第1章4 学園の危機
「ブラッドくん。ホントにありがとう」
フォーレ王国にいた魔物を全て狩り、馬車での帰りにエマはブラッドに、そう伝えた。
「別に大したことをしたわけじゃねぇよ。それにすごいのはコイツの力だ」
チラリと白虎の方をブラッドが見ながら話す。白虎は猫の姿で眠そうにアクビをして、ゆったりしている。
「ううん。先生が危険過ぎる、撤退だって、そう判断する中、ブラッドくんは、エマ行くぞって言ってくれた。そのおかげで、フォーレ王国は、また王国として立ち直ることが出来るんだよ。本当にありがとう」
「いや、まぁ、仲間だからな。当然だろ」
「うん!」
満面の笑みで、そう返すエマに、ブラッドは、目を逸らした。
「それにしてもエマがお姫様だったとはなー。マジックカードなんて持ってるから、どこかの金持ちであることはわかってたんだけどな」
「そうでもないよ。ウィル。お父さんにとって私は、あくまでも妾の子でしかないから、そこまで裕福な暮らしじゃなかったわ」
「え? そうだったの? なんかごめん」
「ううん。私こそ黙っててごめんね」
「でもフォーレの王の子供が、学園で奴隷やらされてるって大丈夫なのか? ってあれ?」
チラリと右手の奴隷紋を見ると、そこにあった奴隷紋が綺麗さっぱり消えていた。
「ど、奴隷紋が消えてる」
「私も」
3人の手から完全に奴隷紋がなくなっていた。
***
異変に気付き馬車をかなり速いスピードで飛ばして学園まで帰った。奴隷紋が消えていると気付いて4時間は経っていた。
「学園もフォーレ同様、狙われてるかもしれねぇ。気をつけろ」
警戒しながらジェームズを先頭に歩いて行く。ブラッドは、白虎を刀化して、腰にぶら下げ、いつでも鞘から抜けるようにして歩いている。
「誰もいねぇ。クソッ。学長が言ってた通り狙われたわけだ」
学園の廊下、教室、訓練所の前を通るが誰1人としていない。
「それにしても誰もいないって、どういうことなの? 奴隷たちは、貴族から差別を受けてたし、奴隷紋が消えたからマジックカードを盗んで逃げたとしても、貴族たちもいないのは、どう考えてもおかしいわ」
それでも奴隷たちが奴隷紋がなくなっても逃げないだろうと思う。普通に農家として暮らすよりも、よっぽど豪華に暮らせるのが、この学園だからだ。
「わかんねぇ。さすがに学園を守ると言っていた学長は、学園に残っているだろう。学長室に行こう」
そう提案したジェームズを先頭に、学長室に向かい扉を開けた。
「やぁ、やっと白虎を連れて帰ってきてくれたね」
学長室に1人の男がうつ伏せで血を流して倒れており、その傍らに槍を片手に持ったオーランドが立っていた。
「まっ、まさか、学長!」
ジェームズが、うつ伏せに倒れている男の顔を確認すると、ロバートが死んでいた。
「お、お前が学長を殺したのか?」
「白虎を奪い取るのに、邪魔ですからね。奴隷紋の契約書を燃やして、最強の学長さえ殺せば、全員逃げていきましたよ。勝ち目がないことに気付いてね!」
ガキンッ! とオーランドが突き出した槍を白虎の刀で受け止めた。槍からは異様な気配を感じる。
「ほう。やはり珍しい剣だと思いましたが、白虎を武器化出来たんですね! これはすごい」
そう言うとオーランドは槍で窓ガラスを破壊し、外へと飛び出して行く。
「逃すか!」
ブラッドはオーランドを追いかけて外に出る。しかし、
「やめろ! 追うな!」
引き止めようとするジェームズを振り払いブラッドはオーランドを追いかけた。
「逃げる? 違いますよ。キミなら、そう言って追いかけてくれると思ってました。新しい力を手に入れて勘違いしてるんでしょ? 自分だけが特別とか思ってるんじゃないですか?」
ヒュッという風を切る音を立てて、槍がブラッドに迫る。しかし、ブラッドはバックステップで避けて攻撃をかわそうとする。
『武器で防御しろっ!』
見切っているはず。そう思いながらも、ブラッドは、白虎に言われた通り、本来槍が届いていれば当たるであろう場所に、刀を構える。届くはずがない。そう思っていたが、
ガキンッ! という音を立てて槍が当たる。だけではない。槍の持ち手がドンドン伸びて、そのまま、ブラッドは、伸びた槍に突き出されて壁に激突する。
「チッ。今ので殺せたと思ったんですがね。命拾いしましたね」
「「ファイアボール! 発動!」」
槍が伸び切ったところを狙い、ファイアボールをジェームズはマジックカードで放ち、通常詠唱でエマが放つ。しかし、一瞬で槍が縮んだかと思うと、槍でファイアボールを振り払いかき消してしまった。
「は、破魔の力だと!」
『あれは青龍の武器で間違いないな』
「援護を頼む!」
自分が攻めるしかない。そう決心したブラッドが、スキル縮地で一瞬で間合いを詰めて、刀を抜いた。
「まだまだですね」
しかし、ブラッドの刀は空を切る。すかさず、オーランドの槍の蓮撃が、ブラッドを襲う。なんとか受け切るが、今度はブラッドが防戦一方だ。たまらず大きくバックステップして、一旦距離を空ける。そこに、
「「ファイアーボール! 発動!」」
隙をついたファイアボールがオーランドを襲う。しかし、ニヤリとオーランドが笑う。
「当たるかぁ!」
叫ぶオーランドは、槍の底である石突を地面に当てると、槍を急激に伸ばして、前へと突進し、ファイアーボールを避けて、さらに、ブラッドとの間合いを一瞬で詰める。
「死ねぇ!」
呆気に取られたブラッドは、反応が遅れながらもオーランドの攻撃を防御する。しかし、吹き飛ばされ体勢も悪く、尻もちをついて倒されてしまう。
「白虎は、私のものだ!」
オーランドは、ブラッドを殺すチャンスを逃さない。ブラッドの心臓目がけて、槍が突き刺さろうとする。
「身代わり! 発動!」
ザクッ! と音を立てて、槍が胸を貫いた。ブラッドとジェームズが入れ替わったことで、ジェームズの胸を貫いていた。
「あぁ。ジェームズ。最後の最後まで邪魔してくれますね! うっとうしい!」
ズズズズズッと青龍の槍をジェームズを貫き地面へと突き刺していく。
「バカめ。トルネード! 発動!」
「な? まさか。離せ!」
オーランドとジェームズを中心に竜巻が巻き上がる。オーランドは、深く槍を突き刺してしまい、尚且つ、ジェームズが槍を掴んで離さない為、竜巻から逃げることが出来なかった。
「「ファイアーウォール! 発動!」」
エマとウィルが、ファイアーウォールを唱え、竜巻の影響もあって火災旋風が起こる。学園で教わる最強の混合魔法である。
「エマ! ウィル! 何やってんだ! そんなことしたらジェームズが……!」
「先生は助からない! 胸をさされたあの状況じゃ助からない! これしかないの!」
エマの手は震えていた。そんなエマの姿を見て、ブラッドは思う。ああ、そうか。自分には人を殺す覚悟が出来てなかったんだ。と。
魔力が尽きるまで、エマとウィルは燃やし続けた。ウィルの魔力が尽き、そして、エマの魔力が尽き炎が止んだ。真っ黒焦げの二つの遺体が転がっており、本当に、死んだのか? 3人は確認するために近づいた。
「やってくれたなぁ!」
カッ! と閉じていた目を見開き、ジェームズから抜けていた青龍の槍をエマへ刺そうとする。しかし、勘が良かったウィルがエマを助けたことにより、ウィルの背中をザックリと切られた。
「殺してやる! 殺してやるぞ! お前らごとき!」
「エマ、ウィルの治療を頼む。ヒールは使えるな?」
「出来るけど、1人で戦う気?」
「大丈夫だ。覚悟を決めたから。オレの最大の一撃だ」
刀を鞘に仕舞い、ブラッドは、ありったけの魔力を刀にこめる。
そうだ。オレは知っている。縮地もそうだったけど、最大の攻撃の技を、白虎の刀を握ったその日から。そう思いながら、ブラッドは白虎の刀を強く、強く握り締める。
「何、カッコつけてんだ! 死ねぇ!」
高速に伸びる青龍の槍が、ブラッドに迫る。しかし、ブラッドは、避けながらスキル縮地を、使うことで一瞬で間合いを詰める。
間合いを詰めるのは、確かに速い。だが、その後の攻撃が遅い。防御出来る。オーランドは一瞬ヒヤリとしたが、防御出来ると判断し、青龍の槍で防御しようとする。しかし、
スキル『雲外蒼天』
「え?」
そこにオーランドの体など無かったのか? そう思わせるほど、目にも止まらぬスピードで、オーランドが防御する暇も与えず、オーランドの体を膨大な魔力をまとった白虎の刀は、一刀両断した。
「う、そ、だ」
ブラッドは、一刀両断した後、オーランドの頭に刀を刺して、絶命させた。そして、青龍の槍は、巨大な龍となり、空へと昇り消えて行った。