第10話「約束の地へ」
木々の切り倒された道を辿り走っている、この先に王様が居る筈だから。しかし王様がもう魔王城に入って居るのならばこの作戦は意味を成さない……でも私は確信している、私達を殺す為に出口付近でわざわざ待っていた王様だ、私達をまだ殺していない状況で魔王城に入るとは思えない。
私の作戦は王様を発見してからが第一の勝負になる私が王様をトラップを仕掛けた場所までおびき寄せれなければこの作戦は失敗する、失敗は私の死を意味する。
木々の切り倒された道は死の森出口付近に繋がっていた、そして王様はそこに居た。私の気配に気付いたのか王様は綴じていた瞼をゆっくりと開いた。
「ようやく、俺に殺される覚悟が出来たのか?」
既に私の作戦は始まっている、此処での失敗は許されない、失敗は死を意味するのだ。私は恐怖感を堪え、相手に悟られぬ様に精一杯に余裕をアピールする。
「あぁ、私は別に逃げた訳ではない……いや、そもそも私には逃げる理由もない」
「逃げた癖に今度は随分と強気じゃないか?」
「王様と戦うのに邪魔な魔女を安全な場所に置いて来ただけだ」
「なるほど、仲間を逃がす為に逃げた、と言う訳か」
「あぁ、王様と魔女の戦いで王様の実力は大体分かったからな」
「ほぅ、その結果足手まといが居なければ俺に勝てると? そう判断したのか?」
「そう言う事だ……」
「面白い、その判断が間違いだと言う事を教えてやろう!」
王様は剣を構え戦闘体制に入った。
少し挑発し過ぎたか? 正直、寿命が縮んだと思う……怖かったと言うより今も怖いです。などと考えている間に王様得意の剣が飛んできた、私は微動だに動く事すら出来ずに向かって来る剣を見つめていた。
「避けぬのか?」
「避ける必要などない」
避けれないのだから当たり前だ! 避けれるのならば喜んで避けている。
その瞬間、剣は私の頬を掠め後ろの木に剣が刺さった音がした。
「貴様は雑魚かと思っていたが……どうやら貴様の方が本命だったか」
よく分からないが王様は勘違いをしている? これは王様に『従魔』を出させるチャンスだ。
「王様、早く本気をだしな、じゃないと死ぬ事になる」
勿論、私が死ぬ。
「面白い、ならば見せてやろう。軍神を」
よし、作戦は順調に進んでいる。
「我が魂に……」
この瞬間、私は全速力で王様に近付き、王様の頬目掛け拳を握りしめ殴り掛かった。
「なんだ? そのパンチは? ふざけているのか?」
全く効いていなかった……やはり私では相手にならないか……やっぱり作戦通りにいこう……。
「フッハハハハ」
「何を笑っている? 壊れたか?」
「私は弱い!」
「だからなんだ?」
「その弱い私から一撃を貰う王様は、どうなんだろう? って思ったら笑いが込み上げて来て……あっ! すみません」
「貴様あぁ!」
王様は怒り狂った形相で私を睨んで襲い掛かかってきた。私はそれを笑いながら逃げる、とにかく逃げる笑いながら。王様を怒らせる為に。
王様は『従魔』の軍神を呼び出し、その肩に乗り再び木々を粉砕しながら軍神が私を猛追してくる、体型に似合わずその速さは私よりも速い?……速いな……踏み潰される? いや、トラップの場所までは逃げ切らなくては……その刹那、軍神の斬撃が私を襲う、ヤバイ死んだ…………あれ? 斬撃は私に触れる事なく空音が鳴る。
「……貴様、何をした?」
王様は神妙な顔付きで言った。私は何もしてませんけど? 王様が勝手に外しただけじゃないの? などと思い立ち止まっていると軍神の巨大な大剣が再び迫ってきた……が私に当たる直前に剣は弾かれた様に軌道を変え地面に突き刺さった。私は何もしていない? 何が起きたんだ? いや、今はそんな事はどうでもいい、逃げなきゃ。
「王様の従魔の狙いが甘かったんじゃないですか? 下手くそぉ」
「貴様ぁあ! 調子にのるなぁ!」
再び森の中で鬼ごっこが開始された。その後、何度か軍神が攻撃してきたがことごとく私に当たる直前で弾かれた様に軌道を反らし、私に当たる事はなかったと言う……不思議な現象に助けられた。
そして遂に、魔女の居る場所に到着し魔女の横まで駆けて行った。
「な……ハァハァ……なんとか成功……」
「後は任せな。お前はそこで私の勝利でも見物しているがいい」
「……そうさせてもらいます」
「ちょこまかと逃げおって! だが、もう終わりだな、まとめて殺してやる!」
私は疲れ果てその場で腰を落ち着かせ、王様を鼻で笑い。
「もう王様、あんたは詰んでいる。そう、チェックメイトだ」
「貴様ぁっぁぁあ! 調子に乗るなぁああ!」
王様は怒り狂い一気に軍神で爆進して来る。
既に勝敗は決している、私が考えた王様攻略作戦、それは落とし穴による二段構えの作戦……。
軍神が一歩進んだところでバァサッ! ガァン! と音が響き、魔女に用意して貰った落とし穴に落ちていた、肩から下が埋まり、軍神は身動きが出来なくなっていた。
「なんだ? これで勝ったつもりか? 所詮、貴様等はこの程度の知恵が精一杯だった様だな」
その瞬間に魔女は今まで貯めていた力の約半分を使い、落とし穴の中とその穴の上空、三百六十度から軍神に向けて巨大な凍の柱を乱射する。王様は咄嗟に軍神の肩から地面に逃れ慌てて軍神を戻し、穴から脱出させ、再び軍神を呼びだした。突如、王様の上空に光の渦から現れ渦の中から見える軍神は鎧の様なボディはひび割れボロボロになりながらもその雄姿は衰えが見えなかった。
「……残念だったな? 今ので俺を倒しきれなかった事をあの世で後悔するのだな」
口では強気に言っていても王様は私達の様子を見て警戒したのか王様の前に軍神を降ろした瞬間にそのまま轟音と共に再び軍神は肩から下が視界から消え、落とし穴に落ちていた。
そう、これこそが二段構えによる落とし穴、先ほどの魔女の攻撃で初めから王様を倒せると思ってはいない、先ほどの攻撃は王様から余裕を奪うのが目的。そして余裕を奪われた王様は慎重になり再び襲われる可能性を考え軍神を盾にする様に王様の前にび呼び出す、と予想をしていた私はその場所にも落とし穴を仕掛けていた。私が王様を挑発し軍神を連れてトラップエリアに誘い込むまでの間、魔女は最大出力までずっと力を貯めていた。
このチャンスを逃さない様に魔女は残りの貯めた力を全て吐き出す。
「集え炎よ、焔と為りて、全てを焼き尽くせ」
魔女の右手から荒々しくバチバチと音をたてながら放たれた炎の塊はやがてその形を龍へと変貌し炎の龍と化した炎が軍神を王様に猛々しく襲い掛かり、軍神の身体を龍の牙が貫き、傷痕は赤く燃え上がり軍神は炎に包まれた。王様にも軍神の痛みが連動しているのか苦痛に顔を歪めながらも、物凄い形相で私達を睨み。
「……貴様等ぁぁぁあ!! ……よくも! よくもやってくれたなぁぁぁあ!!」
「まぁ、少し卑怯な気もするが私の勝ちには変わりない、死ね」
魔女がそう言った途端に炎の龍は王様をその口で飲み込み消えた……王様が消し炭になった瞬間に軍神の姿も粉々になり塵と化した。
二段構えの落とし穴に王様は冷静を失い一瞬隙が生まれる、そこに止めの一撃を魔女が放つ。仮に軍神を戻したとしても、その後ろには王様が居る、そして混乱した状態の王様にこの攻撃を回避するのは難しい。魔女は貯める時間さえあれば王様を倒せる術を放てると言ったから成功した、魔女に頼り切った作戦。もし魔女に王様を一撃で倒し切れる術が無ければこの作戦は成り立たなかっただろう。
「……終わったな」
「……そうですね」
「見事な作戦だったよ……正面から挑めば私は多分、奴に勝てなかった……」
「魔女が強いから勝てたんですよ……私は特に何もしてません」
その後、私達はしばらく戦いの緊張と疲労がピークに達したのか、しばらく動けなかった。そのあと休憩してから軍神に伐採された道を進み魔王城を目指し森を突き進む。木々が倒れたせいなのか太陽の陽射しが森の中を明るく照らしている。
「この森、随分と明るくなりましたね」
「あいつが暴れてたからだろう。それよりお前、いよいよ魔王城に行くと言うのに随分と余裕があるな」
「ええ、それはもう、何と言っても魔女が一緒ですから」
「残念ながら私はお前と行けるのは森の出口までだ」
えっ? マジっすか? まさか!? さっきの戦闘で力を使い過ぎたとか? それなら待てばいいか。
魔女なしで魔王城に行くのは考えられないから。
「力を使い過ぎたんですか? それなら待ちますよ? 回復するの」
「それもあるが、それよりも私は死の森から出れない呪いがあると言っただろう?」
あっ!? 忘れてた……やばいどうしよう? 私一人となるとかなり心細い。
「どうすればいいんでしょう?」
「知るか。まあ、私もさっきまで忘れていたんだがな……」
……一人でいくしかないのか……まあ、魔王城に行かなくてもいずれ呪いに殺されるし、それなら毒を喰らえば皿までって言うし……行くしかないか。
私達が森の出口に向かい進んでいる前方に石垣で出来た階段が見えてきた。
「どうやら、出口の様だな。じゃ、せいぜい頑張るんだな」
「話をしたいだけなんで、なんとかなるでしょう」
「私は神とやらが、お前の話なんかを聞くとは思えんな」
「私もそんな感じが……」
「冗談だよ。餞別だ、受け取れ」
そう言って魔女に黒い小型ナイフを三本渡された。
「これは?」
「見て分らんのか? ナイフだ」
「それは分りますよ?」
「お前、武器を持っていないだろう?」
「そう言われれば……何もない……」
「死の森に丸腰で来る勇者なんか初めて見たよ。まぁ、持っていて損はないだろう?」
一応、魔女は私の事を心配してくれているのだろう。ならばその行為を無駄にしないためにもここで魔女を不安にさせる事は出来ないな。だから私は堂々とした態度で。
「ありがとう。それじゃ、行ってきます」
「死ぬなよ……」
私は魔王城に続く階段をゆっくりと歩き始めた。階段の左右には青々と茂る木々が咲き誇り、耳を澄ませば鳥のさえずりでも聞こえそうな程に自然があふれている。何事もなく階段を登り切った、そこには眩しいぐらいに太陽の陽射しを浴びた世界、見渡す限りに草原が広がり所々には花も咲いていた。その草原の中央に違和感ありまくりな黒い城が聳え立っていた。あれが魔王城、あれが私が目指してきた場所……私は遂にたどり着いたのだと実感しながら城に向かい歩みを進めていた。
「私は信じていました、ラウルさんなら必ずこの地へ辿り着けると」
魔王城の大きな扉の前から、聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。私は急ぎ扉の前に走っていた、そこには私の良く知る人物が待っていた。