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朝食を食べ終え、つい先程ラウラが目を覚ましたという情報が入ってきたためユーリと部屋へ向かう。
「シア、昨日行ったこと、約束だからね。絶対にあれだけは守って」
そう念を押され、ラウラのいる部屋のドアノブに手をかける。中からは特に暴れているといった音はなく、とても静かだった。
「おはよう、ラウラ。朝食は食べたと聞いたわ。気分は、、どうかしら」
昨日とは比べ物にならないくらい落ち着いてはいるけれど、やはり瞳はどんよりと濁っている。
「…………お姉様じゃない。て言うことはここは公爵家の一室なのね。起きたら牢屋にいると思ったから、とてもびっくりしたわ」
ふふ、と感情のこもっていない声で笑う。その表情は人形のようで、作られたような笑みであった。
「ラウラ嬢、君にいくつか質問をしたいんだ。大丈夫かな?」
いつ昨日のようになるかは分からないためユーリも私も慎重になる。
「そもそも私に拒否権なんてないのでしょう? 別にいいわよ。でも昨日行ったことと全部同じだから聞くことはもうないと思うけど」
こうしてラウラへの質問が始まった。
「まずは、カレロ家はどういう状況になっているんだい? 僕は中にいるわけじゃないから外からの情報しか当てにならない。出来れば詳しく教えてくれると有り難いな」
公爵家の力なら無理やりにでも調べることはできる。たぶん、私の様子がおかしくて公爵家でどういった生活をしているかを調べるときにはそうしたらはずだから。
「お姉様が出て言ってから、半年くらいは幸せだったわ。でも、お父様がギャンブルにはまってしまって。今思うとどこからあんなお金があったのか知りたいのだけど、、。それに家から物が、人が少しずつ減り始めるといつの日かお母様がいなくなっていた。逃げたのね。そこからお父様は私がユーリウス様よりも良い相手を婿にもらうように必死になっていたわ」
なんとなく予想はしていたがここまで酷い状況だとは分からなかった。
「これでいいかしら? 私はもう……疲れたのよ。裁くなり追い出すなり好きにしてちょうだい」
そう言うとラウラは私達の方ではなくどこか遠いところを見つめるようになった。よほど堪えていたのだろう。その姿がなんとも痛々しく、何か力にはなれないかとさえ思ってしまう。
「じゃあこれで最後の質問だ。あの男たちは君が用意したのか?」
「お姉様がこの夜会に来るなんて知らなかったのだから用意出来るわけないじゃない。ジュリッサ様よ。私がなんとか出来ないか模索していたときに声をかけられたの」
その言葉を聞き、ユーリが隣で明らかに動きを止めるのがわかった。
ラウラが何故ジュリッサ様の名前を口にしたのか、おそらく私をおびき寄せるための口実として使ってもいいとでも言っていたのだろう。そして私は騙されてしまった。
「……ありがとう。よくわかったよ。……それとラウラ嬢の処遇なのだけれど、、流石に公爵子息である僕の婚約者を陥れようとした罪は重い。それに僕個人としても許す気は毛頭ない。カレロ家にいたシアへの扱いも含めてね。でもそのまま家に返すわけにはいかないとシアがいう」
昨日からずっと考えていた。
勿論私はラウラを許すことが出来るのかと言われれば素直には頷くことは出来ない。が、元々はラウラも育った環境が悪かったのだ。ラウラにすべての非があるとも思えない。
だから私は今朝方、ユーリにそのことを伝えた。あまりいい顔はされなかったけれど、粘りに粘って北にある一度入っては出られないという修道院行きは免れた。
「君はこれからすぐにアッペル男爵家へ行ってくれ。昨年に大きな自然災害が発生して人手が足りていないようだ。私が一人、訳ありの人を派遣するといっただけでとても喜んでいたからよほど人手不足なのだろう」
ユーリの言葉にラウラが大きく目を見開く。
労働力にこき使われるのは修道院に入るよりも辛いことかとも思ったが、男爵家であればお金を貯めれば自分で自由にどこかに行くことも出来る。修道院といってもどこの修道院も殆どは刑務所みたいなところだ。それならばよほど自由のある男爵家のほうがいいだろう。
「…………最後にわがままを言わせてもらってもいいかしら? お姉様、少し2人で話したいわ」
ユーリが駄目だと小さく首をふる。
「ユーリ、お願いです。危ないと思ったらすぐに大声で叫びますから。それに今のラウラには何か出来ると思いますか?」
じっと見つめる。これがきっとラウラとは最後になるだろう。だから、、
「………………はあ、わかった。今回だけだからね。絶対に危ないと思ったら大声で叫んで。僕はこの部屋のすぐ出たところにいるから。、、終ったらノックして。30分経って出てこなかったら問答無用で押し入るからね」
「ありがとう、ユーリ」
感謝を告げると名残惜しげにユーリは部屋から出ていった。
二人になり、しんと静寂が訪れる。
話しを切り出したのは、ラウラだった。
北の修道院、南の修道院、東の修道院、西の修道院があります。一番過酷なのはとても寒い北の修道院。
ざまぁ要素が薄くなってしまってすみません。でもラウラは何故か憎めない……。(私個人の好み)