第8話「疑惑の真実」
ライセン? そうだライセンは命を狙われていたんだ。何故、ライセンは命を狙われていたんだ? 別に命を狙わなくても、この魔王討伐ゲームに参加した時点でライセンは遠からずに死んでいた筈だ……なのにどうして魔王討伐ゲーム開始直前で命を狙ったのだろうか?。
ライセンが命を狙われた理由は魔王討伐ゲームが関わっている可能性が高い、知らなくいい事を知り奴らを脅かす力があったと言った、だからだろう。だとすればライセンは魔女以上の真実を知り、その上にその真実を危うくする力もあった? こう考えれば一応の筋は通る。
「さっきから何を一人で唸ってるんだ? それにしてもお前は珍しいな」
「私は別に珍しくはないと思うが?」
「私がゲームの真実を聞かせた勇者は大抵、私を襲うか、自殺するか、逃げ出すかの三パターンだ。お前はどれにも該当しない、珍しいじゃないか?」
「あいにく私には魔女を襲って勝つ自信も自害する勇気も逃げ出す力も持ち合わせてない」
「お前、それでよく勇者を目指す気になったな」
「……別に目指した訳じゃない」
「なら、お前は奪った方か」
「……押し付けられた」
「それはまた珍しいじゃないか」
私は魔女にライセンに押し付けられた経由を話した。話し終えた時には魔女は信じられない様な顔をしていた。
「興味深い話しだ。お前の親友は魔王討伐ゲームで知らなくいい真実を知り、更にその真実とやらを脅かす力があったから狙われた。そう言いたいのか?」
「その可能性が高いと思う」
「聞かせろ、お前の考えとやらを」
魔女は足を組、私に命令してきた……まあ、いいだろう私の考えはこうだ。
ライセンが魔王討伐ゲームに関わって狙われた、正直これ以外考えられない。次に四国の中で最強の剣士と謳われていたライセンを瀕死に出来る者はそうはいない。だから魔王討伐ゲームに関わっていて、ライセンを瀕死に出来そうな相手は私の知る限りでは魔女が会った神の部下、こいつが怪しい。そして神の部下が怪しくなると神の部下に真実を聞いた魔女の真実も怪しくなってくる。後もう一つ、魔女の真実で魔王が現れた時、人々が魔王に追い詰められてから神が現れたと言った。神があまり人に関わらない介入しないと言うのなら納得できるが、今のこの世界は神に縛られていると言ってもいいだろう。だから魔女の真実のこの部分はおかしい、他にもおかしい処もあるがこの部分がどうにも引っかかる何故魔王が現れた時に神はすぐ現れなかったのだろうか? 根本的にこの神はなにか胡散臭さを感じる。だから私は神かその部下にその辺りの事を聞きたい……私は神を疑うし、元々神様なんか信じていない……それにライセンのこともある……。
「なるほど、それでお前は神に喧嘩を売りにいくのか?」
「いや、話を聞きたい」
「フン、神が話を聞くとは思えないな」
「なら力ずくで聞かせてもらう」
「勝てるのか?」
「魔女が協力してくれるなら」
「ほう、私が神に勝てると? まぁ、神に殺されるのも悪くない。それも面白そうだから手を貸してやろう」
魔女の協力を得た私はこれからの方針を魔女と考えしばらく休んでから魔王城に乗り込む事に決まった。特にやることもないのでライセンが私に安心して押しつけた力……いや呪いの烙印をぼんやりと眺めていた。
「そう言えばこの烙印って最初は誰がくれるんですか?」
「私の時はそんなモノなかった。だが何回か前のゲームの時に会った勇者等に聞いた話しだと国の最高責任者の娘や息子らしいぞ」
《だから、私は魔王城で待っています》
不意にお姫様の最後の言葉が頭をよぎった……なんなんだこの胸騒ぎは一体? まさか……な。
それから私達は三日間の休養をとった後、魔王城を目指して歩き出した。
「魔王城にはこの道であってるんですか?」
「お前は、私が何年この森に住んでいたと思ってるんだ?」
「ええと……三十年前から始まったとされるから三十年前?」
「それは嘘だ。私はもっと前から住んでいる」
「何歳ナンデスカ?」
「魔女に年齢を聞くものではないぞ」
見た目はどう頑張っても十二、三歳にしか見えんのだが……と言う事は勇者として参加した時から歳をとらなくなった?。
「魔王討伐ゲームに参加した時は何歳だったんですか?」
「二十一の時だ」
「嘘だぁ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁ」
「黙れ、うるさい!」
……私は魔女に五分間の凍り漬けの刑にされた……ああ、なんて空気が美味しいんだろう、私は寒いと言うより息ができない事がなによりも苦しかった、本気で窒息死するかと思った……よく五分も息を止めて死ななかったな……そして私は理解した、この魔女を怒らせてはいけないと。
その後、しばらく森を歩いていた時、魔女が歩くのをピタリと止め。
「つけられてるな」
「は?」
「しかも、お前を狙っているぞ?」
「えっ? マジですか?」
「マジだ。一匹二匹……八匹はいるな」
匹って事は魔物か? 私をしつこく狙ってきた魔物の集団か?……しかし、しつこい奴らだ。
「この群れのリーダーはあいつみたいだな、知り合いか?」
魔女が指を指した先には、私の左目を潰した黒い身体に赤爪をした狼型の魔物が物凄い形相で私を睨んでいた。
「あいつは、忘れもしない私の左目を潰した奴です」
「ほう、あれから逃げたのか?」
「ええ、一応」
「あれはプライドが高いからな。一度殺ると決めたターゲットに逃げられ苛立っているんだろう。まあ、頑張ってくれ」
「えっ? 助ける気なし?」
「仮にもお前は勇者だろう、なばらあれぐらいなんとかしろ」
……あれぐらいと言われても私には全く勝てる要素が見つからないんだが、どうしよう? とりあえず魔女に土下座した。
「無理です死にます。助けて下さい」
「お前にプライドはないのか?」
「そんなの捨てました」
魔女はため息をつき。やれやれと言った感じで。
「……仕方ない。これじゃお前はただの足手まといだな」
そう言って魔女の周りは一瞬にして凍るような冷たさに包まれた。
「面倒だ、まとめてこい」
マジっすか? そんな挑発して大丈夫ですか? 隣に私がいる事忘れてませんか? 私は一匹も倒せる自信がありませんよ?。
魔女の挑発を理解したのか八匹の魔物が全方向から一斉に襲い掛かって来た。
「愚かだな」
魔物にそう言い放ち魔女は笑っていた。私はその姿に恐怖した、子供が無邪気に笑っているだけなのに、でもそれは同じ人の笑いとは違っていたから、まるで殺すと言う行為が楽しく楽しくてしょうがない、そんな悪魔の様に見えた。
八匹の魔物が私達にあと一メートルまで迫り、魔物達が私達を捕捉し攻撃体制に入った、その時に八匹の魔物の地面から鋭く尖った氷の柱が上空を目指し突き上げ、その柱は例外なく八匹の魔物を串刺しにしていた、刺さった魔物は一瞬にして全滅していた。
魔女はそれを詰まらなそうに見ていた。これが魔女……あまりにも圧倒的であまりにも理不尽な強さ、これが魔女なのだと、これが数多の勇者を殺した果てに辿り着いた強さなのだとその時 私は思った。
「お前も私が怖いか?」
見透かされていた。でも魔女のそう言った姿がとても儚く悲しげに見えた、だから私は……。
「いや、頼もしいなと思った。それよりその力はなんだ?」
「知らんのか? これも『冒涜者』の力だ」
「『冒涜者』って『従魔』を使役するんじゃないのか?」
「そうだ『冒涜者』と呼ばれる殆どの奴はそれだ、だが何にでも例外は存在する。『冒涜者』と言っても神の洗脳行為の全く受けてない訳じゃないだから『従魔』なんぞ非現実的なモノを使役する。神が本当にイレギュラーだと思って排除したいのは私のような『従魔』を使わない『冒涜者』だ。そしてお前も私側の『冒涜者』だろう?」
「ライセンも私が『冒涜者』だと言った。そんな事が本当に分かるのか? 私には魔女の様にそんな力はない」
「いいや、お前は私以上の『冒涜者』だ」
魔女は私以上の『冒涜者』は世界にいない、だから協力する気になったとの事だ『冒涜者』の力はその名の如く神の信仰心の低い者に与えられる力らしい。全く物知りな魔女だ、そりゃ私の何倍も生きているのだから……本当に何歳なのだろうか? それで魔女いわく『従魔』を使役する奴は神を多少なりに信じているから非現実的なモノを使役出来るらしい。それよりも神の信仰が少ない者は『従魔』すら凌駕する力があるらしい。魔女の力は『魔を律する者』と言うらしい、ちなみに魔女が名付けたとの事です。そして魔女は私は私の事を無神論者と言った。確かに私は神が嫌いだ、 何かされた訳ではないが嫌いだ、神と言う存在が気に食わない。そして私はあの反則的な力を持つ魔女以上の『冒涜者』らしいが私にはそんな力は感じられない……本当にそんな力あるのかと思うくらいに全くない……と思う。
と歩きながら講義を受けていた。
「ここをまっすぐ進めば魔王城だ」
「やっと魔王城……ながかった」
そして魔王城に向かって森を道を進み始めた。
「……ようやく来たか。待っていたぞ」
前方には木によしかかり腕を組んで私達を待っていたかのように王様が佇んでいた。