12 ワールドウォーイベント 概要
最近インスピの世界の空気が変わったのを感じた。NPCの兵士たちが慌ただしく動いており、ハンター協会も人の出入り、特にNPCが多くなり依頼も外壁や作の補修、結界魔道具の配達や設置など街や村の守りの強化をするためのものが増えてきている。
「慌ただしくてすまんな」
ハンター協会に寄ったラガに対して受付をしていたNPCのおじさんが謝ってきた。
「いえ、大丈夫ですけど、いったいどうしたんですか?」
ラガが尋ねるとピコーンと目の前にウィンドウが現れた。
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ワールドウォーイベント『騒魔の季』
迫りくるモンスターの大群から世界を守れ!
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「どうしたんだ?」
急に現れたウィンドウに気を取られたラガを訝しんだのか、おじさんが声をかけてきた。
「ああ、いや、騒魔の季って」
「ああ、お前さんも知っていたのか」
「いや、聞いたことがあるだけで詳しいことは知らないです」
ワールドウォーというイベント名と『騒魔の季』という字面の印象あまり良くはない。
「騒魔の季っていうのはある周期で訪れるモンスターたちが一気に増えて騒がしくなる時期の事だ。増えて騒ぎ出したモンスターたちは街や村関係を襲ってくるから、厄介なことこの上ない。そんな騒魔の季の徴候が見られるから準備をするようにとお触れが出ているんだ。んで、このとおりいくらでも人手がほしい状態だから依頼受けていくよな?」
職員の話では今はイベント準備期間ということらしい。それに伴いハンター協会の依頼も増えているようで、繁忙を極める職員の圧が強い。
「う…… す、すみません。騒魔の季についてちょっと調べたいので、依頼はまた今度受けます」
ラガは職員の圧を振り払うかのように思いっきり腰を90度になるまで頭を下げて断った。
「………………」
「………………」
「はぁ、無理強いは出来ないかからな。調べモンが終わったら依頼を受けてくれよな」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
バッと勢い良く頭を上げたラガは入ってきたばかりのハンター協会を後にした。
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広場までやって来たラガはベンチに腰掛けて落ち着くと、ウィンドウの操作を始めた。
「インフォメーション開いて…… あった『ワールドウォーイベント 騒魔の季』」
目的の項目を見つけたラガは更にウィンドウを開いていく。
「イベントの内容は…… やっぱりモンスターの討伐がメインのようだな。期間中、定期的に大量のモンスターが街や村を襲うからそれらを守りながら討伐するんだな。えっと、街は魔道具で発生させる結界で守られているけど制限時間や耐久度があるみたいだ。モンスターを倒すなど拠点防衛に貢献するとポイントが手に入って、それを報酬のアイテムやスキルに交換できるんだな。あと他に重要そうなことは……」
ウィンドウをスクロールしながら読み進めていくと、注意事項という拡大された赤い文字が現れた。
「なになに、『イベント期間中は世界中のセーフティーエリアが撤廃されます。ログアウトする際は配布される『短期結界発生魔道具』をご利用ください』か。ちょっと面倒くさいかな。イベントに参加できてないアバターは安全な次元に一次避難させられるようだけど…… まだあるな、なになに『NPCの復活はありません。イベントの結果次第では世界のあり方がガラリと変わる可能性があります』…… えーっと、つまりはもしこのイベントで街が壊滅したら、イベント後も壊滅したままになるってことか!」
あまりにシビアな仕様に思わず声を上げてしまう。
ゲームという仕様上プレイしていると様々なNPCと関わっていくことになる。そして、どのNPCもまるで本物の人間のようにリアルで個性があるものばかりだった。「ここは〇〇の街です」などただ決められたセリフを言うだけのキャラクターはどこにも存在しなかった。
そして、NPCのことを考えていると二人のNPCの顔が思い浮かんだ。風の故郷を探している時に出会ったワンオのお爺さんと、彼を紹介してくれたお婆さんだ。
風の故郷のクエストクリア後、より報酬のよい依頼を受けるようになったので彼らとは疎遠になってしまっている。
「久しぶりに会いたくなったな。今はどうしてるんだろう?」
掲示板に移動して依頼を探してみる。すると、すぐにお婆さんの買い物依頼を見つけることが出来た。
報酬が安く非効率なその依頼を手に取ったラガは早速依頼主のお婆さんの家に向かった。
コンコンコン
「掲示板の依頼を受けたものです」
「はいはいはい、ちょっと持ってね。今、開けますから」
ガチャリとドアが開かれるとお婆さんが出てきて、早速目があった。
「あらあらあらあらあらあら、久しぶりねぇ。んまぁ、立派な装備を身に着けちゃって。もう立派なハンターなのね。さささ、中に入って。早速お茶にしましょう」
買い物依頼を受けるためにやって来たラガは、あれよあれよという間にお婆さんの家に招き入れられてテーブルにつかされる。
しかし、ラガに戸惑いはない。以前からお婆さんの依頼を受けたときは、まずお婆さんにお茶を御馳走になりながら、会話をしていた。そして、その会話でお婆さんが必要そしているモノを聞き出していき、それを後から買い揃えていたのだ。
ラガはひとしきりおばあさんと話した後、買い物にでかけた。話の中で、湯沸かしポットが使いにくくなったという話が出たので依頼にはなかったが、古いポットの処分と新しいポットの購入も請け負った。
「ふふふ、やっぱり一回で買い物が終わると楽でいいわね」
買い物後も、時間が余ったので水瓶を満たしたりしたあと、再びお茶を御馳走になっていると、そんな話が出てきた。
「どういうこと?」
「前にね、買い物を依頼してお金を渡したら、そのまま持ち逃げされたことがあったのよ」
「な、それって犯罪じゃないですか! 憲兵に訴えたりはしたんですか?」
「いいえ、額は大したことなかったし大げさにはしたくなかったから憲兵さんには言ってないわ。だけど、あの時は食材がギリギリでとても大変だったわ」
お婆さんは少し渋い表情を話してくれた。
お使いクエストはインベントリ使用不可で大変で面倒くさい上、報酬も安い。それこそ以前していた時はお使いのために渡されるお金のほうが多いくらいだった。
かと言って、盗みはもちろんこの世界でも犯罪である。露見すれば徴収のペナルティがついて指定金額が徴収されるまで一定金額以上を所持できなくなく。
そういったペナルティはあるもののプレイヤーから見ればやはりここはただのゲームの世界だ。現実世界より格段に犯罪行為を行うハードルが低いのだろう。
「一応自衛のために、顔なじみじゃない人が依頼を受けたときは、少額の買い物を数回に分けていってもらっているわ」
「うん、それがいいよ。俺ももうしばらくこの街にいる予定だから、時間があったら顔見に来るよ」
「ふふふ、こんな婆さんの顔を見てもなんお得にもなりませんよ。しかし、ありがとね」
和やかな時間が過ぎていく。
そして、ラガは聞きたかった話題を口にした。
「そういえば、騒魔の季って知ってますか?」
ラガの言葉を聞いてお婆さんの表情はが少し引きずった。
「ええ、もちろんしていますよ。昔はいくつもの村がそれによって滅ぼされ、沢山の人が死んでいったわ…… そう、もうそんな時期なのね」
お婆さんの表情に悲しみの色が浮かぶ。最後の方の言葉はまるでつぶやきだった。
しかし、すぐに柔らかな表情を浮かべると話と続けた。
「この街は丈夫な城壁があるし、兵士さんたちもしっかりとしている。今回もきっと大きな被害もなくやり過ごせるわ」
悲しみがにじみ出るお婆さんの微笑みを見たラガは、どう受け答えすればよいのか分からず、「そうなんですね」とありきたりな返答をした。
「そろそろ今日はお開きにしましょうか」
ラガの返答を聞いたお婆さんが提案してきた。気がつけば西日が部屋の奥まで差し込む時間帯になっている。
「今日はありがとうね」
入り口まで案内されたラガはお婆さんからお礼を言われた。
「あなたのおかげで食料は十分備蓄できたから、あなたはあなたが成すべきことをなさいな」
「ありがとうございます」
お婆さんから激励を受けたラガはそのままハンター協会へと向かった。
「準備クエストをしっかりこなせばきっとお婆さんが言っていた昔のようなことは防げるはずだ。まだ低レベルの俺がどれだけのことが出来るかは分からないが、出来る限りのことをやっていこう」
決意を言葉にした。




