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第6話「蘇る過去」

虚しい笑いを止め、私は無気力に森の中で一人 佇んでいた。


グルルッッ!バサッ!


気がつけば、周りに魔物が多数集まって来ていた……。


「……そうか、此処で私は終わりか……」


あれだけ、笑い声をあげていたんだ、魔物が集まって来ても当たり前だな……お姫様は、おそらく私の事をたった一つだけ誤解していたのだろう。私が弱いと言う事を……何回も言ったのに……。私が四国の中で最強の剣士と謳われるライセンを殺したと言う事実を信じて、最後まで私が強いと思っていたんだろう……でなければ、私を森の中に一人で入れて魔王に挑ませる理由がない! まぁ、今となってはどうでもいい話しだな……でもこれで、お姫様に一矢報いられたかな? 私は本当に弱いのだから……。


魔物の群れの中から一匹、黒い身体に万能包丁の様に切れ味が良さそうな真紅の爪をギラッと私に見せつけた狼の様な魔物が『俺がやるから貴様らは、そこで見物してろ』とでも言わんばかりに他の魔物を牽制して単独で私にゆっくりと向かってくる……その差、僅か四メートルと言った感じだな。私が逃げれば他の魔物に囲まれて終りだろう……別に逃げるつもりはない。目的を失った今となっては、死を受け入れるのも悪くない……私はどのみち罪人なのだからな……私はまぶたを綴じて視界を闇におとした。


この世界は等しく平等なのだと考えながら……


誰かが殺し

誰かが死ぬ

誰かが騙し

誰かが騙される

誰かが夢を勝ち取り

誰かが夢に潰される


そう、誰かの違い

その誰かとは無差別に決められる。


世界は平等なのだ。


世界から見れば私も誰かに過ぎない。

誰かが死んだ

所詮は、その程度なのだから……











夜も深まった頃、スベルニア王国領から少し離れた丘の上で私は星を眺めていた。城で執事見習いとして働いていた私は仕事が終わった後には必ず、ではないがちょくちょくこの場所で星を眺めていた。星を眺めているのが好きだったから。


あの日も星を眺めていた……しばらく眺めて帰ろうとした時に、ボロボロの鎧を身に着け、その砕けた鎧からあらわになっている肌は傷だらけで、その傷口から血をポタポタと落としながら私に近付いて来る傷だらけの親友、ライセンの姿があった。



幼かった私が気付いた時には、もう既に両親は亡く、宛もなくスベルニアの下街をさ迷い歩いていた。そんな時だった、ライセンと出会ったは、私より二つ年上で私と同じような境遇だった。だからなのか、私とライセンは直ぐに打ち解け、私達は下街での生活を一人より二人でと星が綺麗に見える丘の上で二人で助け合い生きて延びる事を誓った。それから、私達は下街で生きていく為に働いて、働いて何とか住む場所が確保出来た。同じ年齢の子は士官学校や一般学校に通う年頃だったが、そんな経済力がある訳もなく、私とライセンは朝から晩まで死ぬ気で働いて、幼年期を過ごしていた。そんな日々が嫌いじゃなかったし、何よりもライセンが居たから、一人じゃなかったから……私はとてもそんな生活に満足していた。私達が大きくなるに従い今までより危険な仕事を紹介して貰い。そのおかげで私達の生活にある程度、余裕が出来た。ライセンには夢があった……勇者になる夢が、その話しを聞かされた私は最初に鼻で笑って馬鹿にした。

子供だった私でも馬鹿な夢だなと思ったから、勇者になるにはその国で一番強くなくてはならないのだ。でも、それでもライセンは本気で目指していた……元々正義感の塊の様な男だったし、他人の厄介事を見れば直ぐに首を突っ込む奴だった。それが原因で……死にかけた事も度々あったが、それはそれで楽しかった。私達がそれなりに生活に慣れてきた頃、突然ライセンは勇者を目指す第一歩としてスベルニア騎士団に志願すると私に言った。ライセンが夢に向かって進むのに……私には特にやりたい事も夢も無かったし……ライセンが騎士なれば私はまた一人に戻ってしまう、だから私はライセンが騎士になる事に反対してしまったのだ……私に反対されたライセンは一瞬、少し悲しそうな表情をしていた様な気がした。私に反対されたライセンは、私を嫌う事なくこれまで通りに仕事をこなし二人で生活を続けていた。あの日以来ライセンは騎士になりたい、とは一度も口にしなかった。それから一年が過ぎた頃、私は仕事を終え星を眺めていたら子供の頃にライセンと誓いをたてた丘が急に懐かしくなり、丘を目指した。丘にはライセンがいた、ライセンは一心不乱に折れた木の枝……と言っても五メートルはあると思われるモノで素振りをしていた。

そこで私は気付いてしまった……私はライセンの進む道の壁になっているのだと……この丘での誓いをライセンは守っているのだと……だから私に言った騎士になりたいと一度だけ……それから一度も口にしなかった。いつのまにか私はライセンの枷になっていたのだ。私の我が儘に文句の一つも言わずにライセンはただ私に付き合ってくれている……だから、そう、だから私はこの日からライセンの夢を応援する事が私の夢になった。翌日、私はライセンに。


やはり勇者を目指すのなら騎士の一つにでもなれないと駄目だろう。


と照れ臭いので皮肉を込めて言ってやった。

ライセンは一瞬、何を言われたのか分かってない様な様子で私を呆然と見ていた。その後似たような台詞を二、三回言ってようやく理解したのか私に抱き着いて来た。私にそっちの趣味はないが少し嬉しかった……ほんの少しだけ。私に分かって貰え嬉しかったのかライセンは『じゃ早速』と言った感じで城に志願しに行った。その後、騎士見習いとなったライセンは一年で騎士と認められる。下街から騎士になる者は異例の自体だとライセンが騎士になった日の下街はお祭り騒ぎなっていた。そのお祭り騒ぎの後、私もライセンの役に立ちたくなり、城で志願するも騎士見習いの資格すらないと追い出された……と言うのは言うまでもない。その様子をたまたま見ていた王妃様に容姿が気に入られたのか城の使用人として働く事になり、執事見習いとなってしまった。その後、城でばったりライセンと会った時にいきなり笑われ、執事見習いとなった経由を話したら更に馬鹿笑いされた……。

それから数年、私とライセンはそれぞれ忙しく会う機会はめっきり減ってしまった。そして、ついに魔王討伐ゲーム開幕の年がやってきた。

ライセンは既にその頃にはスベルニア騎士団隊長にまで上り詰めていた。そして国内で勇者を決めるトーナメントが騒々しくも幕を上げ、ライセンはそれに優勝して夢の勇者になる事を果たした。

ゲームが始まる一週間に仕事が終わり、日課になりつつある丘で星を眺めて、帰ろうとした時にボロボロになった満身創痍のライセンと久々の再開を果たした……。


『おい! 大丈夫か!?』


理由は分からないが、今にも死にそうなライセンに駆け寄り声をかけた。


『ふっ……やっぱり……此処にいた……な』

『喋らなくいい 待ってろ 今すぐに、城の医療班を呼んでくるからな』


急ぎ城に戻ろうとした私の足をライセンが掴み、それを阻み。


『いや……それは無駄だ……お前も危険になる……どうやら俺は知らなくていい事を知ってしまったようだ……それに……奴らを脅かす力もあったようだ……』

『奴ら? 何を訳の分からない事を言っているんだよ こんな時に、それよりやはり医療班を』


ライセンが私の足を握るのを振りほどこうとした。こんなにも弱り切っているライセンから振りほどくのは、流石の私にも容易だったが。


『いいから聞け、ラウル。城は危険だ……』


ライセンがあまりも必死だったので私はライセンの話しを聞く事にした。


『……わかったよ』

『ありがとう……魔王討伐ゲームには何かがある……お前に隠していたが俺は『冒涜者』だ……そしてお前も『冒涜者』だ……』

『ライセンが『冒涜者』で私も『冒涜者』だって言うのか? ライセンが『冒涜者』って言うのは信じるけど、私には『従魔じゅうま』など体内にいる気配すら感じられないんだから『冒涜者』じゃないよ』

『俺には……『冒涜者』を感じる力があるから、間違いない……』

『分かった信じるよ。だから、治療に行こう』


私には、ライセンが何故、今こんな話しをしているのかわからなかった。それよも一刻も早く手当を受けさせたかった。


『……まだ……言いたい事があるんだが……どうやら……もう俺にはそんなに時間がないようだ……だから、俺からの最後の願いを……聞いてくれないか……?』

『分かった。何でも言ってくれ』

『……悪いな……俺を……殺してくれ……』

『……馬鹿野郎! いくらお前の頼みでも、聞ける事と聞けない事がある』

『……頼むラウル……俺からの最後の願いぐらい聞いてくれ……どのみち今から治療を受けても手遅れだ……なら責めて最後はお前に……』

『……それしかないのか……?』

『……ああ』

『……わかった』

『……すまない。お前に全て押し付けてしまって……だが、お前になら安心して力を託せる。それにお前の力なら……きっと……』

『…………』


私はライセンの腰に身に着けていた剣を両手で握りライセンに身体に突き刺した。しばらくその場から動けずに私は自分で殺した相手の死に涙が溢れてきた……。


その後、スベルニア王国の兵士に見つかりその場から逃げ出し追われる身となった。












何故 何故だ? 何故、今まで忘れていたんだ? そう、私は忘れていた。いや、違う思い出せなかったんだ。勇者を殺した記憶はあっても、私がどうして勇者を殺したのかは覚えていなかった。

そうだ……思い出した

私がライセンを……殺したんだ……。

だから、あの時誓ったんだ……あいつの仇は私が果たすと。まぁ、止めを刺したのは紛れも無く私なんだがな……。


その瞬間、私はまだ死ぬ訳に行かないと思い瞼を開き意識を覚醒させる。眼前には万能包丁が、いや真紅の爪がギラッと光っていたが私は咄嗟にそれを回避……出来る訳もなく、左目が使い物にならなくなったが死を回避出来たのだから、この場はよしとしよう。問題はこれからだ……生きる為の理由を目的を……それが例え不毛なモノだったとしても思い出したのはいいが、この場を逃げ切る手段はあるか? 戦闘には自信が全くない私に……だか、逃げ切れなければ死ぬ……左目が機能していないせいか視界がぼやけて歪むし頭がくらくらする……いきなり顔面にダメージを喰らいすぎたか……。

余り考える時間はないが考えるんだ……逃げ切る策を……とりあえず逃げるか。その瞬間、次の一撃が私に襲い掛かる、万能包丁じゃなかった、真紅の爪が私の足を狙う、悪くない狙いだ、などと考える余裕はなく……逃げようと足を踏み込んでいたのが幸し、どうにか回避に成功した私は全力疾走で逃げる……が、いかんせん向こうの方が圧倒的に素早いのに加え前方に三体程、魔物が待ち構えている。更にだ、顔面の左側からは止まる事なく血がダラダラと流れ落ちている。正に絶体絶命の危機だな。


《お前は『冒涜者』だ》


《……お前になら安心てし力を託せる》


《お前の力なら……きっと……》


不意にライセンの言葉が頭をよぎる。


ライセンは私を『冒涜者』だと言った。


ライセンは私に安心して力を託すと言った。


ライセンは私の力なら……これはよく分からない。


つまり、私にも何か秘めたる力があるに違いない。私が『冒涜者』と言うのならば、今こそ呼ぼう『従魔』を……しかしどうやって? とりあえず気合いだ! 気合いで呼んでやる。

私は前方に居る、魔物を走りながら睨み。


「ウォォハァァァァア」


声にだして気合いを入れてみたが……何も起こらなかった……。

チッ、やはり駄目か。

だが、今の気合いで後ろから物凄い勢いで迫ってくる魔物が怯んだ。

私が向かう前方に居る魔物に隙間は……右側に居る二本足で立っている豚の化け物みたいな魔物の足の間をスライディングで抜け……左右の魔物が豚諸とも私を襲ってきたが攻撃は豚に当たり、同士撃ちに成功した。その後もしつこく追われ、傷付きながらも何とか巻く事に成功した……。

代償に執事の服もボロボロになり、身体のあちこちも傷だらけだし左目も失い正に満身創痍になってしまった。

左手で左目の辺りを押さえ血が流れるのを止めるが、気休めだった……。とりあえずどこかで手当と休憩と睡眠をくれ……

その場で私は意識を失った。


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