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 突如発表された世界初のフルダイブ型VRゲーム『INFINITY SKILL PICKER』通称インスピ。

 タキオン粒子を用いることで実現したゼロタイム通信と専用デバイスを取り付けることにより脳波と神経を伝わる電気信号をジャックして思い通りに動かせるアバターで、量子コンピューターで作られた広大な世界を楽しむゲームである。

 発売初期はゲーム系インフルエンサーを招待したことにより動画などでゲームの圧倒的な自由度やプレイヤーと見紛うほど人間味に溢れたNPCが拡散され一気に有名になった。更に廉価版デバイスが発売された事により一気にゲーム人口が増え、今、最も熱いゲームとなった。

 そんなインスピの世界に、また一人の青年が新たに降り立った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ここがインスピの世界かぁ。すごいな、アニメやゲームのの世界に入り込むってこういったことなんだろうな」


 はじめの街イチイの噴水広場の噴水前に青年は現れると、周りを見回しながらつぶやいた。

 周囲の街並みや行き交う人々はアニメ調なのだがしっかりと質感があり、地面の石畳も足を動かせばザッザッと触感がしかりと伝わってくる。そして、コントローラーを介さなくてもジャンプしようジャンプが出来るし、しゃがもうと思えば考えたとおりにしゃがむことが出来た。

 思った通りに動かせる操作性や街の作り込みに感動しながら歩いていると、トンと衝撃とともに軽くよろけてしまった。感動のあまり周りばかりに気を取られて肝心の前方の注意が足りておらず、何かにぶつかったようだ。


「おっと、気をつけろよ」


 頭の上から声が聞こえてきた。どうやら大柄の男性キャラクターにぶつかったようだ。


「えっと、すみませんでした」


 改めて不注意でぶつかったことを謝る。


「いいってことよ。それよりその基本服に回りに来をと垂れる歩き方…… 君、今回が初INだな。ようこそインスピの世界へ」

「は、はぁ。ありがとうございます」


 あまりにグイグイとくる男性に青年は少し引き気味になる。


「おっと、すまないな。君の初々しさを見ていたら、自分が初めてINした感動を思い出してテンションが上ってしまったよ。遅くなったが俺は『ゴウキ』、よろしくな」


 ゴウキが名乗った瞬間、ゴウキの頭上にゴウキの名前が現れた。認識することで初めて名前が表示されるシステムのようだ。


「俺は『ラガ』です。あの、せっかくなのでお聞きしたいのですが、インスピって何をすればいいんですか?」

「なんだ? もしかしてインスピをよく知らなきまま始めたくちか?」


 ラガが聞いた瞬間からゴウキの表情が渋いものへと変わっていく。


「えーと、一応決まった時間にしなきゃいけないことが少しあって、そのためにこのゲームを始めたんだけど、そのやること以外は基本自由だなんです」

「うーん、そんな状態だとインスピを持て余しそうだな」

「持て余す?」

「ああ、インスピは基本ストーリーがない上に自由度が恐ろしく高い。はじめはリアルさなどの目新しさで大丈夫だとしても明確な目標がないままだとあまり楽しめないまま時間を無為にしてしまうかも」

「そうなんですね」


 ゴウキの話を聞いてラガは考え込む。


(特にしたいこともないからある程度見て回ったら、アレをするときだけINすればいいかな)


「ありがとう、ゴウキさん」

「え、ちょ、待て待て待て待て」


 礼を言ってその場を離れようとしたラガをゴウキが慌てて引き止める。


「せっかくのインスピ何だから楽しんでほしい。……そうだな、ラガはなんの『ジョブ』を選んだんだ?」

「ジョブ?」

「ああ、スキルの覚えやすさを決めるものでキャラメイクのときに選ぶはずだ。ランダム選択はできなかったはずだから、色々考えたり、直感で選んだりしたはずだ」


 ラガはキャラメイクのときのことを思い返すと、たしかにジョブという項目を選んだ覚えがあった。そして大量にあるジョブの中で一つだけ目に留まるものがあり、そのジョブを選んだ事を思い出した。


「することが見つからないなら、選んだジョブから考えて見るものいいぞ。直感にしろ熟考したにしろそのジョブを選んだからには何かしらの思いがあるはずだからな」

「たしかに、ジョブを選ぶときにこの『ウォーカー』というジョブに惹かれたのを思い出したよ」

「ウォーカー? 聞いたこと無いマイナーなジョブだな。名前から察するに探索系のジョブかな。それならこういうのもいいかも知れないな…… よし、これをラガと共有っと」


 ラガのジョブを聞いたゴウキはぶつぶつと呟きながら視線の先の宙で指を動かしていた。そして、それが終わるとピロリンと電子音がなった。


「ウィンド共有依頼出したから、受けてくれるかな?」

「えっと、どうすれば?」

「視界の右上に意識も持っていくといいよ。慣れるまでは右上のアイコンを指でタップするようにすればいいよ」


 ゴウキに言われたとおりに指を動かすと、指がアイコンに触れたタイミングで指先にコツンとした感覚ともに視界に半透明のウィンドウが現れた。そして、ウィンドウの一番上の項目のウィンド共有依頼という項目が黄色く光っていた。

 ラガはその項目をタップすると、次に出てきた『ゴウキの開いているウィンドウを共有しますか?』のウィンドウで『はい』を選んだ。

 すると大文字で『6大絶景を見よう』という文字が書かれたウィンドウが表示された。


「よし、共有できたな。これはな……」


 ゴウキはウィンドウを動かしながら6大絶景の説明をしてくれた。

 要は6大絶景を巡ることを目標に、インスピの世界を旅してみてはどうかという提案だった。

 そして、その提案はラガにとっても魅力的なものだった。



「色々教えてくれてありがとうございます。あのー、よろしければフレンド登録してもいいですか?」


 色々話を聞いてインスピを楽しめそうとおもたラガは、意を決してゴウキに訪ねた。


「えーっと、あー」


 しかし、ゴウキの反応は渋い。ちょっと困ったような表情になっている。


「まぁ、仕方ないか」


 そうつぶやいたゴウキは自分の頭上の名前を指差した。

 ゴウキの名前はいつの間にかプレイヤーを表す緑から紺色に変わっており、名前の頭にはパソコンのアイコンが追加されていた。


「実はこのアバターは運営側のアバターなんだ。俺はプレイヤーと同じ目線で他のプレイヤーと交流してアンケートなどでは上がってこないユーザーの意見を吸い上げるのが役目なんだ。なんか騙したようになって済まないな。本来、プレイに影響を与えるような関わりはご法度なんだけどな」


 ハハハと笑いながらも申し訳無さそうに説明するゴウキ。


「いえいえ、ゴウキさんのお陰でこのゲームを楽しめそうです。とても助かりました」

「そう言ってくれると助かるよ。ここからが君の冒険の始まりだからな、インスピの世界を楽しんでいってくれ」

「ありがとうございました」


 ゴウキはラガの方をポンと叩くとそのまま歩いていった。ラガもそんなゴウキに最後まで礼を尽くした。


「よし、目標も出来たし、街の探索を再開するか」


 再び一人になったラガは、街の散策を始めた。今度はきちっと周りに気をつけながら。

 これから自分はどんな旅をこの世界でしていくのか? 6大絶景とはどんな景色なのか?

 様々に期待が入り混じっているラガの足取りは軽かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 街は細かなところまでしっかりと作り込まれており、特にメインストリートは様々な店が軒を並べており、その賑わいはひとしおだった。

 更にその通りから道を一本入れば住宅街となり雰囲気も一変する。楽しく遊ぶ子どもたちの声にご飯の良い香り、窓から吊るしていた洗濯物を取り入れる光景など、たしかにそこの暮らしがあるのだと感じられた。


 そんなふうにラガが街を楽しんでいるとピピピピピとこの世界には似つかわしくない電子音が響き、目の前に15:40と現実世界の時間を表したウィンドウが展開された。

 瞬間、ビクッと体を強張らせたラガだったが、それがインスピを始める前にセットしたタイマーであることを思い出すと、落ち着いてアラームを止めた。


「結構時間立つのが早いな。というかもう時間だから、早く宿屋に行かないと」


 ラガは急いでメインストリートに戻ると、予め目をつけていた宿屋にはいっていた。

 そして宿屋の部屋に入ったラガはベッドに寝転がると、ちょうど時間となり部屋にカチカチカチとメトロノームのように一定の拍が鳴り始める。


「1・2・3・4」


 拍に合わせてカウントを取りながらラガは右足を腹につくくらい小さく折りたたむ。


「5・6・7・8」


 そして、次のカウントでもとに戻す。それを左右の足を交互に10回ずつ繰り返した。

 それが終われば、同じ動きを今度は両足一緒に10回行った。

 他にも足を伸ばしたまま上下させたり、足首を回したり、足の指を開いたり閉じたりも拍に合わせて行った。


 その運動が終わるとラガはウィンドウを操作して、ログアウトした。

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