第9話「立ちはだかる者」
王様は私達を待っていた? 何故だろう? まぁ、予想は出来る……きっと王様は魔王城を目前に一人で入るのが怖くなり、それで誰か来るのを待っていた。そんな所だろう、なんだよ王様も可愛い所があるじゃないか。
「お前の知り合いか?」
魔女が私に向かいどこか呆れながら聞いてきた。
「あの人は王様です」
「……随分と偉そうな王様だな……」
「フン、そいつが勝手に呼んでいるだけだ」
「それより王様も怖かったんですね。いいですよ、王様も一緒に魔王城に行きましょう」
「……」
「……」
なんだ? この沈黙と重い空気は一体全体なんだと言うのだ? 二人の冷ややかな視線が……。
「……貴様が何を勘違いしてるか知らんが、俺は貴様等と魔王城に行くつもりは微塵もない」
視線から勘違いかもって、何となく予想はしていたが……違ったか。
「では一体何故、私達を待っていたんですか?」
「無論、貴様等を殺す為だ」
……私達を殺す為? 王様は何を言っているんだ? なんで……なんで王様は私達を殺さないといけない? 意味が分からない。王様は私達に怨みでもあるのか?。
「何故です? 私達が戦う理由はない筈だ」
「……理由だと? 貴様が戦いに理由を求めるのは構わないが、貴様はその理由を聞いてどうする? 理由を聞けば貴様はおとなしく殺されるのか?」
王様はどこか遠くを見つめながら言った。
確かに王様から理由を聞いて……たとえ王様が正しかったとしても私は王様におとなしく殺されるつもりはない……私にも目的があるのだから……。
「王様と言ったか。お前は見た目より随分と優しい王様なのだな」
「……そうでもないさ」
魔女には何か心辺りがあるのか王様に向かい笑みを浮かべながら私に振り向く事なく理由を教えてくれた。
魔王城に入れる勇者は一人だけだと……つまり王様は魔王城に入れるにも関わらず、私達を待ってくれていた……そこにどんな理由があるのかなんて知らない、だけど王様は待っていた……今はそれだけで戦うには十分過ぎる理由があるのだと分かった……。
王様は腰の剣を抜き、右手でその剣を構え戦闘体制に入った。その様子を見た魔女の周りは凍るような冷たい空気に包まれ魔女も戦闘体制に入っていた。
その二人の様子を見て私は逃げ遅れた……と思った時には既に遅く、王様が私目掛けて構えていた剣を弓矢の矢の如く物凄い勢いで投げ飛ばしてきた。
私に向かって飛んでくる剣を避け様にも足が震えて動かない……さよなら私よ、戦闘開始直後にいきなり死にますと死を受け入れた直後、私の眼前まで迫っていた王様の放った剣を魔女が横から片手で柄を握り、その勢いを殺す事なくそのまま身体を回転させ、王様に投げ返した。
「この程度なのか? 王様とやら」
王様も自分に向かって迫って来る剣を難無く掴み、魔女に笑みを浮かべ。
「挨拶だ」
なんだ? この二人は? まるで挨拶を交わしたかの様に剣を投げ合っていた? とりあえず私は何も出来なかった。
直後、魔女が王様の足元周辺に十以上の凍りの柱を地面から突き上げたが、王様はジャンプしてそれを回避し着地と同時に氷の柱を手にしている剣で粉々に粉砕した。
「なるほど、貴様が奇妙な術を操る、森に住む魔女と言う訳か。それも『冒涜者』の力なのか?」
「そうだ、私が魔女だ」
魔女が遠距離型と判断したのか王様は一瞬で間合いを詰め剣で魔女を襲う、それを魔女は両手に氷の膜を纏いそれを防いでいるが氷の膜が徐々に剥がされていき王様の剣を凌ぐのがやっとの様子、その様子を見た王様はニヤッと笑い。
「我が魂に宿りし軍神セルシオン、我が契約に従いその存在を示せ」
突如、王様の上空に光りの渦が出現し、その中から白い巨人が姿を現わし王様の後ろに舞い降りた。その姿は鋼の鎧を纏った様な身体。右手に手には派手に装飾された巨大な剣を握り、左手に純白の盾を持ちまさに軍神と思しき神々しい雰囲気を纏っていた。
魔女はその巨人の姿に驚きを隠せない表情をしていた。
「お前……お前も『冒涜者』だったのか!?」
「殺れ」
王様の命令で軍神はその巨体に似つかわしい動きで魔女に向けその巨大な剣を振り下ろし魔女がいた場所は隕石が落下した跡の様に地面に穴があいていた。魔女はぎりぎりのところで後ろに下がり回避していたが、森の木々を切り落としながら軍神の二撃目が魔女に迫る、その逃げ道を塞ぐ様に王様が剣を構え立ちふさがる。逃げ道を塞がれた魔女は後ろに跳んだが、そこに王様が魔女に向かい剣を投げつけ魔女の身体を貫き、悲鳴を上げながら魔女は地面に叩き落とされた。
「つまらん、この程度なのか魔女とは、期待はずれだな」
王様は地面に転がっている魔女の身体から剣を抜き、この状況についていけず茫然と佇み足が震え動けない私の下に動かなくなった魔女を蹴り飛ばしてきた。
「次は貴様だな」
剣身に付いた魔女の赤い血を舐めながら、王様は私に言った。
なんなんだ!? こいつは一体? あの圧倒的に強い魔女を一瞬でここまで……ありえない。こいつに勝てる奴はいるのか? 私には無理だ、勝てない。そもそも『従魔』を使う『冒涜者』は本体が弱点と言うが王様はどうだ? 『従魔』なしでも馬鹿みたいに強い、つまり弱点が存在しない。駄目だ、考えても勝てる気がしない。その時魔女がピクリと僅かに動いた、私はしゃがみ魔女の口元に耳を当て息をしている事を確認した。
「ほう、確かに心臓を貫いた筈だが、まだ息があるか。さすがは魔女と言うところか」
私は王様の言葉を無視し魔女を抱きかかえ、まさにお姫様抱っこ状態で私は王様を睨みつけた。
「ようやくやる気になったか?」
王様は今、魔女を倒し漫心状態にある。だから私を攻撃する訳でもなくこの様子を楽しんでいる、だから私にもチャンスがある……だから虚を突き逃げる!。
「あっ! あんなところにライセンの幽霊がぁ! お久ぁ」
「なんだと!? ついに現れたかライセン!」
王様が後ろ向いた瞬間に私も王様の後ろを向き魔女を抱えたまま逃げ出した。
「なんだ、どこにもいないではないか? あっ!? 貴様ぁ! 騙したな」
時すでに遅し、フッハハハ。馬鹿め、騙される方が悪いのだよ……正直騙せると思ってなかったが……。私は全力で入り組んだ森を逃げる。
思えば逃げてばかりだな……まあ、仕方ない、弱いのだから……。
「……おぃ……待て お前、逃げるのなら一人で逃げろ……私はまだ戦える」
意識を取り戻したのか、今にも消えそうな声で魔女は言った。
おいおい、そんな身体で無茶を言うな、心臓を貫かれているんだぞ? 生きている方が不思議なくらいだ。私は魔女の言葉を無視して魔女の身体を抱きしめる力を更に強めて逃げる、軍神から王様から逃げる為に森を走る。その後を追う様に軍神が木々を踏み倒しながら迫ってくる。
「くっ、あれは卑怯だろ!」
「……だから……私を置いて逃げればいいだろう?」
まだ、言うのかこいつは、しかしこんな姿になってまだ敵に向かおうとする魔女を見ていると自分が情けなく思えてくる……いくら魔女と言っても見た目は少女にしか見えないのだから……私にも戦う力があれば……誰にも負けない力さえあれば、せめてこの抱きかかえている少女を守れる力さえあれば……私が『冒涜者』だと言うのならその力が目覚めてもいいんじゃないのか? どうして私はこんなにも無力なんだろう? ライセン、お前なら勇敢に立ち向かうのだろう、だけど私には逃げるしかない……そんな私なんかになんでお前は、烙印を託したんだ? 残念ながら私はお前の期待に応えられそうもないみたいだ……。
「どうにか、撒いたかな?」
「……なんで、私を置いて逃げなかった? その方が簡単に逃げれただろう?」
「私が置いて逃げたら殺されてただろう?」
「……言っただろう……私は死ねないと」
「でも、痛みはあるんだろう、なら余計に王様の下に置いて来れるわけないだろう!」
「お前には……関係ないことだ」
「関係なくないさ、私がただ逃げてるだけだと思ったか? 私には王様に勝てる作戦がある」
「……お前……フン、わかったよ」
作戦なんて考えてはいない事を魔女に見透かされた気がしたが、今から考えればいい……『従魔』を倒せばその宿主である王様は死ぬ、だが王様の軍神は強い、そして王様自身も強い。一方こちらの戦力は負傷した魔女と足手まとい……無理じゃないか? いや、正面から無理に戦う必要はないか、見えてきた王様の攻略方法が、あとは魔女に確認をとればいけそうだな。
「そろそろ、下ろせ。もう大丈夫だ」
「はいはい」
「それで、お前は策があると言ったな?」
「その前に二つ確認したいことがあります」
「なんだ?」
「一つ目、魔女はこの地面にあの巨人の『従魔』を落とせる程にでかい穴を掘る事は可能ですか?」
私は地面に指を指し魔女に言った。その様子を見た魔女はかなり呆れた顔をして。
「可能だが……お前の策とは落とし穴なのか……?」
「そうです」
「あの巨人を無力化出来れば確かに戦闘で多少は有利になるだろう……だがその作戦は無理だ。お前も見ただろう? あの『従魔』は空中から現れた、つまり穴に落としたとしても一度戻して再度呼び出せば穴から抜けられる」
「それも考慮してます。そして二つ目、これが一番重要です」
「ほう。ならば聞こうか、お前の策とやらを」
私は魔女に王様攻略作戦の全容を話し、その後魔女に作戦の準備をしてもらい、全ての準備が整い私達は後、作戦を実行するだけになった。
「二つ目は可能なんですよね?」
「ああ、可能だ」
「では、後は頼みますよ」
「ああ、任せろ一撃で仕留めてやるよ。問題は私よりもお前だ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。んじゃ、行ってきます」
私は、魔女を残し王様を捜しに森の中を一人走りだした。