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先程からすごく視線がささる。
会場につき、ユーリと共に入場したからだろうか。皆目を見張り、他の者たちとひそひそと何かを話している。
初めてということもあり、思わずユーリの腕を強く握る。
「大丈夫、僕がいるから。それに皆驚いているだけだよ。シアがこんなに綺麗だなんて思いもしなかっただろうから」
絶対それだけではない。私はあまり感情に鋭い方ではないのだが、明らかに嫉妬の視線が多いと感じる。そりゃそうだろう。社交界で知らないものはいないと言われる貴公子がこうやってどこぞの誰かも分からない令嬢を連れてきているのだから。
「うーん……。社交界デビューと言っても特にすることはないし、今日はちょっとした挨拶回りだけかな。……あ、いたいた」
ユーリは一人の男性を見つけると声をかけ立ち止まった。そして次の瞬間私の背筋が凍りつく。なんて言ったって、そこにいたのはこの国、ブランシェ王国の国王、シリル陛下だったからだ。
「ああ、ユーリウスか。久しぶりだね。……あれ、その横にいるご令嬢は、、」
はっと我に返り、最上級のカーテシーを行う。
病のせいで思うように体が動かなかったのだが、今は違う。ただ体が傷まないから出来るというだけで本当にこれで出来ているのかがとても不安だ。
「いいよ、楽にして。ユーリウスの婚約者でしょう? それなら未来の親戚だ。そう畏まらなくても大丈夫」
そう言われ頭を上げる。
ユーリとシリル陛下は従兄である。ユーリの母であるエリザベタ様が前国王の妹君なのだ。従姉妹だからかよく似ている。雰囲気が似ているのか。
シリル陛下はユーリとは少し違ったエメラルドのような瞳をしており、さらりとプラチナブロンドの髪が揺れるととても中性的なお顔にみえる。
「お初にお目にかかります、シリル国王陛下。ユーリウス・リベルタードの婚約者、フェリシア・カレロと申します」
「はじめまして。ユーリウスが婚約したって聞いたときはびっくりしたけど、君が相手なら納得だ。ずっと昔からユーリウスは君の事ばかり話していたから」
嬉しさと照れで思わずかあっと顔が赤くなる。
「おい、シリル!! やめてくれ!」
「秘密だったのか? これはすまない」
はははと笑う陛下とユーリを見ていると自然と仲が良いのだという事を感じることができて、とても温かな気持ちになる。
「でもシリルも人のこと言えないだろう? 何なら僕よりも酷いじゃないか」
「いや、僕のに関しては君とは違って可能性が殆どないからもうすでに諦めているよ。でも僕は彼女以外とは結婚するつもりはないから」
「じゃあ一生独身だ。でもそれはシリルが、」
「ほら、フェリシア嬢が待っているぞ」
突然話をふられ、驚く。
「いえ、私なら大丈夫ですよ? お二人の楽しそうな姿を見ることができてとても嬉しいです」
事実である。しかしユーリが本当に申し訳無さそうに眉を下げて誤ってきた。
「ごめん、シア、、。つい話し込んじゃって」
「それじゃあ僕はこのあたりで失礼するよ。今回ここに顔を出したのはユーリウスに合うためだけだったから」
そう言い残すとシリル殿下は奥の方へと消えていかれてしまった。
「いいのですか? まだ話したりなかったのでは、、」
「大丈夫。どうせシリルと話してもいつもあんな感じでひとつも話が進まないよ。今日はシリルが久しぶりに夜会に出るって言ってたからつい話し込んじゃって、、」
そういえば私に座学を教えてくださっている魔法師団長、アルノルド様がこの前行っていた事を思いだす。
シリル殿下は全くと言っていいほど夜会などの集まりには参加しないらしい。しかも御年23歳なのだが、婚約者の一人もいない。
国王である彼に幼い頃からの婚約者がいないのは何か理由がありそうなのだが、なんせあまり社交の場に出てこないため信憑性の低い噂しか出回らないのだ。
「ま、シリルにも思うところはあるだろうし僕たちが口出しすることじゃないね。さ、シア。さっさと挨拶を済ませて帰ろうか」
私はあまりこういった場には慣れていないため、長居することは好ましくなかったのでとてもありがたい言葉だった。
小さくうなずくと、ユーリは言った通り知り合いの貴族と思われる人からどんどん話しかけていく。
殆どはユーリを幼い頃から知っている人達で私のこともとても喜んでくださる方が多かった。多少自分の娘を、という事を遠回しに言ってくるものもいたが、ユーリが笑顔で圧をかけながら撃退していた。
その度に気恥ずかしうような、嬉しいような気持ちになる。
「…………そろそろいいかな。シア、疲れてない? シリルが久しぶりに顔を出したからかな、、これだけ人が多いとは思わなかったから。少し待っていてくれる? 冷たい飲み物を取ってくるよ」
シリル殿下と別れたあと、1時間と少しくらいはひっきりなしにユーリの元へ貴族たちが集まっていた。ユーリもあれだけ休みなしに話していたら流石に疲れるだろう。
私も少し立っているのが辛かったため、近くのソファーへ腰を下ろす。
ぼんやりと綺羅びやかな世界を見ていたときだ。
聞き馴染んだ声が聞こえ、先程まで幸せな気持ちで溢れかえっていた心が一気に現実へと引き戻される。
「あら、お姉様。久しぶりね」
そこに私の妹、ラウラがいた。
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