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14 ワールドウォーイベント 準備期間・到着 交流

「まだ誰もINしてないか」


 昼食を早めに食べ終えたラガは荷車を守るように各結界内で停止しているアバターを見て、独りつぶやいた。約束の時間までまだ三十分以上ある。

 

「時間があるからとりあえず、周りの奴らでも処理しておくか」


 ラガは張った結界を解除すると近くのモンスターから戦闘を仕掛けていった。

 ラガは戦闘が得意ではなかったが、嫌いというわけではないし、担当医師の大門より足を激しく動かす戦闘を推奨されている。

 更に運搬クエストで荷馬車を引いていたラガは守られる対象だったため戦闘には参加できないでいた。

 自由に走って跳んでスキルを放つさくたんたちの姿を少し羨ましく思えていたのだ。


「ロックオン!」


 スロウスティックを装備したラガはスキル『ロックオン』を発動させて一体のゴブリンに狙いを定める。そして、スティックの網に小石を溜められるだけ溜めるとそれを思いっきり投げた。

 複数の石を一気に投げるとどうしてもバラバラに広がってしまうが、予めロックオンしていれば投げたすべての石にそこへ向かうように軌道を修正する力が働く。


 スキル『ロックオン』には命中率は大きく上がる利点があるが、軌道修正する力で放ったものの勢いがどうしても減少する。更に常に軌道修正する力が働いているため偏差射撃が出来ないという欠点もある。

 いかにスキルを活用するかそれがこのインスピの楽しさであった。


 「Gyaaaa」


 投げた石がバラバラとゴブリンに命中する。

 投げた石一つ一つはダメージは小さかったが、数があった為それなりのダメージが入っている。

 インスピはゲームである。なので、足の小指を角にぶつける程度のダメージであっても積み重なってHPが0になれば倒れてしまう。


「Gugyaaa」


 石をぶつけられたゴブリンがラガに気が付き、向かってくる。

 ラガはすでに二投目の準備ができているためすぐさま投石する。

 しかし、すでに気が付かれている状態だったため、大きく進路を変えられてしまった。

 石はロックオンのスキルのおかげで追尾したもののほとんどが修正範囲を超えてしまい当たらず、当たった石も大きく軌道修正したため威力が激減していた。

 しかし、二投目したあと一気にゴブリンに詰めていたラガはスティックを思いっきり振り抜く。

 思いっきり吹き飛ばされたゴブリンは地面に落ちると同時にパーティクルとなって消えた。だが戦闘はまだ終わらない。

 戦闘音を聞きつけた他のゴブリン二体がこちらに向かってきている。


「装備変更スリング、鉄球装填」


 投石紐に装備を変えると向かってくるゴブリン一体に狙いを定めながら振り回す。

 そして、二十五メートルほどまでゴブリンが近づいたタイミングで思いっきり投げつけた。

 ラガの攻撃に気がついたゴブリンが腕で防御しようとするが、ラガが放ったのは重量のある鉄球だ。

 勢いのついた鉄球はゴブリンが防御した腕を押しのけて頭部に命中する。そして、それが致命傷となりゴブリンが一体消えていった。

 真横で倒された仲間を見た残りのゴブリンは、即座に踵を返して逃げていった。

 それを見て、残りのゴブリンとも戦うつもりで投石紐を振り回していたラガはそれを仕舞い戦闘態勢を解いた。


「ラガさん、早いね」

「うぉっ」


 いきなり背後から女の子の声がすると同時に、耳元で男性の声がしてラガは思わず声を上げてしまった。

 振り返ると女の子アバターのスノーが居た。


「その姿で声が男って、結構違和感があるね」

「そうか? それなら少しチャットの方のボリュームを下げてみるか。……どうだ?」


 スノーがボリュームをいじった後、男の声が小さくなり、アバターに設定された女の子の声がはっきりと聞こえるようになった。


「……いや、スノーさんが男性ってわかってるからこれはこれで違和感がある」

「どっちだよ」


 ラガが率直な感想を述べると、スノーが漫才のツッコミのような語尾を強めたイントネーションで返してきた。


「今はパーティーを組んでいるから距離関係なく会話ができるチャットメインでいいと思う。違和感は……慣れる!」

「わかった」


 再びスノーの地声のほうが大きくなる。


「それよりもラガさん、戦っていたけどもしかして襲撃された?」

「いやいや、ちょっと時間があったし、今日はまだ戦闘してないなと思ったから周りの魔物を狩ってただけ」

「ああ、ラガさんずっと荷車引いていたもんな。何なら次から変わろうか?」

「大丈夫大丈夫。スノーさんたちのほうがレベルか高くて強いし、連携もうまく出来ていて車夫の立場としてはかなり安心できる。それに、職業の設定でこうして歩いても効率よく経験値が積めるから」

「『ウォーカー』だっけ? 珍しい職業選んだよな」

「そうだね。歩きたかったんだよ……自由に」

「そっか。結構作り込まれているもんな、このゲーム」


 浦賀としての状況は彼らには伝えていないが、スノーはラガの話を自分なりに解釈して納得した。

 こうしてスノーと話していると次々にチャットメンバーが戻ってきた。


「ただいま戻りました〜」


 少し間延びておっとりとした感じの口調は幼女アバターのモノクロのものだ。


「戻ったよ」


 さっぱりとした口調の女性は長身イケメンアバターのカワノ。


「悪い悪い、ちょっと遅れたか? 最近仕事で疲れててな、仮眠するつもりだったんだけどちょっと寝すぎたわ」


 少し自己中心的な話し方をするのはラガと一番に会った青年キャラのさくたんだ。


「ギリギリセーフよ。でも、あまり無理しちゃダメよ。眠たくなったら抜けていいから」


 カワノが答える。ラガはそれをウンウンと頷きながら聞いていた。


「分かった。けど今は仮眠した後だから結構調子がいいんだ。だから早く行こう……ラガさん、行ける?」

「うん、大丈夫」


 いきなり話を振られてちょっと驚いたが、急いで荷車まで戻ると車を引き始めた。


 午後もこれまでと同じ陣形で進んでいく。

 さくたんとカワノが遊撃で魔物などの進路上の障害を排除していき、弓を装備したモノクロや魔法を使うスノーが荷車周辺に付き、さくたん達が取りこぼした魔物や後ろから追いついてきた魔物に対処する。

 さくたん達のレベルが十分に高いため、道のりは順調だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ようこそ、いらっしゃいました皆様。本当にお久し振りですね」


現実時間で十五時三十分、予定より若干早く大牧場に到着できたラガ達はわざわざ建物から出てきた牧場の人たちに歓待を受けていた。


「お出迎えありがとうございます。ですが、まず依頼を完遂したいのですが……」

「それなら、牧場の中心に設置場所を用意しているので案内します」


 さくたんが牧場の代表者と話を進めていく。


「っと、移動する前に至急彼に一室用意してもらえませんか?」


 さくたんがそう言ってラガを指した。


「彼はもう少ししたら、休まなければならないので先に部屋を用意してもらえたらありがたいです」

「そういうことでしたら、息子に案内させましょう。おーい」


 代表者はにこやかな表情のまま十歳ほどの少年を呼び寄せると、ラガを部屋に案内するように伝えた。


「いや、時間的にはまだ余裕が……」

「だとしても今、丁度キリが良いから、このタイミングで休んでおけ。このまま作業しても変なタイミングで抜けることになるだろうから」

「そうそう、ラガさんは街からずっと重たい荷車を引いてくれていたからね。後は私達に任せて」


 残り二人もさくたんと同じ意見なようでモノクロは小さく手を振り、スノーは頷いている。

 はじめは時間いっぱいまで依頼に関わっていくつもりだったラガだったが、さくたん達の説得で最後は任せることにした。


「さくたんさん、カワノさん、モノクロさん、スノーさん、後はよろしくおねがいします」

「任せとけ!」


 ラガは一礼すると、「こっちだよ、ついてきて」と小さな手が引っ張られるがままその場を後にした。

 その後ろでは「せーのっ」と息を合わせる四人の声が聞こえた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ねぇ、お兄さんはハンターなんだよね。強いんだよね」


 部屋に向かう道中、案内をしてくれている少年が目を輝かせながら話しかけてきた。


「確かに私はハンターだけど、そこまで強くはないよ」

「ハンターなのに弱いの?」

「ハンターにもいろいろな人がいるからね。街の困った人を助けるハンターがいれば、君が思っているような強いモンスターを倒すことを目的にするハンターもいる」


 少年の話に素直に答えるラガ。強さというものに憧れる男の子気持ちは理解できる。


「お兄さんはどんなハンターなの?」

「私はね、言うなれば旅するハンターかな。この世界の色んな所をこの足で歩いてこの目で見て回りたいんだ」

「色んな所…… 旅……」


 ラガの言葉になにか惹かれるものがあったのか、考え込む素振りをする少年。

 その様子を見たラガはほほえみながら少年に伝えた。


「まだ旅を始めたばかりだけど時間が出来たら、旅の話を聞くかい?」

「きく!」


 ラガの提案に再び見を輝かせる少年。


「よし、それなら早く部屋に案内してくれると助かるかな」

「うん、まかせといて」


 元気に答えた少年が引く手が強くなった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 現実時間十六時五十分。足を動かす運動を終えたラガは、少年との約束通り今までの旅のことを話していた。


「すげー、じゃあ俺も謎を解いたらその風の故郷っていうところに行けるのか?」

「もちろん。きちんと謎を解いていけばシューイくんも行くことが出来るよ。でも、そのための準備もきちんとしなきゃだけどね」

「うん。俺、大きくなったら絶対ハンターになるんだ! そして強いモンスターをバンバン倒して、色んな所を見て回るんだ」


 ラガの話を聞いてテンションが上ったようでシューイ少年は木の枝をひろうとブンブン振り回しながら他の子ども達のところへ行ってしまった。


「息子に話をしてくれてありがとうございます」


 いつの間にか隣りに座っていたシューイの父親の牧場主が話しかけてきた。


「いえいえ、元気で素直ないい子ですね。そんな彼をなんだか焚き付けてしまったみたいで申し訳ないです」

「気になさらないでください。あのくらいの年頃の子はどうしても強いものやカッコいいものに憧れてしまうものです。シューイにはそれがハンターだっただけ。もう少し大きくなれば現実も見えてくるでしょう。どれにもし、今に気持ちを持ったまま努力を続けてハンターになったとしてもそれはそれで良いことです。……ただ、親としては危険な道に行ってほしくないという気持ちはありますがね」

「す、すみません」


 最後の父親としての本音混じりの皮肉にラガは謝ることしか出来なかった。

 

 こうしてラガ達は時間が許す限り大牧場にいる人達と交流を深めていった。

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