベントで亡くなったNPCは復活しないと明言されている。今まで世話になったNPCたち、関係性が出来たNPCたちが居なくなる。そんなことを考えると不安な気持ちが膨らんでくる。
「襲撃の時はさくたさんたちも来るし、他のプレイヤーも居るから大丈夫だよ。とりあえず今は、出来ることをこなしていこう」
「そうね」
ラガが励ます言葉をかけると、モノクロも不安な気持ちを払拭できたようだった。
騷魔の兆しはの排除の方法はモンスターを倒すだけではなかった。時には魔力溜まりを霧散させたり、ある時は特殊な素材の採取など様々だった。
そんな兆しの排除をいくつもこなして防衛する拠点となる大牧場に戻ってくると、様子がかなり変わっていた。
防衛策や逆茂木が設置され、大砲や大型のバリスタも等間隔で設置されている。更にそれらと拠点を囲むようにレールも敷かれている。
「こんにちは、あんたら戦闘職の人か?」
様子の変化にラガたちが驚いていると、女の子アバターのプレイヤーに話しかけられた。
「うん、そうです。そろそろお昼なので休憩に戻ってきたところなんです」
「それにしても、結構すごいことになってますね」
はじめに答えたモノクロに続けてラガが聞き返した。
「そうやろ! あたしら生産職は直接戦闘はできんけど、こうした兵器の扱いなら得意やからな。あの大砲なんかは一本の支柱で固定しているから、砲身を押せばある程度左右に打ち分けることも可能なんよ」
自慢気に話す生産職の女の子だが、ラガは別のことが気になっていた。
砲身を押して左右に打ち分ける大砲や、乗り込み式の巨大バリスタ。これらにラガは見覚えがあった。しかし、大砲のバリスタも実際に作れば似たようなデザインになるだろう。巨大槍が飛び出すギミックなどがない限りはまだツッコミのタイミングではない。そう考えて言葉を飲み込む。
「あんたら昼からもINするんやろ? その時よかったらあたしを手伝ってくれんかな?」
「手伝いって、俺ら生産系のスキルなんて持ってないぞ」
少女の提案にスノーが答える。
「わかってる。手伝ってほしいのは兵器の試射なんよ。ターゲットとなるモンスターを規定の位置まで引っ張ってくるのと兵器の使い心地をレポートしてほしいんよ。あんたら見た限りだと近接の装備しとらんから、あたしたちの兵器の威力が役に立つんじゃないかと思ったんよ」
確かにイベント用に強化されたモンスターを倒すのは少し大変だった。少女の言うように兵器が使えればかなり楽に倒せていただろう。
その事を考えたラガは二人と話し合った。そして、さくたんたちがINするまでまだ時間があるため、少女に協力することにした。
「ありがとな。あたしはラピスラズリ、長いからラピスでええよ。基本ソロプレイだけどたまにフレンドとマルチしたりする」
ラピスラズリがそう言うと、フレンド申請を送ってきた。
ラガは特に断る理由もないので、それを了承した。
「三人ともありがと。昼はとりあえず十三時半からよろしくな。」
昼の時間を決めたラガたちはラピスラズリに別れを告げると、宿泊施設に戻り、各自の部屋でログアウトした。




