第1章1 転生したのに奴隷になる
転生したのにまた親に捨てられたんだな。
そう思いながら、目つきの悪い少年ブラッドは牢屋に向かって歩く。
牢屋の中には先客が居て、金髪で色白であり耳のとんがった少女と、肌が赤く角が生えた黒髪の少年が居た。
「入れ。大人しくしてれば、乱暴なことはしない」
ブラッドの後ろに立ったデブな男が、牢屋の鍵を開けると、ブラッドに入るように促した。
前世の親も良い親とは決して言えず、捨てられてはいたが、まさか転生した先では捨てられて牢屋に入ることになるとは思わず、ため息を吐きながらブラッドは牢屋に入った。
デブな男は、牢屋の鍵を閉めると少し離れた場所にある机の上にガチャという音を立てて、別の部屋へとすぐに出ていってしまった。
「魔力を込めてガチャガチャやっても無理だぜ。この牢屋かなり頑丈に出来てるからな。てかやめろよ。あいつら来るから」
振り返り声の方を向き、よく見ると肌の赤い少年の目のところに青いアザが出来ていた。
「なるほどな」
「まぁ、そういうことだな。ちなみにオレはオーガのウィル。お前は?」
「ブラッド」
「私はエルフのエマ。よろしくね」
エマはニッコリと笑い、どこか少しぽーっとしている感じがする。
「オレらも昨日ここに放り込まれたばっかでさ。今日脱獄するんだけどお前もするよな?」
***
牢屋には小さな小窓が付いていて、なんとなくだが時間がわかる。
外は真っ暗になってから何時間か経っていた。
「やーっとあいつら静かになったなー。昨日も多分そうだったんだけど、酒飲んでそのまま寝てやがる」
「このタイミングを待ってたんだろ。で、どうやって脱獄するんだ?」
「まぁまぁ慌てるなって。じゃぁそろそろやるか? エマ」
「うん」
とウィルがエマに呼びかけるとエマがポケットの中に隠していた3枚のカードを取り出した。
「マジックカード持ってる金持ちがなんで牢屋なんか入ってんだ? いや、今はいいか。そのマジックカードで何する気だ?」
「えへへ。このマジックカードはスライムを召喚出来るんだ。見てて。スライム召喚」
エマがスライムの絵柄が入ったカードを召喚するとポンッと音をたててスライムが現れた。
おいで。とエマが言うとエマにスライムが近づく、そしてエマはスライムをプニプニし出した。
「なるほどな。スライムなら牢屋を出れるから、そのスライムを使役して、机の上の鍵を取ってこさせるんだな?」
「うん。正解。スライムちゃんあの机の上にある鍵を取ってきてくれる?」
するとスライムは思った以上に機敏に動き出し、牢屋をヌルッと出たかと思うと、机の上にはスルッとのぼり、鍵を取ったら戻ってきた。
「鍵ありがとう。もう戻っていいよ」
エマは鍵を受け取り、そうスライムに伝えると、シュッと音を立ててスライムは消えた。
そして、エマはその鍵を使って牢屋の鍵を開けた。
「問題はここからだな。やつらが寝てることと、あいつがいないといいんだけど」
「ジェームズってやつだろ? あいつはマジでヤバい」
と言うとウィルは険しい表情をする。実際、雰囲気だけでも相当危険な感じがする。
「悩んでいても仕方ない。行くぞ?」
ブラッドはそう言うとドアの取っ手を掴み、エマとウィルに確認する。2人が頷いたのを確認すると音をたてないようにゆっくりドアを開けた。
開けて見渡すと、3人がそれぞれ、ソファーで寝転がって寝ていたり、机に酒を握ったまま寝ていたりと、起きているものはいなかった。
眠っていることと、ジェームズがいないのを確認して、ホッとした3人は足音をなるべく立てずにゆっくりと歩き、外へ出る扉に近づく。途中ギィっと軋む音を立てながら慎重に。そして、
「脱獄成功だな。近くの街まで逃げ、、、」
外の扉を開けて閉め、そうブラッドが言いかけたその時だった。
「グルルル、ギャウッギャウッ!」
と大きな黒い犬が3匹、大きな声で叫ぶ。
「チッ。シャドウドッグか」
「エマ! 危ない!」
そうウィルが叫ぶと、1匹のシャドウドッグが、エマに向かってかみつこうとする。
しかし、
「オラァッ!」
と声を上げ、魔力を体に纏わせたブラッドがシャドウドッグを思いっきり殴りつける。
キャインと叫んでシャドウドッグは、エマから離れた。
「おお! ブラッド強えぇ!」
しかし、犬の鳴き声を聞いて起きてしまった賊たちがゾロゾロと現れた。背が高い男と、デブな男、あとは胡散臭そうな男だ。
「おいおいおいおい。なんで脱獄してんだ? このクソガキども。ボスが帰ってくる前に捕まえろ!」
どうも背の高い男が、この中ではリーダーらしく、子分たちに命令していた。
「煙幕っ! 発動!」
とエマがマジックカードを片手に唱えると、ポンッと音をたてて煙が辺り一体に広がっていく。
「ちくしょうっ! 何も見えねぇ! マジックカードは使うなよ! コイツら商品だ! 傷つけずに捕まえろ!」
バキッボコっという音が鳴り響き、煙が次第にはれてくると、
「エマ! 煙幕で上手くいったな!」
「うん! えへへ」
シャドウドッグは消え、3人の賊は倒されいた。
「無駄口はいいからはやく逃げるぞ。あいつが帰ってきたらヤバい」
「誰が帰ってきたらヤバいって?」
突然後ろから声がして、ブラッドは声の主から距離を取った。
「い、いつの間に?」
「シャドウドッグに吠えられたあたりから、ずーっと見てたさ。いやーこいつら本気で使えねぇ」
そう言うとヒョロっとした長髪の黒髪の男、ジェームズは、子分の頭を蹴り飛ばした。
「ウィル行くぞ!」
1人では絶対に敵わない。でも大人相手にケンカ出来るウィルと2人がかりなら、ジェームズに勝てるかもしれない。そう思ったブラッドとウィルはジェームズに突っ込んでいく。
しかし、
「エアボール(小)」
ジェームズは、ブラッドの攻撃をかわした後、ウィルの至近距離で魔法を唱え、空気の塊がウィルに当たったかと思うと、ウィルは、吹っ飛んで木に激突した。
そしてジェームズは、腰にぶら下げている剣を抜き、
ザクッ!
と、ブラッドの肩を貫き、そのままブラッドを家の壁にハリツケにした。
「いってぇ。、、、マ、ジかよ」
「オレがお前にダメージ与えないとでも思ったか? お前はただの人間だ。この中でお前が1番価値がねぇんだよ」
「ふぁ、ファイヤーボール!」
そうエマが唱えると炎の玉が、ジェームズに向かって突っ込んでいく。しかし、
「ウォーターボール」
と唱えることで出来た水の玉が炎の玉をかき消してしまう。
「お前ごときの魔法でやられねーよ。そこでじっとしてろ」
ひっ! と声をあげるとエマはジェームズに向けられた殺気で腰が抜けてしまい、立てなくなってしまう。
「おい。クソガキ。お前1人なら煙幕の時、逃げることが出来たんじゃねーか? どうして逃げなかった?」
剣を突き刺したまま睨むブラッドに、ジェームズは質問する。
「うるせぇーよ。恩人捨てて逃げて、生きるぐらいなら、死んだ方がマシだ」
「知ってるか? 人生ってのは普通一回しかねぇんだ。命は大事にするもんだぜ?」
「はっ。てめぇの価値観でモノ言ってんじゃねーぞ?」
2回目の人生も親に売られて、そして今終わる。生まれ変わっても不幸なやつは不幸なままだ。もうどうでも良い。そんな風にブラッドが思っていると、
「なんだお前? もしかして本当に転生者だったか? お前の親から転生者かもと聞かされてたが、本当だったか」
「・・・」
「それならお前も売る価値があるな。前世の記憶があるやつは、小さい時から頭が良いやつが多い。家で農業やりながら、魔力操作を覚えたんだろ? 腕前も悪くない。魔法軍事学園に売り飛ばしてやる。お前はこれから学園の奴隷だ」
「誰が奴隷なんかに、、、」
「「行く!!」」
ブラッドが言いかけたのを遮り、エマとウィルが声を合わせて言った。
「エルフとオーガは物分かりが良いようだな。そもそも、親に売られたガキに、親を人間に殺されたエルフのガキ、反乱を起こして国中指名手配されてるオーガのガキ。どうやって外の世界で生きてくつもりだ? スリ、万引き、強盗ぐらいしか出来ることねぇだろ?」
そう言うと剣をブラッドから抜き、ブラッドから苦痛の声が漏れる。
「ヒール(小)。発動」
とジェームズはマジックカードを持って唱えると、ブラッドの貫かれた肩が一瞬で癒され、傷が塞がってしまった。
「来い。最低限の生活の保証はしてやる。後は自分次第だ。それぞれ、生きる目的はあるんだろ?」
「お母さんとの約束があるから行く」
「オレも強くならなきゃならねぇ!」
そう言い付いて行くエマとウィルにため息をつき、ブラッドも付いて行った。