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どこに隠れていたのだろうか。私を囲むように男たちはじりじりとこちらに近寄ってくる。
逃げようと思ってももうすでに逃げ場はなくなっているため、前後左右どこにもいくことが出来ずにただ立ちすくむことしか出来なかった。
「ラウラ、どういうことなの!?」
「見ての通りよ。どうせ私はもう帰っても後はないわ。それならお姉様も帰っても未来がないようにしたいじゃない? だからこの人たちにお姉様を襲ってもらって明日のスクープにでも流そうかなと思って」
ラウラの言葉が信じられずに私の喉から言葉が出ない。おそらく今の私は口をハクハクとさせているだろう。
嘘だと言ってほしかったが、そんな言葉は勿論出ないまま、ラウラの話は続く。
「そうしたら悲劇のヒロインになると同時に他の男に触られたお姉様はユーリウス様から拒絶される。完璧な計画でしょう? いや、でもユーリウス様はお優しいから拒絶はしないのかしら? まあどちらにせよ、幸せいっぱいの未来ではないわね。さあお姉様、一緒に奈落の底へいきましょう!!」
先程よりもより壊れたような笑い声を響かせて、ラウラが男たちに指示を送る。私の力じゃ5人以上はいる男達に歯向かうことなんて出来ない。
一人の男が私に触れそうになったとき、ギュッと目をつぶる。そうして触れられるのを拒絶するように身を丸くしてたえていたが、その手はいっこうにやってこなかった。
不思議に思って恐る恐る目を開けると、見慣れた背中が私の前にあった。
「これは、、どういうことだ? 何故この男たちは私のシアに触れようとしいる?」
聞いたことがないほど温度のない声だった。
「お前か? お前が仕向けたのか? シアに何をしようとした」
思いがけないユーリの登場に先程まで高らかに笑っていたラウラの声が止む。私達を見つめる目は光が届かない場所にいるかの如く光がなく、どんよりと濁っているように見えた。
「何って。賢くて優秀な次期公爵様なら見て分るのじゃないかしら」
「ああ、もちろん分かって言っているさ。問い方が正しくなかったか。何故、シアにこんなことをしようとした?」
怒鳴りはしないものの静かに、けれど冷ややかな声でユーリは続ける。後ろの方で警備員のような者達が3人ほど来て、気絶した男達を縄で縛りどこかに連れて行っていたが、ユーリもラウラもそんなことはお構いなしに睨み合っている。
静寂が続き、それを破ったのはラウラのけたたましい叫びだった。
「だって、だって仕方ないじゃない!! 私だってこんな思いをするとは思わなかったわ!! 惨めで、誰も助けてくれなくて、でも周りは知らないから私はいつものように振る舞って。誰にいえばいいのよ。どうせ誰も助けてくれないじゃない!!」
「それはお前がやってきた罪の重さだ。当然至極の事だろう」
「うるさいうるさいうるさい!!」
髪をふりみだし、どんよりと濁っていた目は鋭い光が差し正気を失ったかのようにユーリに襲いかかる。
もちろんユーリがやられる訳はなくトンと首の後ろに手刀を入れられ、ラウラはガクリと膝から崩れ落ちた。
「シア、大丈夫かい?」
目の前の光景にただ何も言えずに呆然と立ち尽くしていた私はユーリの言葉ではっと我に返る。
「大丈夫なのですが、、」
大丈夫ではある。私の純潔を奪われる前にユーリは助けに来てくれたため、身体的には全く持って問題はない。
けれども、、
「ラウラが、こんなに追い詰められているとは知りませんでした……。確かに私を襲わせようとしたことは良いことだとは言えないのですが、ラウラの様子を見ると、、。私がもっと早くに気づいていたら何か変わったのではないかと思うと……」
ラウラの話を聞くに、カレロ家は大変な事になっているのだろう。愛されることしか知らなかったラウラはきっとそれが耐えられなかった。
ユーリが来る前にラウラが話していたことを話す。
「そうか。カレロ家は最近はあまり良い噂は聞かないからね。なんとなくそんなことが起きているだろうとは予想していたが……。僕が送っている援助金では足りなかったのか、浪費が激しかったのか。おそらく後者だろう」
ひとまずここを離れよう、と警備員を呼んでラウラを公爵家へ運ぶようにし、私達もそのままリベルタード邸へ帰ることにした。
挨拶回りは一通りは終わっているし、そもそももう帰る予定だったため問題はないだろう。
エスコートしてくれる私の手や扱いはとても優しかったものの、その表情はずっと何かを考えているようだった。
私も、考えなければいけない。ラウラの事について。
こうして思わぬ出来事があり、初めての夜会は幕を閉じた。
フェリシアの今の地位的には、もう公に公爵子息の婚約者と発表したため、ほとんどの者はもうすでにユーリ達公爵家と同じような扱いをしてきます。
まあそうではない人達もしばしば。
それと厳密に言えばフェリシアまだ伯爵令嬢のままです。