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第11話「崩された女神の計画」

草原に囲まれた中に黒く聳え立つ城の正面にある大きな扉の前にドレスの様な純白の軽鎧を身に纏ったお姫様が佇んでいた。私と一緒に居た時とは少し印象が違い大人っぽい雰囲気になっていた。


魔女に烙印の事を聞いた時にまさかとは思っていたが、やはり私は騙されていたんだなと悔やみきれない想いが私を責め立てる。騙されていた事に対して私がお姫様に抱いた憎しみは尋常じゃなほどに大きかった筈なのに……お姫様を見ていたらそんな憎しみの感情は薄れていた。


「やはり、お姫様は神の部下でしたか……」

「そうです。私は魔王討伐ゲームの監視者の一人です」

「その監視者がなんで私の様な弱い者を騙して森に誘導したのですか?」


お姫様はまるで機械のように無表情で淡々と語る。


「……今、一番人口が少ない国がスベルニア王国です。この魔王討伐ゲームの真実を知るラウルさんなら此処まで言えば分かるでしょう?」


つまり……お姫様は、ライセンを殺し勇者になった私を死の森に入れる事が目的だった、と言う事か……森に入ってしまえば私が弱かろうが強かろうが関係ない……森に入れるのは烙印を持つ者だけ、烙印を持つ者はいずれ死ぬ。つまり、必ずこのゲームの参加者は最後にみんな死ぬ様に出来ている、そして監視者はゲームの勝者を操作する事が出来る。監視者が私に術か何かで変装し、スベルニア王国に帰還して魔王を倒した報告をすればいい。私が勇者だったから騙されたと言う訳か……私が勇者だと知っていると言う事は……ライセンを狙ったのもお姫様なのか?。


「……ライセンを狙ったのも、お姫様と言うことですか?」

「そうです。私がラウルさんの親友であるライセンさんの命を狙い瀕死にしました」


淡々と喋るお姫様がライセンの命を狙ったと認めてると言うのに私には不思議なくらいに友の復讐を果たす気持ちが沸いてこない、私が生きる目標だったのにも拘らず。


「……どうしてライセンの命を狙ったのですか?」

「……彼の『冒涜者』としての力は異常だと神の存在を脅かす程に危険だと神が判断したからです……」

「……だから任務に従いライセンを殺そうとしたのか……ライセンはそんな力があった為に命を狙われた、そう言う事か……」

「……そうです」


おそらく今の話は嘘だと思う、お姫様の表情からは読み取れないが神自身を脅かす程の力を持ちながらあのライセンが神の部下……お姫様に後れをとるなんて考えられない、それにライセンは私と違い自身の『冒涜者』の力に気付いていた。ライセンの仇を目の前にしながら恐ろしく冷静でいられる私だから気付いた矛盾。


「その話、どこまでが本当の話なんですか?」


今まで無表情だったお姫様の顔か少しぐずれた、私が嘘を見抜くとは思っていなかったと言わんばかりに。


「……気付いてましたか、そうです。ラウルさんの予想通りライセンさんの力は神を脅かすには遠く及ばない力です、いわば神の勘違いです。神が本当に脅威に感じていた力はラウルさんの持つ力です、ですが私はその神の間違った認識を正す訳にはいかず、ライセンさんにラウルさんの身代わりになってもらいました」

「ライセンは私の身代わりに殺されたのか……なるほど、お姫様は神に反逆でもする為に私の力がほしかった……そんなところですか?」

「はい、その通りです。だからラウルさんには此処で死んでいただきます」


そう言ってお姫様は右手を前に出し右手を広げた瞬間に空間が歪み、小さなブラックホールの様なものが出現し、その中から刀身が禍々しく真っ黒の剣が姿を表した。お姫様はそれを握り、その剣の先を私に向けた。私はお姫様に殺されるのを受け入れ脅える事無くその場に立ち尽くしていた。


「どうしてラウルさんはそんなに冷静でいられるのですか? 私に殺されてもいいんですか? 私は貴方の親友の仇ですよ? 貴方は復讐を果たす為に生きているんじゃないのですか? それどころか私に騙されて危険な目にいっぱいあったんじゃないんですか? それなのにどうして貴方は私に対してそんなに平然としていられるんですか?」


私が此処にきてから、お姫様は初めて感情をむき出しにして質問を投げかけてきた。


どうしてなのだろう? 私もお姫様を目の前にしてかずっと考えていた事だ、本当は初めから分っている、ただ認めていないだけで、どんなに利用され、どんなに騙され、どんなに裏切られても……私はお姫様の事が好きなのだろう、ライセンの仇だろうと関係ない。だからどんなに傷つこうが私はお姫様を憎めない……それだけのことだったのだ。だから殺されもいいとすら思っている、それで私がお姫様の役に立てるのなら……。


「好きだから……どんなに利用されても、どんなに裏切られても、私はお姫様の事が好きだから……だから私の死がお姫様の役に立てるのなら、どうぞ私を殺して下さい」

「なっ!? 何をいきなり言い出すんですか!? ……ラウルさんはふぃきょうです(卑怯です)私がどんな想いで過ごしてきたと思っているんですか!? 私はラウルさんに殺される為に此処で待っていたんですよ!? それなのに、それなのに……私が好きだから殺してくれなんて卑怯です! 私がラウルさんの事を嫌いなはずないじゃないですか!? 私もラウルさんの事が大好きなんですから! なんなんですかこの展開!?」


よく分らないが、お姫様は私の告白に嬉しいのか悲しいのか泣きながら怒っていた。

その後、私達の間にしばらく沈黙が続いた、多分お互いに何を言えばいいのか分らなかったんだと思う。そして更にしばらくして沈黙は破られた、私により。


「え、ええと。今の話を聞く限りでは……私がお姫様を殺すんですか?」

「はい、私の計画ではそうなる予定でした……」

「お姫様の計画?」

「……はい。ラウルさんを利用して魔王を倒す計画でした……でも、もう駄目です。ラウルさんのおかげで私の計画が崩れちゃいました」

「……私が崩したんですか?」

「そうです! ラウルさんが悪いんです! 最初は利用しているつもりだったんです。でもラウルさんと行動を共にしている間に私はラウルさんの事が好きになってました、それだけなら私が我慢すれば耐えられたのに! ラウルさんが好きだなんて言うから、殺してくれなんて言うから、もう我慢できなくなってしまいました」


その後、お姫様はしばらく頬を赤めて物凄く恥ずかしそうな顔をして何処かに走って行った……しばらくして冷静になったのか戻ってきた お姫様は魔王討伐ゲームの本当の真実を話してくれた。


私の予測通り、魔女の真実には偽りの部分が存在した、この世界に神も魔王も現れた。だが、此処に異なる真実が隠されていた神は魔王に敗れてもうこの世界には存在しない。今この世界には魔王だけが存在している、魔王は倒した神の力を使い魔王討伐ゲームを創った。その理由は効率よく永久的に力を得る為だと言う。魔女の真実だと魔王を封印する結界が四年に一度その効力が弱くなるとされ強い人間の者の魂を必要としそれ以外の年はゲームに敗れた国が封印を維持すると言う形で犠牲になっていた。でも、これは偽りだった魔王にとって人間の魂は最高のご馳走でもあり自身を強くする為にも効率がいいらしく魔王はゲームのない年は弱い魂を喰らい続けゲームの年は強い魂を喰らい自身を強くしていくそんな目的で創られたのが魔王討伐ゲームの真実。


「……最悪な真実ですね、神だと思っていた人物が魔王だったとは……」

「そうです、だから私は神の名をかたる魔王を倒す為にラウルさんを利用しようと考えたんです」

「私なんかに利用価値があるとは思えませんが、これまで人畜無害な人生を送ってきたので」

「魔王がラウルさんとライセンさんの『冒涜者』の力を間違えたのがきっかけです。あの時、私はライセンさんを殺し勇者となったラウルさんがゲームに参加する意思があるのか、監視者として確かめる為にラウルさんに近づきました、この時の私は魔王の術に掛っていました一種の洗脳の様な状態でした。でもラウルさんに近づくにつれて自分を取り戻しました、おそらくは私の力とラウルさんの力が反発して魔王の術が解けたのでしょう。そこで思い出しました私は女神だと……」



なんでもお姫様は、この世界に現れた神が敗れ更に魔王がその神の力を使っていると報告を受けた神界から派遣され魔王を倒すべくこの世界にやってきたと言う。お姫様には魔王に絶対に負けない力があった『魔殺し』の力、魔王からの攻撃を全て無効にし、一撃当てれば魔王をも瞬殺出来るそんな力があったからお姫様が選抜された。しかし神の力を吸収し魔王を超える存在と成っていた魔王に『魔殺し』も通用せずにお姫様は、この世界に囚われ魔王に協力を強制され一種の洗脳状態に陥っていたが、私と出会った事で私の中にある『冒涜者』の力とお姫様の力が反発して洗脳から解放された。そして私の中にある力『神殺し』と言う存在に気付いたとの事、その力は例外中の例外で魔女の『冒涜者』の力『魔を律する者』などとはもはや比べモノにならない程に強力で神の力から発生するいかなる攻撃も『神殺し』には効かない上に『神殺し』から放たれる攻撃に一度でも当たれば女神であるお姫様は消滅するらしい。そしてその私の力を利用して魔王を倒そうと考え、お姫様の計画が始まった。

神は殺されるとその相手に力を与えると言う厄介な存在らしい、それで私に魔王を倒させる為にお姫様は自分を犠牲にして私に『魔殺し』を託そうとしていた様だ。そうなれば私は『神殺し』と『魔殺し』を同時に所持し、神でも魔王でも一撃で倒せる存在になるとお姫様は言った。


「その計画は駄目です、私にはお姫様を殺す気は微塵もないですから」

「はい、話した以上はもう私も計画を実行するつもりはないですよ。しかし魔王を倒す術がなくなりました。どうしましょう?」


相変わらず、全く困った様子が感じられないんだが……。しかしこれは考えてもいい作戦が思いつくとは思えない……ん!? そういえば魔女が魔王の偽物を倒した様な事を言っていた気がする。


「そういえば魔女が勇者だった頃に倒したのは何なんですか?」

「ユレアちゃんが倒しそうになった相手は紛れもなく魔王本人です」

「はっ!?」


私は魔王本人よりも、その前にユレアちゃんって誰? って思っていたが魔女の名前だった。

魔王討伐ゲームを順調に進めていた魔王だったが、そんな魔王にも予想外の人物が現れた、人の身でありながら魔王を圧倒し魔王を滅ぼし欠けた魔女の存在、あの時魔女が戦っていたのは偽者などではなく紛れも無く本物の魔王だった。殺されると焦った魔王は咄嗟に嘘の真実を部下に語らせ魔女を味方に引き込み更には利用した、これにより更に効率よく勇者の魂を集める事に成功し、更に魔女のお陰で洗脳の影響から『冒涜者』なる者が誕生する事を知った魔王は『冒涜者』撲滅の為に各地に部下を派遣し烙印の呪い制度をも導入し魔王討伐ゲームを揺ぎ無いものにしていったとお姫様が教えてくれた。


「魔女は強かったんですね……」

「魔王も今ほどに強くなかったと言う事もありますが、ユレアちゃんは凄かったです」

「そう言えば魔女の呪いを、お姫様の力で何とか出来ませんか?」

「ユレアちゃんの呪いは魔王が掛けた呪いなので私には何とも出来ません……」


いきなり当てが外れた……かつての魔王を圧倒し、私の危機を救ってくれた魔女の協力があれば魔王の戦いも楽になると思っていたんだが……。その時、お姫様が何かを閃いたのか、思い出したのか、突然。


「私は! お姫様じゃないです!」

「あっ! そうですね、女神様でしたね」


お姫様は私を冷たく見つめ、大きく息を吸い込んで今まで溜まって鬱憤を晴らすかの如く。


「……そうではなくて……。今から想えば、出会った頃から私の事をお姫様お姫様お姫様お姫様お姫様と何度も呼んでいましたよね! 私はお姫様でも女神様でもなくちゃんとした名前があるんです! ラウルさんに会った時にちゃんと名前を言いましたよ! 覚えてますか!?」


危機迫る迫力でお姫様に圧倒された。

でも確かに……私はお姫様の名前を呼んだ事あったか? 一回だけ呼んだ気がする? 私がお姫様の名前を忘れる訳がない。


「でもあれは偽名なんじゃないんですか?」

「確かにスベルニアは偽名ですが、後は本名です!」

「そうですか」

「……って! なんで呼んでくれないんですか!? 本当は忘れているじゃないんですか!?」

「私が好き相手の名前を忘れる訳はありません」


お姫様は少し頬を赤くし、プンとしている、私はその姿がとても愛おしくてなかなか名前を言う気になれなかった。お姫様が諦め欠けた時に不意を突き「ルリ」と呼んだらお姫様は物凄く嬉しそうな表情で満足そうに笑っていた。その後私達は結局、魔王を倒す妙案が浮かばずに魔王城の前で時間だけが過ぎて行った。


「今更ですが、こんな場所で作戦会議してていんですか? この扉の向こうから魔王がいきなり出てきたりしないですよね?」

「…………大丈夫でしょう……多分」


不安になった私は気休めでもいいので魔王城から離れる事をお姫様に提案し、階段を下り、森の出口付近まで戻っていた。そこには意外にも魔女が退屈そうな顔をして座り込んでいた。


「ん? もう戻って来たのか? 随分早いじゃないか? 女神を殺したのか?」

「いえ、ご覧の通り女神様は御健在です」


私はお姫様を魔女の前に見せ、事情を説明した。事情を聞いた魔女は何故か私を物凄く鋭い目つきで睨んでいた。


「私は、魔王に一杯喰わされていたと言う事か……チッ」

「それです、ユレアちゃんはどうやって魔王を倒し欠けたんですか?」

「……お前は私に殺されたい様だな?」


冗談のつもりで言ってみたが、魔女の逆鱗に触れたらしく私の周りは氷の柱で囲まれた。


「ラウルさんを殺す事はたとえユレアちゃんでも私が許しません!」

「……お前等……。それで、何だ? 私が魔王を圧倒した状況が知りたいだと? あれは魔王城にたどり着くまでの間ずっと魔力を貯めていたからだ。どうだ参考になったか?」

「全くなりません……そう言えばおひめさおひめ……ルリも力を貯めて魔王を倒せないんですか?」

「それは無理ですね昔の魔王だったら可能かも知れませんが、今の魔王相手ならユレアちゃんの最大出力でも倒せないと思います」

「……打つ手なしか……」

「簡単な方法があるだろう? お前が女神様を殺せばいい、世界を守る為には多少の犠牲は決まりだろう? それに一人殺せば殺人者、百人殺せば英雄と言うだろう?」


確かにお姫様を犠牲にすれば魔王を倒せるかもしれない。でも、それでは意味がない、お姫様がいない世界など今の私には考えられないから! 魔王を倒す事は世界の命運を左右する問題だ、それに私の個人的な感情が含まれるのは本来なら駄目なのだろう。だが、私は世界の知らない誰かを救う為に魔王に立ち向かえる程にお人よしではないし、そんなお人よしはおとぎ話の英雄や勇者みたいなやつだけだと思う。私は何よりもお姫様を魔王から開放して共に生きる為に魔王に立ち向かう。知らない誰かの為に戦うなんて私には出来ないから。私は魔女に向かいはっきりと真剣な顔でお姫様を犠牲にする方法は絶対に実行しなと言い放った。


「ならばどうするのだ? 現実を見ろ、それ以外に方法はない……それにお前には他の方法を考える時間もないだろう? お前は烙印の呪いがあるんだ、もしお前が呪いで死ねばどの道、お前のお姫様だけでは勝てないだろう?」


そうだ、私には呪いがあるんだ、私が倒れればとり残されたお姫様もやられてしまう、お姫様を殺すしかないのか……本当に、でもそれだけは……。


「……烙印の呪い……? 烙印? そうです! その手がありました!」


何かこの状況を打破する何かを思いついたのかお姫様の顔に明るさが戻っていた。


「なにか思いついたのですか?」

「はい、これなら多分、魔王に勝てます」

「ほう、面白い聞かせてみろ」




















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