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リベルタード公爵邸のガゼボにて、3人の令嬢が談笑していた。
「まさか、あのリベルタード公爵子息様の婚約者であるフェリシア様から茶会の招待状が届くなんて思いもしませんでしたわ」
アンネリア・カルネイド伯爵令嬢がシーラ・マシエル子爵令嬢に向かって同意を求める。
「ええ本当に。あまりにも信じられないものですから詐欺まがいのなにかにお父様がはまってしまったのかと家族全員が本気で心配しましたわ」
シーラ様の言葉に思わず笑ってしまう。
「そんな大げさな……。それに私の存在などつい先日に世間に知られたようなものですよ。まさかお茶会に誘ってお二人が2つの返事で答えてくださるとは思いませんでしたし」
「断る令嬢がいるものですか!! いるとするならばリベルタード公爵子息様の熱烈なファン、、あ、結構いらっしゃるわね」
「正直なのはいいけどここはフェリシア様の前よ。一回言葉を選んでから言うようにしたほうがいいわ、シーラ」
目の前で行われているやり取りがついおかしくて自然と笑みが溢れる。
二人に茶会の招待状を送ったのは完全に意図的なものだった。カルネイド伯爵家もマシエル子爵家も上位貴族家ではないものの、近年自領で栽培される植物が自国や国を越え、隣国までにも人気が出てきており今最も活気づいている家といっても過言ではない。
それにお二人は年齢が私と近かったというのもあり、ユーリやアニタと相談して彼女たちに来てもらうことにしたのだ。
こうやって勝手に選ぶなど自分勝手もすぎると思ったのだが、どうやら侯爵家、公爵家や王家となってくると普通だと言われた。現にお二人も喜んで来てくれているようだし、少しホッとする。
「お二人は仲がいいんですか?」
先程のやり取りで感じたことを尋ねる。今ここで初めて会ったような雰囲気ではないのは確かだ。
「はい。私とシーラは領地が近かったというのもあり、幼馴染のような関係なのです。最近はお互いが忙しく長らくあってませんでしたが、このような形で再会するとは驚いています」
「そうですね。まさかのまさかで。アンネリアは私にとっては姉のような人で、よく私の面倒を見てくれていたらしいです。一緒に遊んだ記憶しかないので不確かですが」
「一緒に遊んでいたのが面倒を見ていたということよ。あなたはお転婆が過ぎるのだから大変だったわ、、」
昔のことを思い出し、懐かしむように微笑んでいる。
「仲が良くてとても羨ましいです、、。私には同性でそういった存在はいませんので……。貴族社会に出たのもついこの間ですし、、」
では!! とシーラ様が瞳を輝かせながら私の手を握る。
「私達が一番初めのお友達という事ですね!!」
「こらシーラ!! あなたはあくまで子爵家よ。身分が違いすぎるわ! 今すぐフェリシア様の手を離しなさい!!」
シーラ様の行動に青ざめながらペチンとアンネリア様がシーラ様を叩く。
「いいのですよ。ふふ、嬉しいですね、友達って。是非よろしくお願いします」
二人の頬が赤くなり、でろでろと溶けたように見えた。
……私の見間違いだろうか……?
「聞きました? アンネリア。これは沼ですよ。私は入ってはいけないところに入ってしまったかもしれないわ」
「今回は珍しく同意するわ。でも私はあなたと違って一目見たときからもう浸かってましたわ。それに見ました? あの笑顔。リベルタード公爵子息様が羨ましい……」
ポソポソと2人で喋っているため聞こえづらい。が、喜んでくれているようには思う。方向性が少しずれている気もしなくはないが。
途端に二人がぱっとこちらに振り向く。
「是非、是非よろしくお願いします!! 社交界の噂や情報操作もお任せ下さい。私達こう見えてもかなり顔は広いので」
とても心強い言葉だ。私は社交界ではろくに友人もいないし、力も持っていない。本当に有り難い言葉だった。
ふと先日来られていたエレオノーラ様の言葉を思い出す。
『ユーリウスもアニタも、公爵邸のものは皆あなたの味方よ。でもね、私達が生きている世界はそんなに甘くないわ。本当の意味であなたがユーリウスの隣に立ちたいのなら、先ずやらなければいけないことは決まっているわね』
エレオノーラ様はまた私に大きな助言をくだだった。久しぶりにあった彼女はかわらず、厳しいながらもとてもお優しい方だ。私が病に侵されていたことを知ると静かに涙を流し、そして私の無事を酷く喜んでくださった。
祖母がいればこんな感じなのかと思うほどに心が温かくなった。
そんなエレオノーラ様がくださった助言は私が貴族社会で生きたいくためにとても大切なことである。今、小さいながらもこうして叶っていることがとても嬉しい。
そこから少しの間、他愛もない話をして楽しんでいた。だが楽しいだけの時間ではいけない。
そろそろ聞かなければいけないと思い、そう言えば、と話を切り出した。
新しい登場人物。
フェリシアは身分的にはアンネリア達に様をつけなくても大丈夫です。逆につけることのほうが好まれないのですが、フェリシアの長年の癖はなかなか抜けるわけではないのです。