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21. 女の子地獄

 それでも落ちたら死んでしまう。


 ベンは大きく息をつくと、驚かさないようにそっと隣の窓を開け、


「そこのメイドさん、ちょっとおいで」


 と、言って手招きをした。


 するとまるで忍者みたいにメイドはするすると窓枠に降り立ち、嬉しそうに入ってくる。赤毛をきれいに編み込み、笑顔の可愛い女の子だった。


「私、選んでもらえたんですね!」


 女の子は手を組んでキラキラとした笑顔を浮かべる。


「残念ながら君は失格! 命がけのアプローチは今後反則とする!」


 ベンは毅然(きぜん)とした態度で言い放った。


「そ、そんなぁ……。私、まだ処女なんです。病気もありません。しっかりご奉仕します!」


 女の子は必死にアピールするが、そんなアピールはベンには重いだけだった。


「いいから、今日は営業終了。早く出て行って!」


「は、母が病気なんです! クスリを買わないと死んでしまうんです!」


 女の子はベンの手を取ってすがってくる。


 一体なぜこんなことになってしまったのかわからず、ベンは思わず宙を仰いだ。自分がエッチをすると人助けになる。エッチってそういうモノだっただろうか?


 ベンはクラクラする頭を両手で支え、大きくため息をついて言った。


「お母さんの件は残念だが、それを僕に言われても……」


 すると、女子は急にベンに抱き着き、


「私ってそんなに魅力……ないですか?」


 そう言ってウルウルとした瞳でベンを見つめる。


 甘酸っぱくやわらかな女の子の香りがふんわりとベンを包み、ベンは目を白黒させた。


 そして女の子は器用にシュルシュルとメイド服のひもをほどき、脱ぎ始める。


「ストップ! スト――――ップ!!」


 ベンはそう叫ぶと、女の子をドアまで引っ張っていって追い出す。


「えー! ちょっとだけ! ちょっとだけですからぁ!」


 そう言ってすがる彼女の手を振り切って、


「今日はこれまで! 明日、ちゃんと話をしよう」


 そう言ってドアをバタンと閉めた。


 はぁぁぁ……。


 ベンはよろよろとベッドまで歩くと倒れ込み、海よりも深いため息をついた。


 異世界でハーレム。それは男の夢だと思っていたが、実際になってみるとそんな楽しい話では全然なかった。金のために女の子たちは必死になり、行為をしたら計算され、街の予算から彼女たちに支払われる。


 そして、大真面目な会議の席で、


『ベンの慰安費が今月は多いのではないか?』『いやいやもっとヤってもらわないと』『この子を気に入ったようですな』


 などとプライベートが議論されてしまうのだろう。最悪だ。


 もちろん、あんなに可愛い女の子とイチャイチャできるならいいじゃないか、という考え方もあるが、『母の薬のために抱かれているんだこの娘は』ということを考えてしまったら、もう楽しむことなんてできなくなってしまう。


 あぁ、なんて不器用なんだろう……。


 その晩、ベンは薄暗い天井を見つめながら何度もため息をつき、眠れない夜を過ごした。



      ◇



 翌朝、目が覚めると、もうすでに陽はのぼり、レースのカーテンには燦燦(さんさん)と光が差し、明るく輝いていた。


 ふかふかで巨大なベッド。先日までドミトリーのせんべい布団で寝ていたので、こんなフカフカなベッドは居心地が悪い。


 ふぁ~ぁ……。


 ベンは寝ぼけ眼をこすり、トイレに行こうと立ち上がる。


 ベッド変えてもらおうかなぁ……。


 ドアを開けた。


「ご主人様、おはようございます!」

「ご主人様、おはようございます!」

「ご主人様、おはようございます!」

「ご主人様、おはようございます!」

「ご主人様、おはようございます!」

「ご主人様、おはようございます!」


 なんと、メイドたちがずらっと並んで頭を下げている。


 ベンは固まった。


 彼女たちはずっとここで背筋を伸ばしながら自分の起床を待っていたのだ。きっと何時間も。一体この地獄はどこまで続いているのだろうか?


「お、おはよう」


 ベンはうんざりしながらそう言うと、トイレへと歩き出した。


 するとなぜか全員ついてくる。


「ちょ、ちょっとまって! 君たちなんでついてくるの?」


「ご主人様のお(しも)のお世話も私たちの仕事ですので」


 メイドはニコッと笑って答える。


「大丈夫! トイレは一人でやる。いいね? 君たちは食堂に行ってなさい」


 ベンはそう言ってメイドたちを追い払い、急いでトイレに駆け込む。


 便器に腰かけたベンは、まるでロダンの『考える人』のように苦悩の表情を浮かべながら、このとんでもない新生活を憂えた。

















22. 魔物の津波


 自宅では気が休まらないので早めに宮殿に出勤するベン。


 宮殿はまだ焼け跡が残り、痛々しいが、夜通し復旧作業が進んでいるようで、日々少しずつ綺麗になっている。


「それにしてもあのメイドたちどうしようかな? ベネデッタさんに知られたら軽蔑されるよなぁ……」


 ベンがつぶやいていると、


「あら? あたくしが何ですって?」


 そう言ってベネデッタが後ろからいきなりベンの腕をつかんだ。


「うわぁ! お、おはようございます。いや、ベネデッタさんを失望させないようにしないとなって、思ってまして……はい」


 ベンは目を白黒させ、冷や汗を流しながらごまかす。


「あら、ベン君は私の命の恩人、失望なんていたしませんわ」


 そう言って碧眼をキラキラと輝かせながら最高の笑顔を見せる。


 ベンはドキッとしながら、


「そ、そうですか。そ、それは良かった」


 と言って、頬を赤らめた。


 その時、向こうから手を振りながら誰かが駆けてくる。


「顧問! 大変です!」


 それは班長だった。班長は青い顔しながらダッシュでやってきて、悲痛な面持ちで言う。


「魔物が約一万匹、トゥチューラを目指しているという報告がありました」


「一万!?」


 ベンは青くなった。トゥチューラの兵は数千人しかいない。一万はトゥチューラの存亡にかかわる事態だった。今から王都に救援依頼を送っても到着までには何日もかかるだろう。自分たちで一万の魔物の軍勢を対処しなくてはならなくなった。


「ベン君どうしよう!?」


 ベネデッタが眉間にしわを寄せて不安げにベンを見る。その美しい(あお)い瞳にはうっすらと涙が浮かび、ベンの心は大きく揺さぶられた。


 ベンにしてみたら逃げるのが最善である。命がけで戦うメリットなどない。ひとり身の気楽な身分だから、他の街に移住してしまえばいい。


 でも……。彼女を見捨てて逃げる? 本当に?


 ベンは首をブンブンと振り、大きく息をついた。


 そして、覚悟を決め、


「大丈夫、任せてください」


 と、ニッコリと笑って見せた。


 前世でもこうやってトラブルの度に最前線で対応して命を削り、結果過労死してしまったわけだが、それは今世でも変わらない。お人好しでクソ真面目。でも、ベンはそれでいいと思った。こんな素敵な女の子に頼られて、それでも見捨てて逃げるような人生には何の価値もないのだ。


 とはいうものの、一万の軍勢には一万倍の【便意ブースト】では足りないだろう。ベンは未知の領域、十万倍を目指さねばならなくなってしまった。


 そして、それがもたらす苦痛を想像し、気が遠くなって思わず宙を仰いだ。



       ◇



 城壁の上に立ってみると、一面の麦畑の揺らめく陽炎の向こうに無数の黒い点がうごめいて、こちらに迫っていた。なるほどあれが魔物に違いない。


 あんな津波のような暴力がこの街を洗ったら滅亡は必至だった。


 兵士たちはたくさんの石を城壁の上に運び上げているが、顔色は悪い。城門に群がってくる魔物を上から石を投げて倒していくという作戦らしいが、さすがにこれでは一万には耐えられない。


 もちろん、弓兵も魔法使いもいるが、数百ならともかく、一万という数字は圧倒的な力をもって兵士たちの心を蝕んでいく。


 兵士たちは口々に不安をささやきあっており、士気は地に落ち、状況は非常にまずい。



 やがて魔物たちは、城門近くの麦畑に集結し、


 ギャウギャウ! グギャァァァ!


 と、口々に奇怪な叫び声をあげ、威圧してくる。


 そして、骸骨の馬(スケルトンホース)に乗った巨体の魔人がカッポカッポとゴブリンたちを蹴散らしながら先頭に出てきた。


 何をするのだろうかとベン達も、城壁の兵達も固唾を飲んで様子を見守る。


 すると、魔人は大声を張り上げた。


「おい! 人間ども! 我は魔王軍四天王が一人【フルカス】! ベンとやらをだせ!」


 ベンは思わず天を仰いだ。


 あの魔法使い、四天王のナアマの伝言を聞いてやってきたのだろう。あの時、瞬殺できなかったことが悔やまれる。


 ベンは大きく深呼吸をすると、不安げなベネデッタの肩をポンポンと叩き、


「ちょっと準備してくる。瞬殺してやるから安心していいよ」


 と、ニコッと笑った。


 ただ、そうは言ったものの十万倍は未知の領域。ベン自身自信はなかった。ただ、今はこう言い切る以外道が無いのだ。


 その時だった、


「ハーッハッハッハー! ベンなど待たずとも、この勇者が相手してやろう!」


 と、勇者の声が響き渡った。


 ベンに倒されて人気急降下の勇者としては信頼回復の好機だったのだ。フルカスさえ倒せば英雄の座を取り戻せる。勇者は必死だった。







23. 絶対に負けられない戦い


 見下ろすと、勇者とタンク役が馬に乗ってカッポカッポと魔人の方を目指し、悠然と進行しているのが見える。


「おぉぉ、勇者様だ!」「勇者様が来てくれたぞ――――!」


 一気に沸き立つ兵士たち。


 それは絶望的な状況に差した一筋の光明だった。



「勇者? お前がベンの代わりになどなる訳ないだろう」


 魔人はあざける。


「ほざけ! 貴様など聖剣のサビにしてくれる!」


 そう言うと、勇者は聖剣をスラリと抜き、空に掲げてフンと気合を入れる。刀身には幻獣模様の真紅の煌めきがブワッと浮かび上がった。


 うぉぉぉぉ! 勇者様――――!


 兵士たちはこぶしを突き上げ、一気に盛り上がる。


 しかし、フルカスはバカにしたように鼻で笑うと、


「聖剣は見事だが、貴様には過ぎたものだ」


 そう言って、空中に黒いもやもやの球を浮かべると、それを勇者に投げつけた。


 黒い球はゆるい放物線を描きながら勇者に迫る。


「うわっ! なんだそりゃ!?」


 勇者は球を聖剣で一刀両断に切り裂くが、手ごたえ無く、球はそのまま勇者の顔面を直撃する。


 ぶわっ!


 まるで泥団子を食らったように、球のかけらは勇者の全身にへばりついた。そして、モゾモゾと、動き始める。なんと、球は毛虫の魔物の集合体だったのだ。


「ひ、ひぃ! な、何だこれは!?」


 あわてて払い落そうとする勇者だったが、毛虫の数は膨大だ。どんなに払い落としても払い落としきれない。


 やがてモゾモゾと多くの毛虫が勇者のプレートアーマーの隙間からどんどんと中へと入っていってしまう。


「ふひゃひゃひゃ! くすぐったい! やめろ! ひぃ!」


 勇者はあがくが、侵入されてしまった毛虫にはなすすべがない。


 やがて毛虫は下着を食い尽くし、プレートアーマーの金具を食いちぎっていく。


 プレートアーマーはついにはバラバラになって、ガコン! と音を立てて地面に散らばっていった。


 馬上には素っ裸の勇者だけが残される。


 勇者は口をパクパクさせ、無様に縮みあがった。


「がーっはっはっは! 随分貧相な身体だな」


 フルカスは笑い、一万の魔物の群れも、


 ゲハゲハゲハ! グギャァァ! ギャッギャッギャッ!


 と、大声で笑い始める。


「次は毛虫たちにお前の身体を食い荒らすように指令してやろうか?」


 フルカスはニヤニヤしながら言った。


 勇者は真っ赤になって、


「くぅ! 卑怯者! おぼえてろぉ!」


 と、捨て台詞を残して逃げ出してしまった。


「口ほどにもない。クハハハハ!」


 フルカスはあざ笑う。


 一万匹の魔物たちも、


 ギャッギャッギャー! フゴッフゴッ!


 と、口々に奇怪な笑い声をたてながら愉快そうに笑った。


 人類最強のはずの勇者が刃を交えることもできず、あっさりと敗退してしまった。城壁の上の兵たちは皆真っ青な顔をしてお互いの顔を見つめ合う。


 切り札であるところの騎士団顧問のベンという少年は、本当にあんな魔人に勝てるのだろうか? 勝てたとして、残り一万の魔物はどうするのか?


 どう考えても勝算のない戦いに、兵たちは逃げたくてたまらなくなるのを必死にこらえていた。


 ベンは勇者の敗退を見て静かにうなずくと天幕に入る。もはやこの街に住む十万人の命運は自分の便意にかかっているのだ。


 ベンは大きく息をつくと覚悟を決め、水筒をお尻にあてがった。



       ◇



「お待ちどうさま……」


 ベンはよろよろしながら天幕から戻る。新型の水筒二本で一気に高めた便意はすでに一万倍に達していた。


 しかし、一万では足りない。もう一声、十万に達さねばならなかった。


 ぐぅ、ぎゅるぎゅるぎゅる――――!


 ベンの腸は猛り狂いながら肛門を攻めてくる。


 ぐふぅ……。


 ベンは顔を歪め(ひざ)をつく。一気に水筒二本はヤバすぎる。かつてない猛烈な便意にベンの肛門は崩壊寸前だった。


 しかし、トゥチューラの街の人たちの命がかかっているのだ。絶対暴発などできない。


 ベンは脂汗を垂らしながら必死に括約筋に喝を入れ、何とか腸が落ち着くのを待った。


「ベン君、だいじょうぶですの?」


 ベネデッタは声をかけるが、ベンはギュッと目をつぶって奥歯をかみしめるばかりで返事ができなかった。


 漏れる……、漏れる……。


 顔をゆがめ、激しい便意と戦っているベンにベネデッタは神聖魔法をかけた。


 ベンの身体はほのかに黄金の光を纏い、少しだけ苦痛を和らげてくれる。


 しかしどんなに待っても十万倍の表示は来なかった。このままではトゥチューラの陥落は必至だ。


「おい! 早くベンを出せ! 出さなきゃその城壁ぶち抜いて皆殺しにするぞ!」


 魔人は煽ってくる。


 くぅぅぅ……。


 ベンは覚悟を決め、ポケットから下剤を出した。


 ただでさえ限界近いのにさらに下剤。それはまさに自殺行為である。


 だが、多くの人の命には代えられない。ベンは目をつぶって一気飲みをした。


 ゴホッゴホッ!


 強烈な悪臭が口の中に広がり、思わずむせてしまう。


 やがてやってくる強烈な便意の第二弾。


 水筒の水でパンパンになった腸に下剤がパワーを与え、ここぞとばかりに絞り出しにかかる。


 ぐぉぉぉぉ。


 ベンは四つん這いになって、必死に便意に耐えた。


 漏れる……、漏れる……、漏れる……、漏れる……。


 ここがトゥチューラの存亡をかけた勝負どころ。絶対に負けられない戦いが今、ベンの肛門で繰り広げられていたのだ。


 そんなことを全く理解できない周囲の人たちは、狂ってしまいそうになるベンに何もできず、オロオロとしながら、ただ見守るばかりだった。












24. 大いなる代償


 ポロン! 『×100000』。


 ついにやってきた、前人未到の十万倍。


 しかしベンの肛門は暴発寸前だった。


 痛たたたた……。


 ほんの些細な衝撃でもバーストしてしまう極限の状態で必死に耐えるベン。まさにここが破滅か勝利かを決める天王山。ベンは全力で括約筋を振り絞った。


 やがて少しだけ波が引き、腸が落ち着いてくる。


 そのすきに冷汗を垂らしながらユラリと立ち上がると、真っ青な顔で魔物たちの方によろよろと腕を伸ばす。


「ファ、ファイヤーボール……」


 ベンはボソッとつぶやいた。


 ベネデッタは耳を疑う。ファイヤーボールとは子供が練習に使う初級魔法で、魔物を(たお)すのに使えるようなものじゃなかったのだ。


 しかし、いきなり空中に数十メートルの超巨大な円が魔物に向けて描かれ、不気味に赤く光り輝いた。


 えっ?


 周りの人は何が起こったのか分からなかった。


 やがて円の内側には六(ぼう)星が描かれ、ルーン文字が精緻に書き加えられ、さらに小さな円が数十個、円の中に追加され、そこにも六芒星とルーン文字が書き込まれていった。


 いまだかつて誰も見たことのない魔法陣だった。その圧倒的なスケールの魔法陣から灼熱の巨大な球が、ゴゴゴゴと腹に響く重低音を放ちながら生み出されていく。


 魔物も兵たちも一体何が起こったのか分からなかったが、その圧倒的なエネルギーに皆、青ざめた顔で冷や汗を浮かべていた。


「に、逃げろ――――!!」


 フルカスは真っ青な顔をして叫ぶと、スケルトンホースに鞭を入れてゴブリンを踏みつぶしながら一目散に逃げだしていった。


 直後、巨大な炎の球は激しい閃光を放つとパウッ! という衝撃音とともに吹っ飛んでいく。そして、逃げ惑う魔物たちの群れの真ん中で炸裂した。


 天と地は激しい光と熱線に覆われ、直後、衝撃波が辺り一帯を襲った。


 城壁は倒れんばかりに揺れて(やぐら)の屋根が吹き飛び、街道の木々は蒸発していく。


 うわぁぁぁ! ひぃぃぃ!


 兵士たちは皆倒れ込み、まるでこの世の終わりのような圧倒的なエネルギーの奔流(ほんりゅう)に恐怖で動けなくなった。


 やがて、巨大な灼熱のキノコ雲が辺りに熱を放ちながら上空へと舞い上がっていく。その禍々しいさまは、まるでこの世の終わりかのようであった。


 熱線で蒸発した麦畑には巨大なクレーターが出現し、魔物など、一匹も残っていない。ただ、荒涼とした死の大地が広がるばかりだった。


 高く舞い上がるオレンジ色に輝くキノコ雲を見上げながら、兵士たちは魔物よりはるかに恐ろしい圧倒的な暴力に、恐怖でガタガタと震える。ベンの破壊力は人間や魔物とは異次元の領域に達しており、神話に伝わる神の営みそのものだった。


 騎士団顧問の少年ベン、その名は圧倒的恐怖の象徴として兵士たちの胸に刻み込まれ、新たな神話の一ページに加わることとなる。


 ベネデッタもベンのすさまじい魔法に圧倒されていたが、横でベンが倒れてとんでもない事になっているのに気が付いた。


 ブピュッ! ビュルビュルビュ――――。


 ベンは意識を失い痙攣(けいれん)しながら肛門から異様な音を上げていた。それはまるで先日の勇者の姿を思い出させる。


「ベン君! ベン君!」


 ベネデッタは声をかけるが、ベンは反応しない。


「救護班! 救護班、急いで!」


 ベネデッタは叫び、ベンは毛布にくるまれ、担架で運ばれていった。



         ◇



「あ、あれ? ここは……」


 ベンが目覚めると清潔な真っ白い天井が見えた。


 そして横を見ると、ベッドの脇にはキラキラとしたブロンドの髪に透き通るような美しい寝顔……、ベネデッタだった。ベンの手を握り、うつらうつらしている。


 えっ!? これはいったいどういうこと?


 ベンは焦って記憶を掘りおこす。確か魔物の群れに向けてファイヤーボールを放ったような……。そこから先の記憶がない。


 えっ!? まさか!?


 ベンは急いで自分のお尻をチェックする。乾いた高級なシルクの手触り。誰かに着替えさせられていた。これは暴発を処理されたということを意味している。


 やっちまった……、うぁぁぁ……。


 ベンは頭を抱え、毛布の中で丸くなった。


 今まで、どんな時でも最後まで死守した肛門。しかし今回ついに突破されてしまったのだ。


 ベンはその底知れない敗北感に気が遠くなっていく。


「あ、気が付かれましたの?」


 ベネデッタが起きてニコッと笑った。


「はっ、はい! こ、ここは……どこですか?」


 ベンは急いで体を起こし、冷汗を流しながら聞いた。


「ここは宮殿の救護室ですわ。城壁でベン君、倒れちゃったからここに運ばせましたの。それで……、シアン様からすべて聞きましたわ」


「えっ!? 全てって……もしかして……」


 ベンは真っ青になる。便意を我慢して強くなるなんて、絶対女の子には知られたくなったのだ。


「そんな辛い目に遭っていたなんて、あたくし、全然知らなくて……。ごめんなさい。トゥチューラのために……、ありがとう」


 ベネデッタはそう言ってギュッとベンの手を握った。


 その言葉にベンの中で何かが(せき)を切ったようにあふれ出し、思わず泣き崩れる。


 ひぐっ! うぅぅぅ……。


 ベンの目から大粒の涙がぽたぽたと落ちた。


 ベネデッタはそんなベンを心配そうにハグし、


「辛かったですのね」


 と、言いながら優しくベンの頭をなでた。


 ベンはうなずき、今までの苦しい便意との戦い、理解されない孤独で凍り付いてしまっていた心がゆっくりと溶けていくのを感じていた。


 ふんわりと立ち上る優しい甘い香りに包まれ、ベンは温かいもの満たされていく。


 思い返せば前世のブラック企業で延々と深夜まで激務をこなし、文字通り命を削っていたのだが、感謝されたことも謝られたこともなかった。どこか『自分なんてどうせ』と卑屈に思い、低い自己評価でそんな状況を受け入れてしまっていたのだ。しかし、そんな状況が続けば、心が硬直化してしまう。ベンの心は死にそうになりながら、ずっとこれを待っていたのかもしれない。


 ベネデッタの思いやりのこもった一言は、前世から続くベンの心の奥底のひずみを優しくゆっくりと癒し、ベンはとめどなく湧いてくる涙でトラウマを洗い流していった。


 心は三十代のベンからしたらベネデッタは子供なのだが、今のベンには年齢などもはやどうでも良くなっていた。


 ポトポトと自らの服に落ちる涙を、ベネデッタは厭うこともなく、ほほ笑みながら優しくベンの背中をなで続ける。それはまるで聖女のもたらす無限の愛のようであった。















25. 天空の城


 ベンが落ち着くと、ベネデッタは宝石に彩られた煌びやかなカギをベンに渡して言った。


「シアン様からこれ預かりましたの」


 えっ?


 ベンはその豪華で重厚なカギを眺め、首をかしげる。カギの持ち手の所には大きな赤いルビーを中心に無数のダイヤモンドが煌めき、アクセントにサファイアが随所に青い輝きを与えていた。


「魔王城のカギだそうですわ」


「ま、魔王城!?」


 ベンは目を丸くしてカギに見入る。魔王城なんておとぎ話に出てくるファンタジーな存在だとばかり思っていたのに、実在していたのだ。


 確かにカギの金属部分には無数に精緻な幾何学模様の筋が走り、ただ事ではない凄みを放っている。


「魔王がベン君に会いたいそうなんですわ。でも……、無理して会わなくても良いのですよ。ベン君があんなにつらい思いをしてみんなを救う必要なんて、無いと思いますわ」


 ベネデッタは心配そうにベンを見つめながら言った。


 ベンは幾何学模様の筋をそっとなでながら考える。先日シアンは言っていた。この星が消滅の危機にあり、自分なら解決できると。きっとその話なのだろう。


 この世界が滅ぶ運命ならそれでいいんじゃないか、そんなの一般人の自分には関係ない。


 シアンの自分勝手な進め方に、ふと、そんな思いも頭をよぎる。


 顔を上げると、ベネデッタは眉を寄せ、伏し目がちにベンを見ていた。その碧い瞳にはうっすらと涙が浮かび、ベンをいたわる気持ちが伝わってくる。


 ベンはそんなベネデッタを見て、心の奥に鈍い痛みを覚えた。自分の意地とかこだわりがこの女の子の命を奪うことになってしまったら、悔やんでも悔やみきれない。世界なんてどうでもいいが、この娘は守らないといけないのだ。


 自分にできる事があるのならやるべきだろう。そもそもこの命はシアンに転生させてもらったのだ。ムカつくおちゃらけた女神ではあるが恩はある。


 ベンはふぅっと大きく息をつくと、


「行きますよ。まず話を聞いてみます」


 と、ニコッと笑って言った。


 すると、ベネデッタは今にも泣きだしそうな表情をして、ゆっくりとうなずいた。



      ◇



 翌朝、ベンはベネデッタの持ってきた魔法のじゅうたんに乗せてもらい、一気にトゥチューラの上空へと飛び上がっていった。


「うわぁ! 凄い景色だ!」


「うふふ、我が家に伝わる秘宝ですの。魔石を燃料にどこまでも飛んでいってくれますのよ」


 ベネデッタは自慢気にそう言いながらさらに高度を上げていく。


 宮殿は見る見るうちに小さくなり、トゥチューラの街全体が一望できる。そこには美しい水路が縦横に走り、朝日を浴びてキラキラと輝いていた。


 魔王城の在りかはカギが教えてくれる。ひもに吊るしたカギは、コンパスのように常に一方向を指し続けていた。


 ベネデッタはそれを見ながらじゅうたんを操作し、軽やかに飛んでいく。暗黒の森をどんどん奥へと進み、丘を越え、小山を越え、稜線を越えていった。


「いやぁ、これはすごいや!」


 ベンはワクワクしながらどんどん後ろへ飛び去って行く風景を楽しむ。


 ベネデッタは風にバタつくブロンドの髪を手で押さえながら、キラキラした目ではしゃぐベンを愛おしそうに見つめた。


 やがて、遠くに岩山の連なる様子が見えてくる。その異質な見慣れない風景にベンは眉をひそめ、運命の時が迫ってくるのを感じた。


 すると、急に濃霧がたち込め、真っ白で何も見えなくなる。


「うわぁ、なんですの、これは……」


 ベネデッタは困惑し、じゅうたんの速度を落とす。急に発生した明らかに異常な濃霧。自然現象というよりは誰かによって生み出された臭いがする。


 ベンはカギの動きをジッと見定めた。すると、変な動きをしているのに気が付く。


「あ、ここは迷路ですね」


「えっ? どういうことですの?」


「この濃霧の中では進む方向を勝手に曲げられてしまうみたいです。なので、ゆっくりとカギの指す方向へ行きましょう」


「わ、分かりましたわ」


 ベネデッタはカギの方向をみながらそろそろと進み、カギが回るとその方向へ舵を取った。


 濃霧の向こう側からは時折不気味な影が迫っては消えていく。その度にベンは下剤の瓶を握りしめ、冷や汗を流した。何らかのセキュリティ機能ということだろうが、実に心臓に悪い。



 急にぱぁっと視界が開けた。


 穏やかな青空のもと、中国の水墨画のような高い岩山がポツポツとそびえる美しい景色が広がっている。そしてその中に、巨大な城がそびえていた。よく見ると、城は宙に浮かぶ小島の上に建っている。


 うわぁ……。すごいですわ……。


 二人はそのファンタジーな世界に息をのむ。


 城は中世ヨーロッパのお城の形をしており、天を衝く尖塔が見事だったが、驚くべきことに城全体はガラスで作られているのだ。漆黒の石を構造材として、全体を青い優美な曲面のガラスが覆い、随所(ずいしょ)にガラスが羽を伸ばすかのような装飾が優雅に施されている。そして、ガラスにはまるで水面で波紋が広がっていくような優美な光のアートが展開され、お城全体がまるで花火大会みたいな雰囲気をまとった芸術作品となっていた。


 その、モダンで独創性あふれる圧倒的存在感に二人は言葉を失う。


 魔王城なんて魔物の総本山であり、汚いドラキュラの城みたいなものがあるのかと思っていたら、極めて未来的な現代アートのような美しい建造物なのだ。


 これが……、魔王の世界……。


 ベンは魔王との会合が想像を超えたものになるだろう予感に、鳥肌がゾワっと立っていくのを感じていた。








26. 懐かしの飲み物


 美しいガラスの彫刻が多数施されたファサード前に静かに着陸した二人は、顔を見合わせ、ゆっくりとうなずきあい、玄関へと歩いていく。


 ガラスづくりなので中は丸見えである。どうやら広いロビーになっているようで、誰もおらず、危険性はなさそうだった。


 玄関の前まで行くと、巨大なガラス戸がシューッと自動的に開く。そして、広大なロビーの全貌(ぜんぼう)が露わになる。それはまるで外資系金融会社のオフィスのエントランスのようなおしゃれな風情で、二人は思わず足を止めた。


 大理石でできた床、中央にそびえるガラスづくりの現代アート、皮張りの高級ソファー。その全てがこの星のクオリティをはるかに超えている。


「こ、これは……、す、すごいですわ……」


 その見たこともない洗練されたインテリアに、ベネデッタは圧倒される。


 もちろん、トゥチューラの宮殿だって豪奢で上質な作りだったが、魔王城は華美な装飾を廃した先にある凄みのあるアートになっており、この国の文化とは一線を画していた。


 魔王って何者なんだろう?


 ベンはガラスの現代アートが静かに光を放つのを眺めながら、眉をひそめる。


 コツコツコツ……。


 ロビー内に靴音が響き、ベネデッタはベンの腕にそっとしがみついた。


 靴音の方を見ると、タキシードを着込んだヤギの魔人が歩いてやってくる。首には蝶ネクタイまでしている。


 近くまで来ると、うやうやしく頭を下げながら言った。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 二人は怪訝そうな顔で見つめあったが、ヤギの所作には洗練されたものがあり、敵意はなさそうだった。うなずきあい、ついていく。


 ヤギの案内した先はシースルーの巨大なシャトルエレベーターだった。こんな立派なエレベーター、日本でも見たことが無い。二人は恐る恐る乗りこんでいく。


 扉が閉まってスゥっと上品に上昇を始める。うららかな日差しが差し込み、外には幻想的な岩山が並んでいるのが見えた。この風景を含め、魔王城はアートとして一つの作品に仕立てられたのだろう。


 エレベーターなんて初めて乗ったベネデッタが、不安そうな顔をしてベンの手を握ってくる。ベンはニコッと笑顔を見せて彼女の手を握り返し、優しくうなずいた。



 チーン!


 最上階につくと、


「こちらにどうぞ」


 と、ヤギに赤じゅうたんの上を案内され、しばらく城内を歩く。


 廊下の随所には難解な現代アートが配され、二人は神妙な面持ちでそれらを見ながら歩いた。


 ヤギは重厚な木製の扉の前に止まると、コンコンとノックをして、


「こちらでございます」


 と、扉を開く。


 そこは日差しの差し込む明るいオフィスのようなフロアだった。


「えっ!? ここですの?」


 ベネデッタは驚いて目を丸くする。


 ウッドパネルの床に観葉植物、上質な会議テーブルにキャビネット、そして天井からぶら下がる雲のような優しい光の照明、全てがおしゃれで洗練された空間だった。


 見回すと、奥の方にまるで証券トレーダーのように大画面をたくさん並べて画面をにらんでいる太った男がいた。


「え? あれが魔王?」


 ベンはベネデッタと顔を見合わせ首をかしげた。


 魔物の頂点に立つ魔王が、なぜ証券トレーダーみたいなことをやっているのか全く理解できない。


 恐る恐る近づいていくと、男は椅子をくるっと回して振り返った。そしてにこやかに、


「やぁいらっしゃい。悪いね、こんなところまで来てもらって」


 と、にこやかに笑う。丸い眼鏡をした人懐っこそうな魔王は、手にはコーラのデカいペットボトルを握っている。


「コ、コーラ!?」


 ベンは仰天した。それは前世では毎日のように飲んでいた懐かしの炭酸飲料。それがなぜこの世界にあるのだろうか?


「あ、コーラ飲みたい? そこの冷蔵庫にあるから飲んでいいよ」


 そう言って魔王は指さしながらコーラをラッパ飲みした。


 ベンは速足で巨大な銀色の業務用冷蔵庫まで行ってドアを開けた。中にはコーラがずらりと並び、冷蔵庫には厨房用機器メーカー『HOSHIZAKI』のロゴが入っている。


 ベンは唖然とした。異世界に転生してすっかり異世界になじんだというのに、目の前に広がるのは日本そのものだった。


 トゥチューラでの暮らしは、良くも悪くも刺激のない田舎暮らしである。秒単位でスマホから流れ出す刺激情報の洪水を浴び続ける日本での暮らしと比べたら、いたってのどかなものだ。しかし、今この目の前にあるHOSHIZAKIの冷蔵庫は、日本での刺激あふれる暮らしの記憶を呼び起こし、ベンは思わずブルっと震えた。


「これは何ですの?」


 ベネデッタが追いかけてきて聞く。


 しかし、ベンは回答に(きゅう)した。ちゃんと説明しようとすると、自分が転生者であることも言わないとならない。それは言ってしまっていいものだろうか?


 ベンは大きく息をつくと、


「とあるところで飲まれている炭酸飲料だよ。飲んでみる?」


 そうごまかしながら一本彼女に渡す。


「炭酸……? うわっ! 冷たい」


 ベネデッタはその冷たさに驚き、そして、初めて見たペットボトルに開け方も分からず、困惑しきっていた。







27. 目覚めるベン


 二人は重厚な革張りのソファーに案内された。新鮮な革のいい匂いがふわっと上がり、座り心地も上々だった。


 ベンはコーラをグッと傾ける。


 シュワーー! と口の中に広がる炭酸、スパイシーなフレイバーが鼻に抜け、舌に広がる甘味……。ベンは思わず目をつぶり、その懐かしの味をゆっくりと味わった。そう、これ、これなのだ。日本での暮らしがフラッシュバックし、思わず目頭が熱くなる。


 最後はブラック企業に潰されてしまったが、日本でのラノベ、アニメ、ジャンクフード、それはベンの身体の一部となっているのだ。


 久しぶりに出会えたジャンクな味にベンは言葉を失い、ただその味覚に呼び覚まされる日本での暮らしを懐かしく思い出していった。


 ゴホッゴホッ!


 隣でベネデッタがせき込んでいる。


「あ、無理して飲まなくていいですよ。ジャンクな飲み物なのでお口に合わないかと」


 するとベネデッタは渋い顔をしながらコーラをテーブルに戻した。


「はははっ、いきなりコーラは難しかったかな?」


 魔王がやってきて向かいにズシンと座った。なつかしい【笑い男】の青く丸いマークのプリントされたTシャツをラフにはおり、ジーンズをはいている。


「あなたが魔物の頂点、魔王……なんですか?」


 ベンは困惑しながらも切り出した。コーラを大好きな日本アニメのファンが、人類の脅威であるところの魔物たちのトップというのは、どう考えても結びつかない。


 すると、魔王は愉快そうに笑って言った。


「いかにも魔王だが、頂点って言うのは違うな。魔物の管理者だよ」


「管理者……?」


 ベンは何を言われたのか分からなかった。


「見てみるかい?」


 そう言うと、魔王は巨大な画面を空中に展開した。そこには広大な地図と無数の赤い点が映っている。そして、魔王は両手で地図を拡大していき、


「この点が魔物なんだよね」


 と言いながら、そのうちの一つの点をタップした。

 

 するといきなり画面は森の中の映像となり、真ん中にゴブリンがうろついている。周りにはウインドウが開き、各種パラメーターが並んでいた。その画面は日本にいた時に遊んでいたVRMMOのゲーム画面そのものに見える。


「まるで……、ゲームですね……」


 ベンは眉をひそめながら言った。


「うんまぁ仕組みは一緒だね」


 そう言いながら魔王はゴブリンのパラメーターをいじっていく。すると、ゴブリンはどんどん大きくなり、ボン! と音がして筋骨隆々としたホブゴブリンへと進化した。


 ベンは唖然とした。魔物はこうやって管理されていたのだ。なぜ魔物は倒すと消えて魔石になってしまうのだろう、とずっと不思議に思っていたが、ついに謎が解けた。魔物はいわばNPCなのだ。コンピューターシステムが生み出したキャラクターであり、生き物ではないのだ。


 だが、ここでベンは背筋にゾクッと冷たいものが走るのを感じた。NPCが居るということは、この世界は造られた世界なのではないだろうか? 言わばこの世界全体がVRMMOのようなコンピューターによって創られた世界……。


 バカな……。


 ベンは急いで自分の手のひらを見てみた。細かく刻まれたしわ、そしてそれを縫うように展開される指紋の筋、その奥の青や赤の微細な血管。それらは指が動くたびにしなやかに変形し様相を変えていく。こんな芸当ができるVRMMOなんてありえない。ベンはグッとこぶしを握った。


 しかし、ここで嫌なことを思い出す。自分は一度死んでいたのだ。死んだ者が生き返る、それは明らかに自然の摂理(せつり)から逸脱(いつだつ)した行為である。つまり、自分自身そのものが自然の法則を破っている証拠になってしまっているのだ。ベンはその事実に愕然(がくぜん)となった。


「どうした、ベン君? もう目覚めてしまったかな?」


 魔王はニヤッと笑って言う。


 ベンはうつろな目で首を振り、そして頭を抱えた。


「まぁ、目覚めたかどうかなんてどうでもいい。それより今日はお願いがあってね……」


 そう言いながら、空中を裂き、空間の裂け目からガジェットを取り出すとガン! とテーブルの上に置いた。


 それは金属の輪にプラスチックのアームがニョキっと生えたような代物だった。


「何ですかこれ?」


 ベンはそれを持ち上げてみる。金属の輪は腕時計のベルトのように一か所ガチャっと外せるようになっていた。


「それ、履いてみてくれる?」


 魔王は意味不明なことを言って、コーラをゴクゴクと飲んだ。


 はぁっ!?


 言われて初めて気が付いたが、これは言わばふんどしみたいな物だったのだ。


「ここにボタンがあってね、いざと言う時にここを押すとプラスチックノズルの先から肛門内へ薬剤が噴射されて、一気に便意が高まるという……」


 魔王が説明を始めたが、ベンは頭に血が上ってガン! とガジェットを机に叩きつけた。


「嫌ですよ! なんでこんなもん履かなきゃならないんですか!」


 顔を真っ赤にして怒るベン。


「あー、ゴメンゴメン。話を端折(はしょ)りすぎたな……。そうだ! 今晩恵比寿で焼肉の会食があるんだけど来る?」


 魔王はニコニコしながらとんでもない事を言った。もう久しく聞いていない単語【恵比寿】、【焼肉】にベンは耳を疑った。


「え、恵比寿……!?」


 彼は女神と親交があってコーラを愛飲しているのだ。日本へも行きたい放題には違いない。だが、自分を日本に気軽に招くと言っている。そんなこといいのだろうか?


 ベンはポカンと口を開けたまま言葉を失っていた。






28. スクランブル交差点


「え、恵比寿って……、東京の?」


「そうそう、君にとっては懐かしいだろ?」


 ベンは言葉を失った。


 転生してもう長い。日本へ戻るなんてことはとっくにあきらめていた。自分はトゥチューラで新たな人生を築いていくのだ、とばかり考えていたが、会食で気軽に誘われてしまった。それも恵比寿で焼肉なんて転生前でもなかなか行けなかった所である。


 ベンは手を震わせながら言った。


「そ、そ、そ、それは……ぜひ……」


「その交換条件としてこれ履いてきて欲しいんだよね。背景はその時に説明するからさ」


「え? 履くんですか……?」


 ベンはもう一度ガジェットを持ち上げてしげしげと眺める。こんな人体実験みたいなことに協力するなんてまっぴらゴメンではあるが……、恵比寿の焼肉であれば仕方ないだろうか?


 悩んでいると魔王は追い打ちをかけてくる。


「松坂牛のトモサンカク、その店の看板メニューだよ。どう?」


 トモサンカク!


 ベンはその一言で陥落した。サシの綺麗に入った希少部位。それも松坂牛ならトロットロに違いない。思わず唾が湧いてくる。


 便意を高める方法は複数持っておいた方がいいのは、ダンジョンで痛感したことでもある。こんなガジェットに頼るのは気分いいものではないが、魔王に悪意がある訳ではなさそうだ。ここはありがたくいただいておいてトモサンカクを食べた方がいい。


「分かりました。トモサンカクなら履きますよ」


 ベンはそう言って、ややひきつった顔で笑った。



       ◇



「うわぁ! 何なんですのこれは?」


 渋谷のスクランブル交差点に転送されたベネデッタは、目を真ん丸に見開き、ベンにしがみついて聞いた。


 四方八方から多量の群衆が押し寄せ、ベネデッタのそばをすり抜けていく。目の前には巨大なスクリーンがアイドルの煌びやかなライブを流し、後ろでは山手線や埼京線が次々とガ――――! という轟音を上げながら鉄橋を通過していく。


 ベンにとっては懐かしい東京の雑踏だ。


 戻ってきたぞ! 東京!


 ベンはギュッとこぶしを握り、にぎやかな街の音に胸が熱くなるのを感じる。


 ただ、見慣れないものもある。なんと、超高層ビルが何本もそびえているではないか。いつの間にこんなビルができていたのだろうか?


 やがて赤信号となり、歩行者がいなくなると今度はバスやトラック、タクシーが突っ込んでくる。


 パッパ――――!


 きゃぁ!


「こっちこっち!」


 ベンは急いでベネデッタの手を引いて歩道へと引き上げる。


 ゴォォォ――――。


 上空をボーイングの旅客機が轟音を上げながら羽田への着陸態勢を取って通過していった。そして、目の前をホストクラブの宣伝をするデコレーショントラックが爆音を上げながら通過している。


 ベネデッタは固まってしまう。幌馬車がカッポカッポと石畳の道を歩くような景色しか見てこなかったベネデッタにとって渋谷の景色は刺激が強すぎた。


「ははは、ビックリしたかな? これが日本ですよ」


 ベンはにこやかに言った。


「なんだかとんでもない……街ですわ……。なぜベン君はご存じなの?」


 ベネデッタは眉間にしわを寄せながら聞く。


「それはまたゆっくり話します。まずは……何か美味しいものでも食べましょう!」


 そう言ってベンはベネデッタの手を引きながら歩きだした。


 魔王からは、


『会食までまだ時間あるから渋谷でもブラブラするといい』


 そう言われて、最新型のスマホをもらっている。これで電子決済もできるそうだからベネデッタと渋谷を満喫してやろうと思う。


 適当に喫茶店に入り、ベンはコーヒー、ベネデッタはパフェを頼んだ。


 パステル色の店内は若い人でいっぱいであり、甘酸っぱい匂いに満ちている。


 そう、渋谷ってこういう街だったよなぁ、と、ベンはなつかしさについ目を細めてしまう。



       ◇



 その頃、はるかかなた宇宙で動きがあった。


「んん? この小僧か?」


 小太りの中年男は空中に開いた画面に渋谷のベンを表示し、ジッとのぞきこむ。


 部屋の巨大な窓の向こうには満天の星々がまたたき、下の方には雄大な(あお)い惑星が広がっている。その碧い水平線が巨大な弧を描き、そこからはくっきりとした天の川が立ち上っていた。


 男はベンのステータスを表示し、首をかしげる。


「ステータスはただの一般人……、むしろ貧弱じゃな。こんな小僧使って魔王は何をやるつもりかのう……。ちょっとお手並み拝見してやるか。グフフフフ」


 男はいやらしい笑みを浮かべ、画面をパシパシと叩いていった。














29. ヒュドラ


 ベネデッタのところに運ばれてきたパフェには、虹色の綿菓子が渦を巻きながら立ち上っていて、横にロリポップが刺さっている。その極彩色の見た目にベネデッタは言葉を失う。


「あははは、なんだこれ」


 ベンは思わず笑ってしまう。トゥチューラでは絶対に見られないぶっ飛んだスイーツに、ベンは日本っていいなと改めて思った。


 ベネデッタは恐る恐るフォークで綿菓子を口に入れ、その見た目とは違った優しい甘みに笑みを浮かべる。


 百面相のように表情をコロコロ変えながらパフェと格闘するベネデッタ。ベンはそんな彼女を見つめ、癒されながらコーヒーをすすった。


 トゥチューラにはコーヒーなんてないので、久しぶりの苦みにベンはちょっとくらくらしながら、それでも懐かしの味に思わずにんまりとしてしまう。


「美味しいですわぁ」


 ベネデッタは口の脇にクリームをつけながら微笑み、ベンは静かにうなずいた。


 こんな時間がいつまでも続けばいいのに……。


 若者のエネルギー渦巻く夢のような空間で、大切な人と過ごす時間の愛しさに、思わずベンは涙腺が緩んでしまう。


 前世では毎日通勤で乗り換えていた渋谷。でも、何もできずに死んでしまい、今、異世界経由で初めて愛しい時間の流れに巡り合えたのだった。


        ◇


「ベン君は、この星の人なんですの?」


 パフェを半分くらいやっつけたベネデッタが上目遣いに聞いてくる。


 ベンはコーヒーをすすり、ベネデッタの美しい碧眼を見つめるとゆっくりとうなずいた。


 ベネデッタはふぅ、と大きく息をつくと、


「ベン君は稀人(まれびと)でしたのね……」


 そう言ってうつむいた。


「黙っていてごめんなさい。シアン様に転生させてもらったんです」


 ベネデッタは長いスプーンでサクサクとパフェをつつき、しばらく考え事をする。


 そして、一口アイスを堪能すると、いたずらっ子の目をしてベンを見つめ、ニコッと笑って言った。


「わたくし、ここで暮らすことにしましたわ」


 ベンは何を言ってるのか分からず、ポカンとしてベネデッタを見つめる。


「ここ、日本でしたっけ? 活気があって、いろんな文化にあふれ、最高ですわ。もうトゥチューラになんて戻れませんわ」


 ベネデッタはそう言って店内を見回し、先進的なファッションに身を包んだ若者たちの楽しそうな様子をうっとりと眺めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 公爵令嬢が日本で暮らす……んですか?」


「あら? だめかしら? お父様もベン君と一緒なら認めて下さるわ」


 ベネデッタは訳分からないことを言って、パフェをまたサクサクとつついた。


 ベンは言葉を失った。一緒に日本で暮らすってどういう事だろうか? なぜ、公爵は自分と一緒なら許すのだろうか?


 ん――――?


 ベンは疑問が頭をぐるぐると回って、首を傾げたまま固まる。


 その時だった、腹の底に響くような衝撃音が渋谷一帯を襲った。


 驚いて窓の外を見ると、建設中の超高層ビルの上で何か巨大なものがうごめいている。よく見るとそれは大蛇の首のようなものだった。その首が九本ほど、獲物を探すかのようにウネウネ動きながら渋谷の街を見下ろしていた。首は一つの巨大な胴体に繋がっており、全長はゆうに百メートルはありそうだ。


「あれは何ですの? イベントかしら」


 ベネデッタは緊張感もなく楽しそうに聞いてくる。しかし、日本にあんな魔物などいない。


「違う、緊急事態だ。逃げよう!」


 そう言って、立ち上がった時だった。


 ポン! と音がしてぬいぐるみのシアンが出てくる。


「ベン君! お願いがあるんだけどぉ」


 と、シアンはおねだり声で、ベンの前で手を合わせた。


「嫌です! さぁ、逃げましょう!」


 そう言ってベネデッタの手を引いた。


 すると、シアンは標的を変え、


「ベネデッタちゃん、日本に住みたいよねぇ?」


 と、ベネデッタに声をかける。


「えっ!? いいんですか?」


 パアッと明るい表情をするベネデッタ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! まさかあの化け物倒すのが条件とかじゃないですよね?」


「星の間の移住なんて普通は認められないんだよ?」


 シアンは悪い顔でニヤッと笑って言う。


「なぜ、僕なんですか? シアン様が倒せばいいじゃないですか、女神なんだから瞬殺できるでしょ?」


「んー、今、僕の本体は木星で交戦中なんだな。面倒だから木星ごと蒸発させちゃおうかと思ってるんだけど……」


 シアンはそう言って小首をかしげた。


 ベンは意味不明のことを言われて言葉を失う。木星を蒸発させるようなエネルギー量なら、太陽系そのものが吹っ飛びかねないのではないだろうか?


 その時だった、


 ギュワォォォォ!


 化け物の頭九個が全部ベン達の方を向いて雄たけびを上げる。その重低音は渋谷全体を揺らし、そのすさまじい威圧感に皆、パニックになって走り出した。


「どうやらお目当ては君のようだゾ」


 シアンはニヤッと笑う。その瞳には、子供が新しい遊びを見つけた時のようなワクワク感があふれていた。












30. YES! 百億円!


「えっ!? なんで僕なんですか?」


「悪い奴に見つかったという事かな。そいつ倒したら日本への移住認めるから頑張って」


 シアンは羽をパタパタさせながら嬉しそうに言う。


「え――――、嫌ですよ。日本で暮らすってのも楽じゃないし、絶対やりません!」


 ベンは毅然として断った。ベネデッタは来たいというが、日本に来たら一般人だ。どうやって暮らしていくつもりなのか?


「百億円」


 シアンはニヤッと悪い顔で笑って言った。


「は? 百億……?」


「二人の日本移住時には支度金として百億あげるよ。きゃははは!」


「マ、マジですか……」


 ベンは言葉を失った。百億もあれば大きな家を買って一生のんびり暮らせる。いや、ハワイにパリにニューヨークにあちこちに別荘買って毎日豪遊。そして、マチュピチュにピラミッド、南極に観光に行けてしまう。それもベネデッタと二人で。まさに夢のくらしである。


 便意を我慢するだけで、そんな夢のような生活しちゃっていいのだろうか?


 YES! 百億! 百億!


 ベンは思わずガッツポーズをする。頭の中には札束のイメージがグルグルと巡った。


「や、やります! やらせてください!」


 ベンはパタパタと羽をはばたかせて浮いているシアンの可愛い手を、指先でキュッとつまんで言った。ベンの目には【¥】マークが浮かんでいた。


「うんうん、じゃ、その腰のところのボタン押して」


 シアンは魔王が作ったガジェットを使えと言う。


「わ、わかりました……。これかな?」


 ベンは金属のベルトのところに丸くへこんでいるところのボタンをポチっと押し込んだ。


 バシュッ!


 プラスチックノズルから何かが噴射され、まるで強すぎるウォシュレットのように何かが肛門を越えて入ってきた。


 ふぐっ……。


 ベンは腰が引け、目を白黒させてその異様な感覚に戸惑う。


 ぐー、ぎゅるぎゅるぎゅ――――。


 直後襲ってくる強烈な便意。それは水筒浣腸などとはくらべものにならない強烈で鮮烈な便意だった。


 ぐはぁ……。


 ポロン! ポロン! ポロン! と電子音が続き、一気に『×1000』まで表示が駆けあがる。


 激しい便意に耐えられず、思わず床にへたり込んでしまうベン。


「あれ? 千倍止まりかぁ……」


 シアンは不満げに首をかしげると、ベンのベルトのところまでパタパタと飛び、ボタンをポチっと押し込んだ。


 バシュッ!


 再度強烈な噴射がベンの肛門を襲う。


 ぐわぁぁぁ!!


 悶絶するベン。


「な、何すんだこのクソ女神!!」


 ベンは床でもだえ苦しみながら悪態をつく。


 ポロン! と電子音がして、『×10000』の表示になった。


「うん、これならあの【ヒュドラ】に勝てるねっ」


 シアンは満足げに言うが、ベンは床で脂汗を垂らしながら失神寸前である。


 漏れる……、漏れる……、くぅぅぅ……。


「ベン君!」


 ベネデッタは駆け寄って介抱する。そして、手を組んで祈り、神聖魔法で何とか苦痛を和らげていく。


 シアンはもだえ苦しむベンを見ながら、


「これじゃヒュドラと戦えないなぁ」


 と、腕を組んで首をかしげる。


「ちょ、ちょっとトイレ……」


 ベンはよろよろと立ち上がる。


「ダメだよ! 出しちゃったらヒュドラどうすんのさ! 百億円は払えないよ!」


 他人事のシアンは好き勝手言う。


「こんなんで闘えるわけないだろ!」


 ベンは下腹部を押さえて怒る。


「うーん、困ったなぁ……」


 シアンは眉をひそめ考え込む。


 そして何か(ひらめ)いて、ポン! 手を打つと、


「よし、じゃあ戦わなくていいよ。僕が何とかするから言うとおりにして」


 と言って悪い顔で笑った。


「分かった、何でもいいから早くして!」


 ベンは脂汗を垂らしながら答える。


「まず、飛行魔法をインストールしてあげよう。出血大サービスだよっ!」


 と、いいながら、シアンはベンの身体を青く光らせた。


「これで空も自由自在に飛べるはずさ」


「え? 飛べる?」


「そう。行きたい方向に意識を向けるだけで飛べるんだゾ」


 そう言いながらシアンはベンの身体を不思議な力で持ち上げ、テラスの外へと運んでいく。


「ど、どこに行くの?」


 勝手に運ばれ、焦るベン。


 シアンはロープを出すとベンの腰の金属ベルトに結び、そして、端を金属の手すりに結んだ。


「はい、ヒュドラ向けて浮いて――――」


「いや、ちょっとそれどころじゃない……」


 お腹を押さえて苦悶の表情を浮かべるベン。


 するとシアンはニヤッと笑い、


「ひゃく・おく・えん! ひゃく・おく・えん!」


 と、耳元で囃し立てた。


 くぅぅぅ……。


 ベンは歯を食いしばる。


 そうだ。百億円! 日本でFIREな暮らしを手に入れるのだ。便意ごときに負けてはいられない!


 ベンはお腹を押さえながら行きたい方向をイメージしてみた。


 身体がグンと引っ張られ、ロープがピンと張った。


「お、いいねいいね! あー、もうちょっと右!」


 シアンは片目をつぶりながら飛ぶ方向を指示していく。


「こ、こう……?」


 ベンは何をやらされているのかよく分からなかったが、言うとおりに飛行魔法を調整していった。


「いいねいいね! じゃ、全力だして、一万倍だよ!」


 は、はぁ……?


 ベンは何度か深呼吸を繰り返すと、飛行魔法に意識を集中していった。ロープはものすごい力で引っ張られてビキビキっと音を立てている。


 やがて手すりが引っこ抜けそうになるくらい飛行魔法のエネルギーがたまると、シアンは、


「じゃぁこぶしを伸ばしてー」


 と、言った。


 金属ベルトが下腹部に食い込んでいくのに必死に耐えながら、


「こ、こうですか?」


 と、息も絶え絶えにベンは答えた。


「いいねいいねー! では、いってらっしゃーい! きゃははは!」


 シアンは嬉しそうにロープを手刀でぶった切った。




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