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第5話「偽りのルール」

薄暗く静寂が支配する森の中を進む 魔王城を目指して進む 今進んでいる道の先に魔王城があるのかなんて分からない。だけど進む そう、だけど進む 間違っていたなら違う道を進めばいい 進む事を止めなければ、きっと、いつか魔王城に辿り着けると信じて進む……泣いていたから……泣きながら言った。


《だから、私は魔王城で待ってます》


だから、私は魔王城に向かう。


代わり映えのない景色に飽き飽きしながら歩いていた。


ガキッ!ガキッン!


不意に金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえ、気になったので音のする方に向かって足を進めていた。

そこには、四人の人影が見えた。金色の派手な鎧の男を三人掛かりで襲っている、そんな状況。

三人で襲っているにも関わらず、三人組の表情に余裕はなく、焦りさえ感じられる。一方、襲われている筈の派手な鎧の奴は余裕が見える、と言うよりも完全に三人組相手に戯れている感じがした。三人組の連携された攻撃を余裕で避ける どんなに手を休めずに攻撃を繰り出しても派手な男に三人組の攻撃は届かない、痺れを切らせた三人組の一人が怒りに身を任せたのか、動きが単調になった。単調故に分かりやすい動き、派手な鎧はその動きを見逃さなかった。単調に放たれる攻撃を避け、がら空きになった身体に剣を突刺す 一突でそいつは動かなくなった。三人組の一人の……後を続く様に倒れて行く二人。

そう、一人殺せば終わりだ、残りの二人は勝手に死ぬ……他国の勇者パーティーなのだろ……勇者パーティーは、いわば運命共同体、一人死ねばそのパーティーは全滅する……それがルール……。


「貴様も私に敵対するか?」


私の方を向き、派手な鎧の男が嘲笑しながら言った。


私は立ち尽くしたまま先程の戦闘にア然とし隠れる事を忘れていた……これはやばいかも……。

私は今にも逃げ出す体制で。


「敵対する意思がないと言えば見逃してくれます?」

「見逃さないと言ったら?」

「じゃ、そう言う事で」


私は金色の派手な鎧の男に背を向けて脱兎の如く逃げ出した。


「セルシオン」


金色の派手な鎧がそう言った瞬間に私の目の前に、それは現れた。鋼の鎧を纏った様な身体。右手に手には派手に装飾された剣を握り、左手に純白の盾を持ち、薄暗い森を掻き消す様に白いスリムなボディ 白白白。そこには白い巨人がいた。


私は、それを知っている それは『従魔』だと。『魔王討伐ゲーム』が始まってから、稀にある力を持って産まれる人間が居ると言われている。

だが、人は皆 神を信仰している 世界から争いを無くし世界を平和に導いた神。そして、その神が創り上げたゲームも信仰している。だから強すぎる力はゲームバランスを崩す恐れがあるとされ、その能力は神への冒涜と言われ その力を持つ者を『冒涜者』と呼ぶ。

『冒涜者』には『従魔』と言う存在を体内に飼っていると言われいる。それを世界に具現化し戦わせる事ができる。


逃げるのは無理そうだなと悟った私は、後ろを振り返り両手を上げた。降参の意味を込めて。


「何の真似だ?」

「見ての通り降参と言う事です」

「フン、潔のよい事だ。貴様、名は?」

「人に尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀だと、私の知り合いが言ってましたよ」

「ハッハハハ」


……笑われた。真面目に言ったのに……。


「俺は、ベルファーレ帝国の勇者、テイル・デュールだ」


やはり、勇者だったか この男。あらためて見ると銀髪のオールバックにその顔立ちは一見、優顔に見えるが恐ろしい程に怖い冷酷な目つきをして金色の派手な装飾した鎧を身につけている。その雰囲気はさまに王様と言った感じがした。


「私はスベルニア王国のラウル・リリックです」


王様は私がスベルニアと言った途端に表情を険しくした。


「スベルニアだとぉ! 貴様が勇者なのか?」

「私はスベルニア勇者のパーティーメンバーの一人であります」

「だろうな……スベルニアには奴が居るからな、当然あいつ、ライセンが勇者なのだろう?」

「……ライセンは殺されました……」

「馬鹿な!? 四国の中で最強の剣士と謳われた奴が殺されただと!?」

「王様はライセンとお知り合いだったんですか?」

「ほう。俺を王様と呼ぶか 分かっているな貴様。そうだ、奴 ライセンは俺を負かした唯一の男だ。……いずれ俺が殺そうと……」


王様は少し悲しげな顔をしていた。きっと王様にとってライセンは よき好敵手のような関係だったんだろう。


「それで、誰がスベルニアの勇者なのだ?」


王様の発言が私には意外だった……この流れなら必ず誰が殺したんだ? と聞いてくると思っていた。なのに王様は勇者が誰か聞いてきた……。さっき勇者のパーティーメンバーと言ったのに此処で私が勇者と名乗っても勇者を庇ってると思われるし、下手をしたら私が殺され兼ねない。私が死ねばお姫様も死ぬ……だから私は死ねない。

まあ、王様がお姫様に直接出会わなければ問題ないか。


「ルリ・スベルニアと言う お姫様です」

「ほう。ならば、そのお姫様とか言う奴がライセンを殺したと言う事か」


王様の言葉が引っ掛かる。王様は何故、お姫様がライセンを殺したと言い切れるのだろうか?。


「ちょっと待って下さい。何故、王様は お姫様がライセンを殺したと言い切れるのでしょうか?」

「なんだ? 貴様は知らんのか? まあ、いいだろう教えてやる。簡単な事だ、勇者を殺した奴が勇者になるんだよ。だから、そのお姫様って奴がスベルニアの勇者なら、スベルニアの勇者だったライセンを殺したのは、そのお姫様って奴になる。そういうルールだからな」


……なんだ……と!? どう言う事だ? 王様は何を言っているんだ? 訳が分からない。

確かに、お姫様は王族に権利が移り自分が勇者だと言った……王様は勇者を殺した奴が勇者だと言った……眩暈がする。

何がどうなっていると言うのだ……あのお姫様が嘘をついているとは思えない。しかし、王様も嘘を言っている様にも見えないし嘘をついても王様にメリットはない。


「……勇者が殺されたら……勇者になる権利は王族に移るのではないのか?」


王様は笑っていた。確かに笑っていた。


「ほぅ。そのお姫様がそう言ったのか? と言う事は、貴様は騙されたと言う訳か」


私がお姫様に騙されていただと!? 有り得ない 有り得ない 有り得ない。 あの、お姫様にそこまで知恵が回るとは思えない! そもそも私に勇者を偽る理由が見当たらない。


だから、そう、だから

私は王様の言うルールを信じない。



「……私は、王様の言うルールを信じない!」

「随分、信頼しているのだな、そのお姫様とか言う奴を。別に俺は貴様が信じなかろうが構わん だが事実だぞ。なんせ俺もベルファーレ帝国の勇者を殺し勇者になったのだからな。これが証拠だ」


そう言って王様は左手の篭手を外し、左手の甲を見せてきた。そこには黄色っぽく光っている紋章見たいなのが刻んであった。なんだこれは!? これが証拠だと? 一体何の証拠だと言うのだ。


「……それは何?」


再び篭手を左手に装着しながら王様は驚いていた。


「まさか、これも知らないのか?」

「……全く分かりません」

「これこそが、勇者の烙印だ。この烙印がないと死の森に入る事は不可能だ。そして、この烙印を持つ者は二人にまで烙印の効果を分ける事が可能なのだ。だから勇者パーティーメンバーは三人までと言われている」


……そんな事があってたまるか! 何故、何故、何故だと言うのだ? 私は……騙されていた? 未だに信じる事が出来ない……待て、王様の言っている事は本当に正しいのか? ならば、私が森に入れたのは何故だ? ……そうか……私が勇者を殺したんだぅたな……当たり前か……これで、お姫様が入って来なかった理由も説明が出来る。お姫様は入れなかったのだ……では、何故泣いていた……私を騙していたのが辛かったから……分からない。分かりたくなかった……。

王様は烙印を分ける方法は勇者の烙印を持つ者が烙印を分ける相手に烙印を直接宛てればいいと言った。それが死を共にする呪い烙印だと……。


思い出す、あの時 お姫様は私が死んだと思ったから埋めようとした……今思えばお姫様は、私達が運命共同体じゃないと知っていたからだったのではないのか? だから、死んだと思った?。


「なんだ、裏切られてた事がそんなにショックなのか? 貴様を殺したらライセンを殺したお姫様とか言う奴も死んでしまうのか……それは詰まらんな。せいぜい俺が、お姫様とか言う奴を殺すまでは生きているのだな」


王様はそう言い残して、どこかに歩いて行った。

王様がいなくなったのを確認してから、私は手袋を外し左手を見た……そこには黄色く光る烙印が刻んであった…………。


私は気づいてしまった……


――そうか、私は騙されていたのか……。

城を脱出する時から、ずっと……森に入るまで……。

つまり、お姫様は……いや、スベルニア王国軍は勇者を殺した罪で私を捜していたのではなく、烙印を捜していた。

烙印を見付けた お姫様は私に魔王を倒さようと考え近付いてきた……利用されていたのは私の方だったのか……


《だから、私は魔王城で待っています》


笑わせる……私はお姫様の手の平で踊らされていたに過ぎなかった……


とんだ、道化もいたものだな……




フッハハハハ


フッハハハハ



静寂が支配する森の中で、孤独な笑い声だけが木霊する。




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