第20話 四天王討伐の影響
古びた城の最奥にある玉座の間。
そこに置かれた玉座に座って目を瞑っていた男が目を開く。
「四天王がやられた」
その言葉は久しぶりに男の口から発せられており、低く掠れていたが玉座の間にいたもう一人は聞き逃さなかった。
「本当ですか?」
「ああ」
「誰がやられたのですか?」
「4人だ」
「全員!?」
まさか四天王の全員が倒されるなど微塵も思っていなかった。
「魔王様は現状をどう思われますか?」
玉座に座っているのは魔王。
そして、隣で立っているのは魔王軍の参謀を務めるアランド。橙色のサラサラな長髪と眼鏡を掛けた青年。
「状況判断ならお前の方が得意だろ」
「いえ、私は失敗しました」
勇者の召喚が行われてから5日。現段階ではレベルが低く、四天王が敗北する要素が存在しない。それでも作戦を立案したアランドは言い様のない不安に駆られていた。だが、結局は勇者の実力から作戦を決行した。
「その作戦を承認したのは魔王である私だ。気にする必要はない」
「ありがとうございます」
魔王に対して頭を下げるアランド。
魔族となって日は浅いが、既に魔王に対して絶対的な忠誠を支配力がなくても抱いていた。
「僭越ながら申し上げますと勇者の手によるものではないと思われます」
「ほう」
「おそらく何らかのイレギュラーな存在がいるかと思われます」
魔王から力を与えられ、卓越した洞察力を持てるようになった参謀でも見抜くことのできない『何か』が王都にいる。
元々、今回の作戦が有用であることは理解していた。それでも心のどこかで反対したい思いを抱いていたのは、言い様のない不安に駆られていたからだ。
そして、その不安は正しかった。
誰が四天王の全員が早々に倒される事態など想定できるか。
「魔王様ならわかるのではないですか?」
「無理だな」
四天王が倒されたことを魔王が知れたのには理由がある。
魔王の手の中に蒼、紅、紫、黄色の輝く球体が現れる。この球体は四天王に魔王が与えた力の核で、与えられた者がなくなると魔王の元へ戻るようになっている。もっとも、与えた力の全てが戻ってくるわけではなく一部だけが戻っていた。
そこから何が起こったのかわからないかとアランドは思った。
「いや、そこまで便利なものではない」
あくまで力の残滓が戻って来ただけ。四天王だった者たちの記憶などは残っていない。
しかし、利用価値はあった。
「次の四天王を作る時に役立ってくれるだろう」
「作れるのですか!?」
てっきり倒されてしまえば終わりだと思っており、次は参謀である自分が戦場へ向かわなければならないと覚悟をしていた。
「当然だ。ただし、4人揃えるには相当な時間が必要になるだろうな」
ただ4人の魔族を用意すればいいわけではない。前回以上の力を持つ魔族を用意できなければ同じ結果になるのはわかり切っていた。
それでいて必要とされるのは純粋な強さ以上の力。
☆ ☆ ☆
「あの人たちは異能を諦めてくれるかな?」
「……無理だろうな」
大ホールに残った異能者5人は、召喚者が出て行った扉を見つめる。
俊也たちから異能の習得の難しさ、使用に伴う苦しみについて説明は受けた。しかし、どちらも言葉ではわかりにくい。表面上は取り繕っても、異能を習得しようと無駄に願い続ける可能性があった。
「そこは答えを聞こう。どうなんだ?」
俊也が詩奈に尋ねる。
彼女は少なくとも異世界で複数回を過ごしている。
「結果から言えば誰も異能の習得に成功しません」
異能は簡単に習得できるようなものではない。
それは、異能者である彼ら自身がよく理解している。
「単純に想いの強さが足りない、そんなことを言ったところで納得するはずがないよな」
ただ強く願うだけでは足りない。
相応の理由があって異能を得られるほどの想いは生まれる。だが、それだけ強い想いだからこそ苦しみも強くなる。
「覚醒しないならそれでいい」
忙しくて後回しにしていたことがある。
「これで、お前の目的は達成されたのか?」
「はい。無事に四天王が全員倒されたことで異なる未来へ進むことができるようになりました」
以前の世界では、俊也と煉が同じ相手と戦っていたが、俊也は能力の相性からスニアラスを放置していた。
結果、最後には重傷を負わせるものの逃がしてしまう、という失態を犯してしまう。
限界まで追い詰められたスニアラスは怯えながらも復讐することに心血を注ぎ、その想いは俊也ではなく他の召喚者へと向けられることとなる。
「情報を得て駆け付けても、いつの間にかいなくなっていることがほとんどです。どれだけわたしの異能で事前に情報を得ていても、まるでそれを見越したように敵は動きを変えます」
スニアラスを倒すチャンスはこの瞬間にしかなかった。
統率者を気取っていたせいか自分が率いることのできる戦力を潰されてしまった後は執拗な存在となってしまった。
「で、これからどう動く?」
四天王は全て倒した。
今後、勇者は各々のやり方でレベルアップを果たして魔王討伐を目指すことになる。
その道程を邪魔するだけのスニアラスは倒された。
「いいえ、四天王は終わりではありません」
「は? だって……」
「四天王、というのは魔族の中で最も強い4人のことです」
「そうか」
「魔王の力で何度でも四天王は補充が可能です」
ただし、補充するにも時間が掛かる。
詩奈の体験によれば1、2ヵ月の間隔で一人ずつ現れる。
「ですが、それを二人の手で倒すわけにはいきません」
「そうだよな。四天王戦って言えば本来ならレベルアップに欠かせない最大クラスのイベントなんだよな」
大量経験値ゲットのチャンス。
今回は絶対に勝てない戦いだった上、得られる経験値を優先して逃がしてしまうと面倒な事態になるため放置するわけにいかなかった。
「とはいえ、大まかには彼らが自分たちの力で成し遂げてくれます」
レベルアップそのものは勇者たちに任せた方がいい。下手に行動を共にしてしまうと異能者と勇者の間にある力の差を感じさせてしまい、逆にやる気を削ぐ結果になりかねない、というのが詩奈の実体験だった。
「ただ、今回はやり過ぎました」
魔王軍にとって最大戦力だった四天王が倒された。
魔王を警戒させるには十分な出来事だし、詩奈は魔王の側近に参謀がいることを察していた。
「向こうは私たちの事を考慮して作戦を立てるはずです」
「そこは仕方ないだろ」
「仕方ない、では済みません。やり直しは可能ですが、こちらの想定を越えた行動をしてくる可能性が高いです」
召喚者を狙い、人質に取る可能性がある。
もしも見捨てなければならない事態になった時点で俊也たちの敗北は確定し、詩奈がやり直すことになる。
やり直せる。
強い力だからこそ、その力の行使には代償が伴う。
「できることならやり直しの回数は抑えたいです。いえ、必要だったら躊躇わずにやり直しますけど……」
「いや、わかっているからいい」
同じ異能者で反対する者はいない。
「今後、起こる事は凡そ知っています」
凡そ、というのは既に詩奈の知っている未来からは大きく逸脱してしまったからだ。
最も類似している未来でも、四天王を3人倒したという世界。
スニアラスの生存。
たった一人の存在が後の出来事に大きく影響しており、あまり参考にならない。
それでも多少の参考にはなる。
「要所は大きく変わらないはずです。これから起きる大きな出来事は私が把握していますので、必要になったら見ることにしましょう」
回避しなければならない事態が起きる可能性は限られている。
「それまでは自由に異世界を謳歌することにしましょう」
「そうだな」
幸いにして元の世界から物資も届いている。
煉の神隠しで送られてきた4枚のポラロイド写真のうちの2枚には食料や衣料が映っていた。
写真に写った物を物質化させて取り出すことができる。
そんな異能を持つ者がいたおかげで、召喚者たちは思い思いの物を手にしてホールを退出していた。
「物資がないと人の心も貧しくなっていくからな。送ってくれるのは非常にありがたい」
これで勇者たちのレベルアップに集中することができる。
☆ ☆ ☆
「なかなかに面白い事になってきたな」
魔王城にある玉座の間を後にしたアランド。長い廊下を歩きながら思わず呟いてしまった。
「魔法やスキルとも全く違った力。どうやら過去へ戻る力を持った者がいるようですね」
詩奈がやり直せることに気付いていた。
だが、アランドは王都の近くで四天王との戦いがどのような結末を迎えたのか詳細を知らない。
それでも彼は理解していた。
「私が得た称号は『白光』。攻撃に利用できる光、そして遠くまで見通す光の目によって様々な事を知り、作戦立案に役立てることができる」
そうアランドも理解していた。
しかし、詩奈のおかげで自分の能力の本当の使い方に気付かされてしまった。
「なるほど。これが異能というものですか」
アランドの瞳が銀色の光を放つ。
「随分と恥を掻かせてくれたものだ」
参謀として四天王を失う事態など看過できない。
アランドの責任ではないが、それでも他の者から攻められるのは避けられない。
「今度はこちらが異能を使わせてもらう番だ」
これにてプロローグ部分『気ままに初っ端で四天王を倒してしまおう』が終わりです。
次の機会があったら続きを書きたいと思います。




