第1章2 聖なる獣
ブラッドが学園に来てもう3ヶ月が経っていた。
「はぁーーーー!」
と掛け声をかけてブラッドは木刀でジェームズを叩きつけようとするが当たらない。
「その程度じゃまだまだだな」
今度はカンッカンッカンッとジェームズの速い攻撃に、ブラッドは防戦一方となり、受けることしか出来なくなる。
後がなくなる前に。
そう判断したブラッドは大きくバックステップして、ジェームズの木刀を避けて、すぐに突進して突き刺そうとする。だが
「あめぇよ」
とジェームズは、クルッと回転しながらブラッドを突きを避けて、ブラッドの腕に木刀を叩きつける。
「いってぇ!」
「おおげさだな。折れてねぇだろ? 手加減してやったんだから。あとこれで100勝0敗だ」
ブラッドが魔法軍事学園に来て3ヶ月間、ジェームズに稽古を付けてもらっていたが、一度もジェームズには木刀を当てることすら出来ていなかった。
「まぁでもそろそろだな。今のお前の状況で今の生活が維持出来ると思うなよ。そろそろ任務に出るタイミングだな」
「んなことはわかってるよ。実際田舎に居た時より豪華な暮らしをしてるんだからな。田舎より奴隷になった方が、豪華って意味がわかんねぇ」
「あとわかってると思うが、任務中に逃げたりすると死ぬからな。契約書にサインしたのもあって、お前の右手には奴隷の紋が刻まれてるからな。それを忘れるな」
そう言われて、ブラッドは自分の右手を見る。
「任務でいつ死ぬかわからんからな。いつ死んでもいいように親に手紙でも定期的に書いておけよ」
「うるせぇよ」
「まぁ自分の食い扶持を稼ぐのは当たり前として、この学園に納める金も稼いでこなきゃならねーんだからな。3ヶ月鍛えてやって少しはマシになったろ? Dランクの任務があって人手を探してるみたいだからオーランドのとこへ行け」
そう言われたブラッドは、実技訓練所を出て行った。
「えーっとここか?」
学園に来て3ヶ月は経っていたが、まだ行ったことのない所が多く、戸惑いながら職員室と書かれた部屋にブラッドは入る。
「あっ! こっちだよ! ブラッドくんだよね?」
メガネをかけたいかにも好青年風の男性がブラッドに近づいてきた。
「たいしたことない任務なんだけどね! 弱い魔物が大量発生してて人手が足らなかったんだよ! 一通りの訓練と魔力操作が上手くて、戦闘は出来るタイプだと聞いているよ」
「まぁそれなりに」
「じゃぁ3、4日かけて旅に出ることになるからさ。用意だけして校門で待っててくれ。内容はその時に伝えるよ!」
「用意はもう出来ています。校門ですね?」
「準備がいいね! よろしく頼むよ!」
そうオーランドに言われたブラッドは考え事をしながら歩いていた。弱い魔物って一体なんだ? 一体どこに行くんだろうか? と。
そんなことを考えながら歩いていると、すぐに校門の前に着いてしまう。すると、
「ニャア」
と可愛らしい白い猫が校門の前で鳴いていた。
撫でてやろうとすると、スッと避けられてしまう。
「そいつは学園のアイドルって呼ばれてるんだよ」
と長髪の青年はブラッドに話しかけた。
「僕が3年前にここに来る前から、そう呼ばれてたんだよ。ちなみに僕はクリス、キミはブラッドだね?」
「ああ。そうだ」
「貴様! 誰に向かって、そんな口を聞いてるんだ! そうです! だろう?」
クリスの後ろに居た筋肉質で短髪な青年が、ブラッドの右手にある奴隷の紋をチラリと見てから、ブラッドの胸ぐらを掴んできた。
「この方は、校長の息子であり、この学園の次期校長だぞ? 奴隷風情が!」
筋肉質で短髪な青年がブラッドの胸ぐらを掴み、ガンとばしてくる。しかし、
「それ以上むさ苦しい顔を近づけてくるなら遠慮なく刺すぞ」
とブラッドは、いつの間にか抜いたナイフを、筋肉質の短髪の男の胸に突き付けていた。
「こ、こら、リアムよさないか! ブラッドくんごめんよ!」
そう言いながらクリスはリアムの腕を引っ張り、ブラッドから離した。
「あれ? どうしたんだい?」
すると、校門にオーランドが歩きながら現れた。
「大したことではありませんよ。オーランド先生。任務に行きましょう」
「はぁ。そうですか。では行きましょう」
どことなくブラッドとリアムの雰囲気が悪いのを察知した先生だったが、それ以上聞くこともなく、3人は校門を出て歩き出した。
歩き出してすぐに、ミャアという鳴き声が聞こえて振り返るが、すでに猫は校門にはいなかった。
「あ、そうそう。今回の任務について詳しく話すね」
4人が森の中の道を歩き出してから数分後、オーランドが口を開いた。
「今回の任務は、洞窟の中に大量発生したシャドウウルフの退治をすることだよ」
「シャドウウルフ程度の退治に4人も必要ですか? 大量発生していたとして、3人で十分だと思いますけども」
そう言いながらリアムは、むしろ足でまといだと、言わんばかりの見下した目で、ブラッドを見る。
「3人で十分なら、それで良いんだけど、問題はシャドウウルフの数が100匹以上ってことに加えて、ミスリル鉱山の洞窟に棲みついちゃったってことだね」
「100匹以上というのは流石に骨が折れますね。しかもミスリル鉱山に棲みついたとなると、道具や機材が壊されても面倒ですし、シャドウウルフが大量に居ては、仕事も出来ない。迅速に全て、片付ける必要がありますね」
オーランドから聞いた内容で的確にクリスは答えた。
「そうなんだよ。依頼ランクとしては1番低いEランクなんだけどスピードも重視されるからね」
「それでも足手まといが増えれば、達成に時間がかかりそうですけどもね」
「いちいちテメェはケンカ売ってんのか?」
「ああ、その通りだ」
「ちょいちょいちょい! 待った! 待った! 任務前だよ! 一体どうしたっていうの?」
困惑したオーランドは、睨み合い、すぐにでも飛び掛かろうとするリアムとブラッドの間に入り、アタフタしながら止めに入った。
「良い機会ではないですか? 先生。ここで一つ試験をするのもアリでしょう。連れて行く前に実力を知っておくべきだとも思います」
「だ、だけど、ケガでもしたら大変だし、それに、魔力を減らさない為に、わざわざ目的地まで歩いてるんだろ?」
「であれば剣と魔法は使わずに、肉弾戦のみで試験をする。2人はそれで納得出来るかい?」
「「それで良い」」
お互いそう言うと、突っ込みあって殴り合う。上手く殴っては避けて、繰り返すので当たらない。
「ほう。魔力操作は思ったより出来るじゃないか」
「殺すっ」
一気に間合いを詰めて、殴りにかかるブラッド。しかし、リアムはそのパンチをクルッと回転しながら避けるとそのまま裏拳でカウンターを当てにくる。しかも、速度が変化したように感じる。リアムはこのカウンターを当てるために、手を抜いて殴り合いをしていたのだ。
しかし、そのカウンターをブラッドはしっかり防御する。当たると思い奇襲戦を仕掛けたリアムが逆に驚愕する。そして、ブラッドはすぐにリアムの太ももにローキックを当てて、尻もちをつかせる。
「いいざまだな。ぶっ殺す!」
ブラッドは拳を振り下ろそうとする。だが、
「貴様が死ねぇ!」
なんとリアムの手から炎が溢れる。
「やめろ。リアム」
ドコッ!
と音を立てて、リアムをブラッドは殴り付けた。
「はい。そこまでだ。2人とも。リアムもブラッドくんが弱くないことはよくわかったろ?」
「納得出来ません!」
「良い加減にしろ。リアム。魔法まで使おうとして。無様だぞ」
「も、申し訳ございません」
クリスに冷たい視線を送られたリアムはビクッとすると、血気盛んな態度から、急に青ざめたように見えた。だが、クリスは、冷たい顔から笑顔に戻して、ブラッドを見た。
「キミの強さはよくわかったよ。十分合格だ。試すようなことをして悪かったね」
正直、ブラッド自身、避けてすぐに反撃出来たのは3ヶ月修行した上に、朝の訓練で、同じような奇襲をジェームズから受けたからだった。魔法を使われそうになった時、優位だった自分が死を覚悟したのも事実である。
「では、行きましょう。先生。わだかまりも解けたことですし」
全くわだかまりが解けた様子もなく、むしろ、より一層、雰囲気の悪くなった一行は、先を進んで行った。
***
「今日はこの辺で良いかな?」
夜も暗くなり森の中でも開けた場所で、オーランドは1枚のカードを取り出した。
「家。発動」
そう唱えると一軒家がボンっと音を立てて現れた。その家の扉を開き、4人は中に入っていく。
「ちょうど4つ部屋があるから、僕の部屋以外なら好きな部屋を使ってくれると良いよ」
キッチンとテーブルのある部屋に加えて四つの部屋があり、そのうちの一つにオーランドと名前の書かれた扉があった。クリスと、リアムが扉を開けて入って行き、余った部屋にブラッドが入ろうとすると、
「あぁ、ブラッドくん、ちょっと良いかい?」
とオーランドがブラッドを止めた。
「なんですか?」
「一応、武器とかマジックカードの確認をしとこうかな? と思って」
「今持っているのは剣のカードのみです。あとは何も入ってない真っ白なカードだけですね」
ブラッドは自分が所持している剣の描かれたカードと真っ白なカードを机の上に並べた。
「使うことはないと思うけど一応これも持っていなさい」
「ファイアボール3枚とウォーターボール3枚ですね?」
「そうだ。危険な任務ではないが、もしもということもある。これは特別支給しよう。キミは魔法がまだ使えないがカードを使えば魔法を使うことが出来る。ただし、絶対にカードは無くさないこと。これは学長から借りているもので、非常に高価なモノであることを忘れないように。あとキミ個人だけの任務だが、今回の任務中にシャドウウルフを使役出来るようにしておきなさい。色んな任務に役立つ魔物だからね。主従関係の結び方はわかるね?」
「大丈夫です」
「よし。なら今日はもう休みなさい。キミも色々あったからね」
「失礼します」
さすがに疲れ切っていたブラッドはすぐに残った部屋へと入って行った。
***
「おーい。生きてるか? りゅうじ?」
ぺっ。
とりゅうじと呼ばれた少年は、自分の髪を引っ張る少年に血の混じった唾を吐いた。
「このクソが!」
髪を引っ張っていた少年は、りゅうじを思いっきり殴った。
「普通10対1とか勝てるわけねーだろ? お前考える頭もねーのかよ? うぜぇ!」
蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る……。
ガバッと汗をダラダラ流しながら、ブラッドは目覚めた。
「またこの夢か……」
定期的に見る夢にウンザリしながら、ブラッドはまたベッドで横になった。
「生き抜いてやる」
そう呟いてまたブラッドは眠りについた。
***
「わかる範囲で構いませんので、現在の状況をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ミスリル鉱山に着き、この採掘場の代表のような人にオーランドは聞いた。
「はい。シャドウウルフが発生して、最初は我々もケガしないように複数で囲い、倒していたのですが急激に数が増えてしまい。手に負えなくなってしまいました。多くなってからは、中の状況が全くわからず困っております」
「そうですね。ではすぐに取り掛かりましょう!」
「あー先生、一つ提案があるのでよろしいでしょうか?」
4人全員で入って進もうとする先生をクリスは引き止めた。
「なんだい?」
「洞窟に入って別れ道があるなら単独で行動した方が、はやく討伐出来るでしょう」
「おお! さすが魔法軍事学園の生徒様です! ありがとうございます!」
「あ、うん。まぁそうだね」
依頼者に先にお礼を言われてしまい、その提案に不満だったオーランドは渋々納得しているようだ。
「では、行きましょう」
いつの間にか先頭に入るクリスに続いて、3人も洞窟の中に入って行った。
歩いて5分もしたところに、シャドウドッグ3匹と遭遇した。うなり声をあげて先頭のクリスに近付いてくる。
ガウッ!
と一瞬で間合いを詰めてくるが
ザシュッとクリスは手に持ったミスリルの剣で一撃でシャドウドッグを切り裂いて倒してしまった。
「やはり弱いな。ブラッドくん。あとの2匹はキミに任せるよ。我々は先を行かせてもらう。使役もしたいだろうからね」
そう言い残して、クリスは先に向かってしまった。
先程の一撃を見て警戒しているのか? シャドウウルフは容易には近付いて来ない。
「来ないならこっちから行くぞ!」
痺れを切らしたブラッドが先に動く。ミスリルの剣でシャドウウルフに斬りかかる。しかし、俊敏なシャドウウルフは、ブラッドの攻撃を避け、襲いかかってくる。
「あぶねっ!」
先程の単独プレーではなく、シャドウウルフは連携を取り、上手く攻撃してきた。シャドウウルフの噛みつきにたいして、避けて斬りかかろうとするブラッドだが、もう1匹のシャドウウルフが噛みつこうとしてくる。攻撃を中断するしかなく、ブラッドは大きくバックステップを取り、シャドウウルフから十分な間合いを取った。
「使役したいからって、手加減してたら大怪我するな。やっぱり2匹同時の使役は無理か」
そうブラッドが呟いていると2匹同時に襲いかかってきた。しかし、
ザシュッ!
という音を立てて、シャドウウルフ1匹を素早く斬り殺した。死んだシャドウウルフが闇に消える。
「逃すかよ。今回はお前らの殲滅が任務だからな」
もう1匹のシャドウウルフの胴体を斬りつける。しかし、手加減したのもあり、一撃では死んでいないようだった。ただ動くことは出来ないようだ。
「オレに服従しろ。シャドウウルフ」
そう言うとブラッドは、自分の魔力をシャドウウルフに分け与えた。そしてそのシャドウウルフは、服従に従ったのか、ブラッドの魔力を受け取り、幾分か回復したようだった。
「この洞窟内のシャドウウルフは殲滅することが任務になっている。ただお前が死んだら召喚出来ないからな。今すぐこの洞窟から出て、森で生活しろ。行け!」
命令されたシャドウウルフはガウッ! と一言答えると洞窟の外へと走り出して行った。
命令した後、ブラッドは3人の後を追った。少し歩いた先に洞窟は二手に分かれている。
「どっちに進むかな……」
と少し、ブラッドが進む先を悩んでいると
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と大きな悲鳴が右側から聞こえてきた。
一体何だ? シャドウウルフ以外にも何かいるのか? ランクEの任務だよな? 混乱しながらも、ブラッドは声が聞こえた方へと走る。
「ひぃぃぃ、た、助けてくれ!」
右腕を喰われ、足を負傷したのか這いずるように、リアムが逃げていた。
「なんだ? こいつは」
シャドウウルフと同じで狼である。ただし、シャドウウルフより2倍以上でかい。シャドウウルフの大きさは大型犬ぐらいだったが、明らかにかなりでかい上に影のように真っ黒ではなく、灰色のでかい狼だった。
「ファイアボール! 発動!」
異様なプレッシャーに後退りしながらも、躊躇うことなくブラッドは、ファイアボールのカードを発動させた。丸く燃え盛る炎の玉が灰色の狼に当たる。
「何ボーッとしてたんだ! 援護しろ!」
「ふぁ、ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」
リアムはファイアボールを三発同時に発動。そして、ブラッドが残り2発も容赦なく撃つ。
「き、効くわけがない! ウルフキングだぞ! A級モンスターだぞ!」
「ガァァァァァァァ!」
ファイアボールを当てられたことで、より怒り狂ったウルフキングは、雄叫びをあげて、リアムに襲いかかる。
ガキンってと音を立てて、ウルフキングはブラッドのミスリルの剣に噛み付いた。ブラッドがリアムが噛み付かれる前に、リアムの前に出て、頭を斬りつける為に、剣を振ったたため、ウルフキングに防御された為だ。しかし、ウルフキングは首を振り、リアムを壁に吹き飛ばした。
「ファイアボール! ファイアボール!」
魔力の続く限りリアムはファイアボールを放つが効いている気が全くしない。
死にたくない。オレはもう死にたくない。助けは来るか? いや、来るならもう来ているだろう。壁が厚すぎて悲鳴すら届いてない。今から通信機で呼んだら来てくれるか? 間に合わない? アイツを置いて逃げるか?
冷や汗を流しながら、ブラッドの剣がカタカタと震える。
「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール! 出ろよ! ファイアボール!」
リアムが叫んでも叫んでも、ファイアボールはもう出ない。明らかに魔力切れを起こしているようだった。錯乱するリアムは叫び続けるがその手からは、何も出る様子がない。
「ぐぅぁぁぁぁぁ!」
目にも止まらぬ速さで、間合いを詰めたウルフキングは鋭い爪をリアムの腹に刺していく。
「逃げてたまるかぁ!」
ウルフキングに剣を避けられてしまい、ブラッドの剣は空を斬る。
「見捨てて逃げて生き延びるぐらいなら、死んだ方がマシだ! 来いよ! ぶっ殺してやる!」
大声で怒鳴りつけるブラッド。しかし、
「え?」
一瞬で間合いを詰められ気付いた時には、目の前にウルフキングが迫っていた。咄嗟に剣で防ごうとするが、剣はウルフキングの手で、そのまま押し込むように、剣ごと馬乗りになるように押さえつけられてしまう。そして、ウルフキングが大口を開け迫ってくる。
嘘だろ? 喰われる……。
そう死を覚悟した時だった。
『面白いな。少年』
頭の中に響くような声が聞こえた。そして、
ドンッ! と響くような音が聞こえたかと思うと、ウルフキングが吹き飛んでいった。吹き飛ばしたのは真っ白で巨大な虎だった。ウルフキングとデカさが変わらないほどである。
『少年。どうして逃げない? そいつを置いて逃げれば、お前だけでも助かったのかもしれんのだぞ。それとも死にたがりか?』
「死にたくねーよ。生きてーよ。でもな、情けない生き方するぐらいなら、オレは死んだ方がマシだ!」
『クックックッ。やはり転生者は面白いな』
「あ? どうしてそれを?」
「ガァァァァァァァ!」
白い虎とブラッドが会話をすると体勢を整えたウルフキングが怒り狂いながら叫んできた。
『うるさい駄犬だな。先に片付けるか』
そう白い虎は言い、ウルフキングを睨み付けた。
「嘘だろ。ビビってんのか?」
ウルフキングは、殺気を込めた睨みに動けずにいた。そして、気づくと白い虎はウルフキングに一瞬で近づき、首元を噛みちぎった。そして、ウルフキングは闇に消えていった。
「た、助かったのか? お前は味方なのか?」
『そうだ。味方だな。今日からワシはお前と契約を結ぶ。主従関係のない契約だ』
「は?」
ブラッドは、白い虎の言う意味がわからず、口をポカンと開け聞き返したが、白い虎はそれ以上答えることはなかった。