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11 リハビリ

「だいぶ上手になったわね」


 浦賀がベッドの上で描く絵を見た女性の看護師が話しかける。


「時間ある時は練習をしてたし、この花だけなら見本を見ながら描けるからね」


 そう答える浦賀がスマホを見ながら描いているのはスカイパンジーのだった。



 浦賀がラガとして風の故郷を見つけてから三ヶ月の時間が経っていたが、インスピへのモチベーションは高いままだった。

 三ヶ月間は次の絶景を目指すためのレベル上げや素材集めなどの地味な作業ばかりだったが、風の回廊で知り合ったさくたん、カワノ、スノー、モノクロたちと交流しながら過ごせたためモチベーションが下がることのく過ごすことができたのだ。


 そして、現実世界では風の故郷を見たその日から感動を形に残そうと絵も描き始めた。

 はじめての絵はスカイパンジーや石柱をただ並べただけの全体が青く、遠近感も陰影もない平面的な絵で、記憶の中の風の故郷とは似ても似つかなかい、あの時に感じた感動を一ミリも表現できていない絵だった。

 そこで浦賀はリンゴや本など形が簡単なもののスケッチから練習を始め、更にテレビ番組の芸能人が描いた水彩画や色鉛筆画を査定する番組の説明を参考に技術を学んでいった。

 そして、三ヶ月が経った今では単体のものであればまあまあ見られるものを描けるようになっっていた。



 コンコンコン

 戸を叩く音が聞こえたのでそちらを見ると、看護師が作業のために開けっ放していた戸のところに主治医の大門が立っていた。


「大門先生」

「浦賀さん、変わりはないですか?」

「はい、いつもどおりです。あの、何かあったんですか? 回診の時間でもないですし……」


 いきなり部屋に来た大門に浦賀は少し戸惑っていた。


「これからの方針についてお話しようと思いましてね」

「これからのこと、ですか?」

「ええ。今の所このフルダイブ型VR機器を用いたリハビリは順調な成果を出しています。そこで、そろそろ現実でのリハビリを開始していこうと思っているんです」

「そんなに順調なんですね。あんまり実感ないんですが」

「今までは浦賀さんが動かしていたのはあくまでVRの中の肉体なので、これからは現実の肉体を動かす練習をしていただきたいんです。それに、今まで動かしていなくて落ちた筋力もつけていかなければなりませんから」


 大門の説明に納得した浦賀は現実でのリハビリを了承した。


「それでは来週からリハビリの予定を組みますね。リハビリは浦賀さんの体調を見ながらになりますが、週に三回で足を動かす練習から始めていきましょう」

「わかりました。頑張ります」

「頑張っていきましょうね」


 大門は浦賀の様子を見ながら激励の言葉をかけて、部屋を出ていった。


「順調にいてるみたいね」

「順調なのは大門先生や看護師さんが頑張ってくださってるおかげです。俺はただゲームをしていただけなので」


 浦賀は自嘲気味の笑みを浮かべる。


「そっか。でも、これからは浦賀さんも一緒に頑張っていけますね」


 看護師の言葉にハッとなった浦賀は今度は心からの笑みを浮かべて答えた。


「そうですね。頑張ります」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 時間は経ち、現実世界でリハビリを行う日になった。

 浦賀はベッドの掛け布団を取った状態で仰向けになり、大門医師や看護師たちの準備が整うのを待っている。

 久しぶりの現実世界でのリハビリだ。

 前回は足の治療の一環でリハビリを頑張っていた。しかし、その時はただただ辛いだけな上、一向に成果も出なかったため心が折れてしまった。


「こちらの準備は整いました。浦賀さんの準備は大丈夫ですか?」

「はい。いつでも始めてください」


 カチカチと正確な拍を鳴らすメトロノームを背景に大門が聞いてくる。浦賀の準備はただ横になるだけなので、すでに整っている。


「それでは説明しますね。まずはVRでしているような動かし方をしますが、今回はエイトカウントで足を畳み、再び8カウントで……」


 タブレットで動画を再生させながらリハビリの動きを説明している。

 浦賀も顔をそちらに向けて説明をきちんと聞いている。


「それでは実際に動かしますね。浦賀さんも拍を意識して動かすように意識してください 3・2・1・1・2・3・4……」

「ん……」


 大門の掛け声に合わせて浦賀もインスピでしていた時のように足を動かすように意識する。

 看護士の手を借りているとはいえ、意識して自分の足を動かすとなんとも言葉にしがたい感覚が伝わってくる。

 それはおそらく、意識・動き・認知が一致したことによって生まれた感覚なのだろう。


「大丈夫かい?」


 エイトカウントで完全に足が畳まれた状態になったタイミングで大門が話しかけてきた。


「大丈夫です。ただ、くすぐったいような、ビリビリするようななんとも言えない感覚があるんです」

「いままでやってきたVRでのトレーニングのおかげで神経が活性化されて敏感になっているようですね。大丈夫なようなら続けますがよろしいですか?」

「はい。痛いとかではないのでお願いします」


 足のトレーニングが続く。足を動かされるたびに走る感覚に「んっ、んっ」と声が漏れる。



 足を曲げ伸ばしや上げ下げするトレーニングを三セットする頃には浦賀の息はすっかりと上がっていた。


「今日は初日ですので、これでお終いです。よく頑張りましたね」

「ありがとうございました」


 主治医の大門を始め足を動かすサポートをしてくれた看護師にもお礼を言って見送ると、昼食が運ばれてくるまでベッドに横になって休んだ。


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