13 ワールドウォーイベント 準備期間・運搬クエスト
「この依頼を受けます」
ラガがハンター協会で提出した依頼は大牧場への結界発生魔道具の運搬だった。
その魔道具の数が拠点を守る難易度に直結しているとイベント説明から読み取れたのだ。
「おお、そうかそうか、助かるよ。緊急事態なんだがやはりこの手の依頼を引き受けるやつは少なくてな。遠方への運搬には馬車を使えるけど、馬車の使えない近場への依頼は更に引き受けてくれるやつが少ねぇんだ。魔道具は領主の館の倉庫で受け取ってくれ」
相当依頼がたまっているのか、ラガが依頼を引き受けると受付のおじさんは嬉々として地図を書いた紙を渡してきた。
「それじゃあ頼んだよ。おっと、この依頼、時間ギリギリだから遅れないようにな」
どうやら集合時間が決まっているようで受付のおじさんに注意された。
注意されたラガはハンター協会を後にすると急ぎ足で地図に記された場所に向かって歩みを進めた。
地図に記されていた領主の館の場所には大量の馬車が出入りしており、その流れに沿っていけばさほど迷うことなく時間前にたどり着けた。
「こんにちは、久しぶりね」
背後からいきなり話しかけられたラガは、驚いて振り返る。
後ろには緑の鎧を着こなす長身の男性が荷車を引いて立っていた。
ラガが視線を男性の顔、そして、頭上のアイコンに移してようやくその人に気がついた。
「久しぶりですね、カワノさん。前と雰囲気が違うからすぐに気が付かなかったです」
「装備を新調したからね。それよりもラガさんも運搬クエを受けに来たの?」
「はい。大牧場まで運ぶクエです」
「私達と同じクエね。あそこにはワイバーゲンでだいぶお世話になったからね。ゲームとはいえ無くなるのは寝覚めに悪いのよ」
ラガはカワノの言葉に共感した。大農場はラガも風の故郷を訪れる時の中継地点として利用しており、そこのNPCたちとも交流がある。そんなNPCたちが居なくなるのはどうしても避けたかった。
「とりあえず荷物を受け取りに行きましょう」
「え、他の人達は?」
「さくたんさん、モノクロさん、スノーさんは後から合流する予定なの。みんな揃ってから街を出る予定なんだけど、受け取り時間には私しか間に合わなかったのよ」
それぞれリアルでの事情もあるだろうから集まりにばらつきが出るのは仕方がない。それを加味してなのか、依頼の期限は現実時間で二日間と長めであった。
カワノと話しながら歩いていると、目的地の倉庫にたどり着いた。
「ここを抜けたら、倉庫番の兵士に依頼書を見せてください。それから、君たちはいつでもどこからか武器を取り出しているけど、敷地内では武器を出さないようにしてください」
門番の兵士に協会で受けた魔道具運搬の依頼書を提示すると、魔道具を用いた簡易検査の後に注意された。
もちろんラガたちに害意はないため門番の忠告に素直に「はい」と答えた。
「では、ここからまっすぐ奥に行くと管理している兵がいるので、彼に依頼書を見せてください」
丁寧に案内されてラガたちは無事に門を通された。
言われたとおりに進むとすぐに大きな倉庫にたどり着き、その入口には兵が一人帳簿を手に持って立っている。
「すみません、これ、よろしくおねがいします」
「ん? ああ、大牧場向けは、えーっと小が二つだな。おーい、小を2つだ」
ラガから依頼書を受けたった兵は依頼書と帳簿を見比べると、大きな声で中にいる人に指示を出した。
少しすると、しっかりと鍛え上げられた肉体の男たちが四人がかりで人が入られるほどの木箱を運んできた。
軽装をしているが、きちんと腰に帯剣しているところを見れば、この運んでいる男たちも兵士なのだろう。
「その荷車でいいか?」
「はい。お願いします」
木箱を運んできた兵が荷車を引くカワノに確認をとると、割れ物を扱うように丁寧に木箱を荷車に載せた。
「もう一箱あるから少し待っていてください」
木箱を置き終わった兵士たちはラガたちにそう伝えると、すぐに倉庫に戻っていった。
「結構重そうだけど、引けそう?」
積荷を終えると、ラガはカワノに聞いた。
荷車には二つの木箱がきっちりと乗っている。
「結構レベルを上げているから、イケるはず。一応後ろからも押して貰えると助かるよ」
「うん、わかった」
「「せーのっ」」
二人で息を合わせて力を込めると、荷車はギギギと音を立てながら動き出した。
初動はかなり力を必要としたものの、一度動き出してスピードが出てくると多少は楽になる。
「カワノさん、結構重いけど大丈夫そうですか?」
「ええ、大丈夫。だけど、すごい勢いで体力が削られてる。街を出る前には一度休憩をはさみたいかも」
「……カワノさん、よろしければ場所を交代しませんか?」
カワノとの会話で考えたラガは提案した。
「え? ラガさん、まだレベルが低いですよね」
「はい。レベルは低いですが、重量物運搬歩行というスキルを持っているから、大丈夫だと思います」
「そういうことなら」
一旦通行の邪魔にならないところに荷車を止めて、カワノと場所を交代する。
「それじゃあカワノさん、いきます。せーのっ」
準備ができたラガはカワノに声をかけると、再び息を合わせて荷車を引く。するとギィという短いキシミ音とともに荷車が動き出した。
荷車を引く感じは確かに重いものの後ろで押していた時よりも軽い力で動かせる。自分のゲージを確認してもカワノが言っていたほど体力ゲージは減らない。
「ラガさん、どう?」
「大丈夫です。引くほうが効率よくスキルが発動するようで押すよりもだいぶ楽です」
「それなら、荷車はラガさんにお願いしますね」
「まかされました! んで、これからどうしますか?」
「噴水広場に行きましょう。そこでみんなと合流して牧場を目指します」
「了解です」
ガタゴトと荷車を引いていると街のNPCたちから「頑張れよ」や「お願いします」などの声をかけられた。
そんな声に応えながら噴水広場まで行くとふわふわ衣装の幼女がトコトコと近づいてきた。
「カワノちゃん、お待たせ。って、あれ、ラガさん?」
「こんにちはモノクロさん。あのね、一緒に依頼を受けてくれたの、ラガさんだったんだよね」
荷馬車を引くラガに気がついて驚くモノクロにカワノが説明をする。
「そうなんだ。ラガさん久しぶりだね。えーっと、一緒にレベル上げした時以来かな」
「そうですね。皆さんと活動する地域がまだ違うからなかなか一緒にプレイするっていうことがないですよね。それに最近はソロ用のクエストをしたりしていたのでなおさら機会が少ないですね」
そんなふうに三人で話していると、残りの女の子キャラを操作しているスノーや戦士系キャラを操作しているさくたんも合流した。
ふたりともラガのことに気がつくとはじめは驚いたが、カワノの説明ですぐに納得した。
「それじゃあ計画としては、ラガさんが活動できる十一時半まで移動てから昼食休憩をして、十三時から運搬を再開する。到着予定時間が十六時くらいになるけどそれでいいかな?」
「うん、それで行きましょう」
「色々制限があってごめんな」
さくたんがそれぞれ活動できる時間を加味した運搬スケジュールを説明する。モノクロが一番に声を出して了承したが、十一時の休憩はラガの事情なので、申し訳無さを感じたラガはつい謝った。
「べつに規則正しくていいと思うよ。それじゃ、出発しましょうか」
このメンバーではさくたんとカワノがリーダーシップを発揮してチームを引っ張っていく。今回もカワノが全体に声をかけて街を出た。
道中はラガたちが十分にレベルが上っているためモンスターと遭遇しても足を止めることなく排除することが出来た。途中、「こうやって前かがみで車を押していると服が上がって絶対領域がエロくない?」と下ネタが飛び出て女性陣を引かせるようなことがあったが、その事も含めて昼食休憩の時間まで万事順調に進んだ。
「それじゃあ一応結界を張って休憩しよう。次は予定通り十三時にな。お疲れ様」
「おつかれさま」
「おつかれさまです」
「おっつー」
さくたんが荷車も入るように結界を張ると、それぞれログアウトしていった。そしてラガも「お疲れさまでした」といてログアウトした。




